「心理試験」4 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「心理試験」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(に)

(さて、いよいよとうじつである。かれはだいがくのせいふくせいぼうのうえにがくせいまんとをちゃくようし、)

さて、愈々当日である。彼は大学の正服正帽の上に学生マントを着用し、

(ありふれたてぶくろをはめてもくてきのばしょにむかった。かれはかんがえにかんがえたうえ、)

ありふれた手袋をはめて目的の場所に向った。彼は考えに考えた上、

(けっきょくへんそうしないことにきめたのだ。もしへんそうをすれば、ざいりょうのかいいれ、)

結局変装しないことに極めたのだ。若し変装をすれば、材料の買入れ、

(きがえのばしょ、そのほかさまざまのてんで、はんざいはっかくのてがかりをのこすことになる。)

着換えの場所、其他様々の点で、犯罪発覚の手掛かりを残すことになる。

(それはただものごとをふくざつにするばかりで、すこしもこうかがないのだ。)

それはただ物事を複雑にするばかりで、少しも効果がないのだ。

(はんざいのほうほうは、はっかくのおそれのないはんいにおいては、できるかぎりたんじゅんに)

犯罪の方法は、発覚の虞れのない範囲に於ては、出来る限り単純に

(かつあからさまにすべきだというのが、かれのいっしゅのてつがくだった。ようは、)

且つあからさまにすべきだと云うのが、彼の一種の哲学だった。要は、

(もくてきのいえにはいるところをみられさえしなければいいのだ。たといそのいえのまえを)

目的の家に入る所を見られさえしなければいいのだ。仮令その家の前を

(とおったことがわかっても、それはすこしもさしつかえない。かれはよくそのへんを)

通ったことが分っても、それは少しも差支えない。彼はよく其辺を

(さんぽすることがあるのだから、とうじつもさんぽをしたばかりだといいぬけることが)

散歩することがあるのだから、当日も散歩をしたばかりだと云い抜けることが

(できる。とどうじにいっぽうにおいて、かれがもくてきのいえにいくとちゅうで、)

出来る。と同時に一方に於て、彼が目的の家に行く途中で、

(しりあいのひとにみられたばあい(これはどうしてもかんじょうにいれておかねばならぬ))

知合いの人に見られた場合(これはどうしても勘定に入れて置かねばならぬ)

(たえなへんそうをしているほうがいいか、ふだんのとおりせいふくせいぼうでいるほうがいいか、)

妙な変装をしている方がいいか、ふだんの通り正服正帽でいる方がいいか、

(かんがえてみるまでもないことだ。はんざいのじかんについてもまちさえすれば)

考えて見るまでもないことだ。犯罪の時間についても待ちさえすれば

(つごうよいよるがーーさいとうもじょちゅうもふざいのよるがあることはわかっているのに、)

都合よい夜がーー斉藤も女中も不在の夜があることは分っているのに、

(なぜかれはきけんなひるまをえらんだか。これもふくそうのばあいとおなじく、はんざいから)

何故彼は危険な昼間を選んだか。これも服装の場合と同じく、犯罪から

(ふひつようなひみつせいをのぞくためだった。しかしもくてきのいえのまえにたったときだけは、)

不必要な秘密性を除く為だった。併し目的の家の前に立った時だけは、

(さすがのかれも、ふつうのどろぼうのとおりに、いやおそらくかれらいじょうに、びくびくして)

流石の彼も、普通の泥棒の通りに、いや恐らく彼等以上に、ビクビクして

(ぜんごさゆうをみまわした。ろうばのいえは、りょうどなりとはいけがきでさかいしたいっけんだちで、)

前後左右を見廻した。老婆の家は、両隣とは生垣で境した一軒建ちで、

など

(むかいがわには、あるふごうのていたくのたかいこんくりーとべいが、ずっといっちょうもつづいていた。)

向側には、ある富豪の邸宅の高いコンクリート塀が、ずっと一町も続いていた。

(さびしいやしきまちだから、ひるまでもときどきはまるでひとどおりのないことがある。)

淋しい屋敷町だから、昼間でも時々はまるで人通りのないことがある。

(ふきやがそこへたどりついたときも、いいあんばいに、とおりにはいぬのこいっぴき)

蕗谷がそこへ辿りついた時も、いい鹽梅に、通りには犬の子一匹

(みあたらなかった。かれは、ふつうにひらけばばかにひどいきんぞくせいのおとのする)

見当たらなかった。彼は、普通に開けば馬鹿にひどい金属性の音のする

(こうしどを、そろりそろりとすこしもおとをたてないようにかいへいした。そして、)

格子戸を、ソロリソロリと少しも音を立てない様に開閉した。そして、

(げんかんのどまから、ごくひくいこえで、(これらはりんかへのようじんだ)あんないをこうた。)

玄関の土間から、極く低い声で、(これらは隣家への用心だ)案内を乞うた。

(ろうばがでてくると、かれは、さいとうのことについてすこしないみつにはなしたいことが)

老婆が出て来ると、彼は、斉藤のことについて少し内密に話し度いことが

(あるというこうじつで、おくのまにとおった。)

あるという口実で、奥の間に通った。

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