「踊る一寸法師」6 江戸川乱歩
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問題文
(まめぞうとおはな、びじんごくもんのだいまじゅつ、このふしぎなとりあわせが、よっぱらいどもを)
豆蔵とお花、美人獄門の大魔術、この不思議な取合せが、酔っぱらいどもを
(よろこばせた。おおぜいがみだれたあしどりで、だいまじゅつのどうぐだてをはじめた。)
喜ばせた。大勢が乱れた足どりで、大魔術の道具立てを始めた。
(ぶたいのしょうめんとさゆうにくろいまくがおろされた。ゆかにはくろいしきものがしかれた。)
舞台の正面と左右に黒い幕がおろされた。床には黒い敷物がしかれた。
(そして、そのまえに、かんおけのようなきばこと、いっこのてーぶるがもちだされた。)
そして、その前に、棺桶の様な木箱と、一箇のテーブルが持出された。
(「さあ、はじまりはじまり」)
「サア、始まり始まり」
(しゃみせんとかねとひょうしぎが、おきまりのぜんそうきょくをはじめた。そのはやしにおくりだされて、)
三味線と鉦と拍子木が、お極りの前奏曲を始めた。その囃しに送り出されて、
(おはなと、かのじょにひきたてられたふぐしゃとが、しょうめんにあらわれた。)
お花と、彼女に引立てられた不具者とが、正面に現れた。
(おはなはぴったりみについたにくいろのしゃついちまいだった。)
お花はピッタリ身についた肉色のシャツ一枚だった。
(ろくさんはだぶだぶのあかいどうけふくをつけていた。)
緑さんはダブダブの赤い道化服をつけていた。
(そして、かれのほうは、あいもかわらず、おおきなくちでにやりにやりとわらっていた。)
そして、彼の方は、愛も変わらず、大きな口でニヤリニヤリと笑っていた。
(「こうじょうをいうんだよ、こうじょうを」だれかがどなった。)
「口上を云うんだよ、口上を」誰かが怒鳴った。
(「こまるな、こまっちまうな」いっすんぼうしは、ぶつぶつそんなことをつぶやきながら、)
「困るな、困っちまうな」一寸法師は、ぶつぶつそんなことをつぶやきながら、
(それでも、なんだかしゃべりはじめた。)
それでも、何だか喋り始めた。
(「えー、ここもとごらんにきょうしまするは、しんぺんふしぎのだいまじゅつ、)
「エー、ここもと御覧に供しまするは、神変不思議の大魔術、
(びじんのごくもんとござりまして、これなるしょうじょをかたえのはこのなかへいれ、)
美人の獄門とござりまして、これなる少女をかたえの箱の中へ入れ、
(じゅうよんほんのにほんとうをもちまして、いっすんだめし、ごぶだめし、しほうはっぽうより)
十四本の日本刀をもちまして、一寸だめし、五分だめし、四方八方より
(でんがくざしといたすのでござります。えーと、が、それのみにてはおなぐさみが)
田楽刺しと致すのでござります。エーと、が、それのみにては御慰みが
(うすいようにござります。かようにきりさいなみましたるしょうじょのくびを、ざっくり、)
薄い様にござります。か様に斬りさいなみましたる少女の首を、ザックリ、
(せつだんいたし、これなるてーぶるのうえに、さらしくびとござあい。はっ」)
切断致し、これなるテーブルの上に、晒し首とござあい。ハッ」
(「あざやかあざやか」「そっくりだ」しょうさんともからかいともつかぬよびごえが、)
「あざやかあざやか」「そっくりだ」賞讃とも揶揄ともつかぬ呼声が、
(やけくそなはくしゅにまじってきこえた。はくちのようにみえるいっすんぼうしだけれど、)
やけくそな拍手に混じって聞えた。白痴の様に見える一寸法師だけれど、
(さすがにしょうばいがら、ぶたいのこうじょうはうまいものだ。)
流石に商売柄、舞台の口上はうまいものだ。
(いつもはちじひげのてじなつかいがやるのと、くちょうからもんくから、すんぶんたがわない。)
いつも八字髭の手品使いがやるのと、口調から文句から、寸分違わない。
(やがて、びじんたまのりのおはなは、あでやかにいちゆうして、しなやかなからだを、)
やがて、美人玉乗りのお花は、あでやかに一揖して、しなやかな身体を、
(そのかんおけようのはこのなかへかくした。いっすんぼうしはそれにふたをして、)
その棺桶様の箱の中へ隠した。一寸法師はそれに蓋をして、
(おおきなじょうまえをおろした。いっそくのにほんとうがそこになげだされてあった)
大きな錠前を卸した。一束の日本刀がそこに投げ出されてあった
(ろくさんは、いっぽん、いっぽん、それをひろい、いちどずつゆかにつきたてて、)
緑さんは、一本、一本、それを拾い、一度ずつ床につき立てて、
(にせものでないことをしめしたうえ、はこのぜんごさゆうにあけられたちいさなあなへ、)
偽物でないことを示した上、箱の前後左右に開けられた小さな孔へ、
(つきとおしていった。いっとうごとに、はこのなかからものすごいひめいが・・・・・)
つき通して行った。一刀毎に、箱の中から物凄い悲鳴が・・・・・
(まいにちけんぶつたちをせんりつさせたあのひめいが・・・・・きこえてきた。)
毎日見物達を戦慄させたあの悲鳴が・・・・・聞えて来た。