「心理試験」2 江戸川乱歩

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タグ小説 長文
江戸川乱歩の小説「心理試験」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 miko 6444 S 6.5 98.4% 342.6 2244 36 33 2024/09/09
2 りく 5911 A+ 6.0 97.8% 376.4 2274 49 33 2024/09/12

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問題文

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(「きみ、あのばあさんにしてはかんしんなおもいつきだよ、たいてい、えんのしたとか、)

「君、あの婆さんにしては感心な思いつきだよ、大抵、縁の下とか、

(てんじょううらとか、かねのかくしばしょなんてきまっているものだが、)

天井裏とか、金の隠し場所なんて極っているものだが、

(ばあさんのはちょっといがいなところなのだよ。あのおくざしきのとこのまに、)

婆さんのは一寸意外な所なのだよ。あの奥座敷の床の間に、

(おおきなもみじのうえきばちがおいてあるだろう。あのうえきばちのそこなんだよ。)

大きな紅葉の植木鉢が置いてあるだろう。あの植木鉢の底なんだよ。

(そのかくしばしょがさ。どんなどろぼうだって、まさかうえきばちにかねがかくしてあろうとは)

その隠し場所がさ。どんな泥坊だって、まさか植木鉢に金が隠してあろうとは

(きづくまいからね。ばあさんは、まあいってみれば、しゅせんどのてんさいなんだね」)

気づくまいからね。婆さんは、まあ云って見れば、守銭奴の天才なんだね」

(そのとき、さいとうはこういっておもしろそうにわらった。)

その時、斉藤はこう云って面白そうに笑った。

(それいらい、ふきやのかんがえはすこしずつぐたいてきになっていった。)

それ以来、蕗谷の考は少しずつ具体的になって行った。

(ろうばのかねをじゆうにがくしにふりかえるけいろのひとつひとつについて、)

老婆の金を自由に学資に振替える径路の一つ一つについて、

(あらゆるかのうせいをかんじょうにいれたうえ、もっともあんぜんなほうほうをかんがえだそうとした。)

あらゆる可能性を勘定に入れた上、最も安全な方法を考え出そうとした。

(それはよそういじょうにこんなんなしごとだった。これにくらべれば、)

それは予想以上に困難な仕事だった。これに比べれば、

(どんなふくざつなすうがくのもんだいだって、なんでもなかった。)

どんな複雑な数学の問題だって、なんでもなかった。

(かれはさきにもいったように、そのかんがえをまとめるだけのためにはんとしをついやしたのだ。)

彼は先にも云った様に、その考えを纏める丈けの為に半年を費やしたのだ。

(なんてんは、いうまでもなく、いかにしてけいばつをまぬがれるかということにあった。)

難点は、云うまでもなく、如何にして刑罰を免れるかということにあった。

(りんりじょうのしょうがい、すなわちりょうしんのかしゃくというようなことは、かれにはさしてもんだいでは)

倫理上の障礙、即ち良心の呵責という様なことは、彼にはさして問題では

(なかった。かれはなぽれおんのおおがかりなさつじんをざいあくとはかんがえないで、)

なかった。彼はナポレオンの大掛りな殺人を罪悪とは考えないで、

(むしろさんびするとおなじように、さいのうのあるせいねんが、そのさいのうをそだてるために、)

寧ろ讃美すると同じ様に、才能のある青年が、その才能を育てる為に、

(かんおけにかたあしをふみこんだおいぼれをぎせいにきょうすることを、とうぜんだとおもった。)

棺桶に片足をふみ込んだおいぼれを犠牲に供することを、当然だと思った。

(ろうばはめったにがいしゅつしなかった。しゅうじつもくもくとしておくのざしきにまるくなっていた。)

老婆は滅多に外出しなかった。終日黙々として奥の座敷に丸くなっていた。

(たまにがいしゅつすることがあっても、るすちゅうは、いなかもののじょちゅうがかのじょのめいを)

たまに外出することがあっても、留守中は、田舎者の女中が彼女の命を

など

(うけてしょうじきにみはりばんをつとめた。ふきやのあらゆるくしんにもかかわらず、)

受けて正直に見張番を勤めた。蕗谷のあらゆる苦心にも拘らず、

(ろうばのようじんにはすこしのすきもなかった。)

老婆の用心には少しの隙もなかった。

(ろうばとさいとうのいないときをみはからって、このじょちゅうをだましてつかいにだすか)

老婆と斉藤のいない時を見はからって、この女中を騙して使に出すか

(なにかして、そのすきにれいのかねをうえきばちからぬすみだしたら、)

何かして、その隙に例の金を植木鉢から盗み出したら、

(ふきやはさいしょそんなふうにかんがえてみた。しかしそれははなはだむふんべつなかんがえだった。)

蕗谷は最初そんな風に考えて見た。併しそれは甚だ無分別な考だった。

(たといすこしのあいだでも、あのいえにただひとりでいたことがわかっては、)

仮令少しの間でも、あの家にただ一人でいたことが分っては、

(もうそれだけけでじゅうぶんけんぎをかけられるではないか。かれはこのしゅのさまざまな)

もうそれ丈毛で十分嫌疑をかけられるではないか。彼はこの種の様々な

(おろかなほうほうを、かんがえてはうちけし、かんがえてはうちけすのに、たっぷりいっかげつを)

愚かな方法を、考えては打消し、考えては打ち消すのに、たっぷり一ヶ月を

(ついやした。それはたとえば、さいとうかじょちゅうかまたはふつうのどろぼうがぬすんだと)

費やした。それは例えば、斉藤か女中か又は普通の泥坊が盗んだと

(みせかけるとりっくだとか、じょちゅうひとりのときにすこしもおとをたてないでしのびこんで、)

見せかけるトリックだとか、女中一人の時に少しも音を立てないで忍込んで、

(かのじょのめにふれないようにぬすみだすほうほうだとか、よなか、ろうばのねむっているあいだに)

彼女の目にふれない様に盗み出す方法だとか、夜中、老婆の眠っている間に

(しごとをするほうほうだとか、そのほかかんがえうるあらゆるばあいを、かれはかんがえた。)

仕事をする方法だとか、其他考え得るあらゆる場合を、彼は考えた。

(しかし、どれにもこれにも、はっかくのかのうせいがたぶんにふくまれていた。)

併し、どれにもこれにも、発覚の可能性が多分に含まれていた。

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