「踊る一寸法師」7 江戸川乱歩
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問題文
(「きゃー、たすけて、たすけて、たすけて、あれー、こんちくしょう、こんちくしょう、)
「キャー、助けて、助けて、助けて、アレー、こん畜生、こん畜生、
(こいつはほんとうにわたしをころすきだよ。あれー、たすけて、たすけて、たすけて・・・・・」)
こいつは本当に私を殺す気だよ。アレー、助けて、助けて、助けて・・・・・」
(「わはははははは」「あざやかあざやか」「そっくりだ」)
「ワハハハハハハ」「あざやかあざやか」「そっくりだ」
(けんぶつたちはおおよろこびで、てんでんにどなったり、てをたたいたりした。)
見物達は大喜びで、てんでんに怒鳴ったり、手をたたいたりした。
(いっぽん、にほん、さんぼん、かたなのかずはだんだんましていった。)
一本、二本、三本、刀の数は段々増して行った。
(「いまこそおもいしったか、このすべため」いっすんぼうしはしばいがかりではじめた。)
「今こそ思い知ったか、このすべた奴」一寸法師は芝居がかりで始めた。
(「よくもよくもこのおれをばかにしたな。ふぐしゃのいちねんがわかったか、)
「よくもよくもこの俺を馬鹿にしたな。不具者の一念が分ったか、
(わかったか、わかったか」「あれー、あれー、たすけて、たすけて、たすけてー」)
分ったか、分ったか」「アレー、アレー、助けて、助けて、助けてー」
(そして、でんがくざしにされたはこが、せいあるもののように、がたがたとうごいた。)
そして、田楽刺しにされた箱が、生あるものの様に、ガタガタと動いた。
(けんぶつたちは、このしんにせまったえんしゅつにむちゅうになった。ひゃくらいのようなはくしゅがつづいた。)
見物達は、この真に迫った演出に夢中になった。百雷の様な拍手が続いた。
(そして、ついにじゅうよんほんめのいっとうがつきさされた。おはなのひめいは、さもひんしの)
そして、遂に十四本目の一刀がつきさされた。お花の悲鳴は、さも瀕死の
(けがにんのようなうめきごえにかわっていった。もはやもんくをなさぬひーひーという)
怪我人の様なうめき声に変って行った。最早文句をなさぬヒーヒーという
(おとであった。やがて、それもたえいるようにきえてしまうと、いままでうごいていたはこが)
音であった。やがて、それも絶え入る様に消えて了うと、今迄動いていた箱が
(ぴったりとせいしした。いっすんぼうしはぜいぜいとかたでこきゅうをしながら、)
ピッタリと静止した。一寸法師はゼイゼイと肩で呼吸をしながら、
(そのはこをみつめていた。かれのひたいは、みずにつかったように、あせでぬれていた。)
その箱を見つめていた。彼の額は、水に漬った様に、汗でぬれていた。
(かれはいつまでもいつまでも、そうしたままうごかなかった。)
彼はいつまでもいつまでも、そうしたまま動かなかった。
(けんぶつたちもみょうにだまりこんだ。しんだようなちんもくをやぶるものは、さけのために)
見物達も妙に黙り込んだ。死んだ様な沈黙を破るものは、酒の為に
(はげしくなった、みなのいきづかいばかりだった。しばらくすると、ろくさんは、)
烈しくなった、皆の息づかいばかりだった。暫くすると、緑さんは、
(そろりそろりと、よういのだんびらをひろいあげた。)
そろりそろりと、用意のダンビラを拾い上げた。
(それはせいりゅうとうのようにぎざぎざのついた、はばのひろいかたなだった。)
それは青龍刀の様にギザギザのついた、幅の広い刀だった。
(かれはそれを、もいちどゆかにつきたてて、きれあじをしめしたのち、さて、)
彼はそれを、も一度床につき立てて、切れ味を示したのち、さて、
(じょうまえをはずして、はこのふたをあけた。そして、そのなかへけんのせいりゅうとうをつきこむと、)
錠前を脱して、箱の蓋を開けた。そして、その中へ件の青龍刀を突込むと、
(さもほんとうににんげんのくびをきるような、ごりごりというおとをさせた。)
さも本当に人間の首を切る様な、ゴリゴリという音をさせた。
(それから、きってしまったみえで、だんびらをなげだすと、なにものかを)
それから、切って了った見得で、ダンビラを投げ出すと、何物かを
(そででかくして、かたえのてーぶるのところまでいき、どさっというおとをたてて、)
袖で隠して、かたえのテーブルの所まで行き、ドサッという音を立てて、
(それをたくじょうにおいた。かれがそでをのけると、おはなのあおざめたなまくびがあらわれた。)
それを卓上に置いた。彼が袖をのけると、お花の青ざめた生首が現れた。