「桃太郎」4 芥川龍之介

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芥川龍之介の小説「桃太郎」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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(よん)

(ももたろうはこういうつみのないおににけんこくいらいのおそろしさをあたえた。おにはかなぼうを)

桃太郎はこういう罪のない鬼に建国以来の恐ろしさを与えた。鬼は金棒を

(わすれたなり、「にんげんがきたぞ」とさけびながら、ていていとそびえたやしのあいだを)

忘れたなり、「人間が来たぞ」と叫びながら、亭々と聳えた椰子の間を

(うおうざおうににげまどった。)

右往左往に逃げ惑った。

(「すすめ!すすめ!おにというおにはみつけしだい、いっぴきものこらずころしてしまえ!」)

「進め!進め!鬼という鬼は見つけ次第、一匹も残らず殺してしまえ!」

(ももたろうはもものはたをかたてに、ひのまるのおうぎをうちふりうちふり、いぬさるきじのさんびきに)

桃太郎は桃の旗を片手に、日の丸の扇を打ち振り打ち振り、犬猿雉の三匹に

(ごうれいした。いぬさるきじのさんびきはなかのよいけらいではなかったかもしれない。)

号令した。犬猿雉の三匹は仲の好い家来ではなかったかも知れない。

(が、うえたどうぶつほど、ちゅうゆうむそうのへいそつのしかくをそなえているものはない)

が、饑えた動物ほど、忠勇無双の兵卒の資格を具えているものはない

(はずである。かれらはみなあらしのように、にげまわるおにをおいまわした。)

はずである。彼等は皆あらしのように、逃げまわる鬼を追いまわした。

(いぬはただひとかみにおにのわかものをかみころした。きじもするどいくちばしにおにのこどもを)

犬はただ一噛みに鬼の若者を噛み殺した。雉も鋭い嘴に鬼の子供を

(つきころした。さるもーーさるはわれわれにんげんとしんるいどうしのあいだがらだけに、)

突き殺した。猿もーー猿は我々人間と親類同士の間がらだけに、

(おにのむすめをしめころすまえに、かならずりょうじょまるをほしいままにした。・・・・・)

鬼の娘を絞殺す前に、必ずりょうじょ○を恣にした。・・・・・

(あらゆるざいあくのおこなわれたのち、とうとうおにのしゅうちょうは、いのちをとりとめたすうにんのおにと、)

あらゆる罪悪の行われた後、とうとう鬼の酋長は、命をとりとめた数人の鬼と、

(ももたろうのまえにこうさんした。ももたろうのとくいはおもうべしである。おにがしまはもう)

桃太郎の前に降参した。桃太郎の得意は思うべしである。鬼が島はもう

(きのうのように、ごくらくちょうのさえずるらくどではない。やしのはやしはいたるところに)

昨日のように、極楽鳥の囀る楽土ではない。椰子の林は至るところに

(おにのしがいをまきちらしている。ももたろうはやはりはたをかたてに、さんびきのけらいを)

鬼の死骸を撒き散らしている。桃太郎はやはり旗を片手に、三匹の家来を

(したがえたまま、ひらぐものようになったおにのしゅうちょうへおごそかにこういいわたした。)

従えたまま、平蜘蛛のようになった鬼の酋長へ厳かにこういい渡した。

(「ではかくべつのれんびんにより、きさまたちのいのちはゆるしてやる。そのかわりにおにがしまの)

「では格別の憐愍により、貴様たちの命は赦してやる。その代りに鬼が島の

(たからものはひとつものこらずけんじょうするのだぞ。」「はい、けんじょういたします。」)

宝物は一つも残らず献上するのだぞ。」「はい、献上致します。」

(「なおそのほかにきさまのこどもをひとじちのためにさしだすのだぞ。」)

「なおそのほかに貴様の子供を人質のためにさし出すのだぞ。」

など

(「それもしょうちいたしました。」)

「それも承知致しました。」

(おにのしゅうちょうはもういちどひたいをつちへすりつけたあと、おそるおそるももたろうへしつもんした。)

鬼の酋長はもう一度額を土へすりつけた後、恐る恐る桃太郎へ質問した。

(「わたしくどもはあなたさまになにかぶれいでもいたしたため、ごせいばつをうけたことと)

「わたしくどもはあなた様に何か無礼でも致したため、御征伐を受けたことと

(ぞんじております。しかしじつはわたくしをはじめ、おにがしまのおにはあなたさまに)

存じて居ります。しかし実はわたくしを始め、鬼が島の鬼はあなた様に

(どういうぶれいをいたしたのやら、とんとがてんがまいりませぬ。)

どういう無礼を致したのやら、とんと合点が参りませぬ。

(ついてはそのぶれいのしだいをおあかしくださるわけにはまいりますまいか?」)

ついてはその無礼の次第をお明し下さる訣には参りますまいか?」

(ももたろうはゆうぜんとうなずいた。「にほんいちのももたろうはいぬさるきじのさんびきのちゅうぎしゃを)

桃太郎は悠然と頷いた。「日本一の桃太郎は犬猿雉の三匹の忠義者を

(めしかかえたゆえ、おにがしまへせいばつにきたのだ。」)

召し抱えた故、鬼が島へ征伐に来たのだ。」

(「ではそのおさんかたをおめしかかえなすったのはどういうわけでございますか?」)

「ではそのお三かたをお召し抱えなすったのはどういう訣でございますか?」

(「それはもとよりおにがしまをせいばつしたいとこころざしたゆえ、きびだんごをやっても)

「それはもとより鬼が島を征伐したいと志した故、黍団子をやっても

(めしかかえたのだ。ーーどうだ?これでもまだわからないといえば、)

召し抱えたのだ。ーーどうだ?これでもまだわからないといえば、

(きさまたちもみなごろししてしまうぞ。」おにのしゅうちょうはおどろいたように、さんしゃくほど)

貴様たちも皆殺してしまうぞ。」鬼の酋長は驚いたように、三尺ほど

(うしろへとびさがると、いよいよまたていねいにおじぎをした。)

後へ飛び下ると、いよいよまた丁寧にお時儀をした。

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