「心理試験」6 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「心理試験」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(ここでちょっと、かれがしへいをいれたさいふといまのじゃっくないふについて)

ここで一寸、彼が紙幣を入れた財布と今のジャックナイフについて

(せつめいしておかねばならぬ。かれは、それらを、このもくてきだけにつかうために、)

説明して置かねばならぬ。彼は、それらを、この目的丈けに使う為に、

(あるえんにちのろてんでかいもとめたのだ。かれはそのえんにちのもっともにぎわうじぶんを)

ある縁日の露店で買求めたのだ。彼はその縁日の最も賑わう時分を

(みはからって、もっともきゃくのこんでいるみせをえらび、しょうふだどおりのこぜにをなげだして、)

見計らって、最も客の混んでいる店を選び、正札通りの小銭を投出して、

(しなものをとると、しょうにんはもちろん、たくさんのきゃくたちも、かれのかおをきおくするひまがなかったほど、)

品物を取ると、商人は勿論、沢山の客達も、彼の顔を記憶する暇がなかった程、

(ひじょうにすばやくすがたをくらました。そして、このしなものはりょうほうとも、ごくありふれた)

非常に素早く姿を晦ました。そして、この品物は両方とも、極くありふれた

(なにのめじるしもありえないようなものだった。)

何の目印もあり得ない様なものだった。

(さて、ふきやは、じゅうぶんちゅういしてすこしもてがかりがのこっていないのをたしかめたあと、)

さて、蕗谷は、十分注意して少しも手掛りが残っていないのを確めた後、

(ふすまのしまりもわすれないでゆっくりとげんかんへでてきた。かれはそこでくつのひもを)

襖のしまりも忘れないでゆっくりと玄関へ出て来た。彼はそこで靴の紐を

(しめながら、あしあとのことをかんがえてみた。だが、そのてんはさらにしんぱいがなかった。)

締めながら、足跡のことを考えて見た。だが、その点は更らに心配がなかった。

(げんかんのどまはかたいしっくいだし、おもてのとおりはてんきつづきでからからにかわいていた。)

玄関の土間は堅い漆喰だし、表の通りは天気続きでカラカラに乾いていた。

(あとには、もうこうしどをあけておもてへでることがのこっているばかりだ。)

あとには、もう格子戸を開けて表へ出ることが残っているばかりだ。

(だが、ここでしくじるようなことがあっては、すべてのくしんがみずのあわだ。)

だが、ここでしくじる様なことがあっては、凡ての苦心が水の泡だ。

(かれはじっとみみをすまして、しんぼうづよくおもてどおりのあしおとをきこうとした。)

彼はじっと耳を澄まして、辛抱強く表通りの跫音を聞こうとした。

(・・・・・・しんとしてなにのけはいもない。どこかのうちでことをだんじるおとが)

・・・・・・しんとして何の気はいもない。どこかの内で琴を弾じる音が

(ころりんしゃんとしごくのどかにきこえているばかりだ。かれはおもいきって、)

コロリンシャンと至極のどかに聞えているばかりだ。彼は思切って、

(しずかにこうしどをあけた。そして、なにげなく、いまいとまをつげたおきゃくさまだというような)

静かに格子戸を開けた。そして、何気なく、今暇をつげたお客様だという様な

(かおをして、おうらいへでた。あんのじょうそこにはひとかげもなかった。そのいっかくは)

顔をして、往来へ出た。案の定そこには人影もなかった。その一劃は

(どのとおりもさびしいやしきまちだった。ろうばのいえからしごちょうへだたったところに、)

どの通りも淋しい屋敷町だった。老婆の家から四五町隔たった所に、

(なにかやしろのふるいいしがきが、おうらいにめんしてずっとつづいていた。)

何か社の古い石垣が、往来に面してずっと続いていた。

など

(ふきやは、だれもみていないのをたしかめたうえ、そこのいしがきのすきまから)

蕗谷は、誰も見ていないのを確かめた上、そこの石垣の隙間から

(きょうきのじゃっくないふとちのついたてぶくろとをおとしこんだ。)

兇器のジャックナイフと血のついた手袋とを落し込んだ。

(そして、いつもさんぽのときにはたちよることにしていた、ふきんのちいさいこうえんを)

そして、いつも散歩の時には立寄ることにしていた、附近の小さい公園を

(めざしてぶらぶらとあるいていった。かれはこうえんのべんちにこしをかけ、)

目ざしてブラブラと歩いて行った。彼は公園のベンチに腰をかけ、

(こどもたちがぶらんこにのってあそんでいるのを、いかにものどかなかおをして)

子供達がブランコに乗って遊んでいるのを、如何にも長閑な顔をして

(ながめながら、ながいじかんをすごした。かえりがけに、かれはけいさつしょへたちよった。)

眺めながら、長い時間を過した。帰りがけに、彼は警察署へ立寄った。

(そして、「いましがた、このさいふをひろったのです。だいぶたくさんはいっているようですから、)

そして、「今し方、この財布を拾ったのです。大分沢山入っている様ですから、

(おとどけします」といいながら、れいのさいふをさしだした。)

お届けします」と云い乍ら、例の財布をさし出した。

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