「心理試験」10 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「心理試験」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(こまりぬいていたかさもりはんじは、このほうこくをうけとって、いちどうのこうみょうをみとめたように)

困り抜いていた笠森判事は、この報告を受取って、一道の光明を認めた様に

(おもった。さっそくふきやせいいちろうしょうかんのてつづきがとりはこばれた。ところが、ふきやを)

思った。早速蕗谷清一郎召喚の手続が取り運ばれた。ところが、蕗谷を

(じんもんしたけっかは、はんじのいきごみにもかかわらず、たいしてえるところもないように)

訊問した結果は、判事の意気込みにも拘らず、大して得る所もない様に

(みえた。なぜ、じけんのとうじとりしらべたさい、そのたいきんしゅうとくのじじつを)

見えた。何故、事件の当時取調べた際、その大金拾得の事実を

(もうしたてなかったというじんもんにたいして、かれは、それがさつじんじけんにかんけいが)

申立てなかったという訊問に対して、彼は、それが殺人事件に関係が

(あるとはおもわなかったからだとこたえた。このとうべんにはじゅうぶんりゆうがあった。)

あるとは思わなかったからだと答えた。この答弁には十分理由があった。

(ろうばのざいさんはさいとうのはらまきのなかからはっけんされたのだから、それいがいのかねが、)

老婆の財産は斉藤の腹巻の中から発見されたのだから、それ以外の金が、

(ことにおうらいにいしつされていたかねが、ろうばのざいさんのいちぶだとだれがそうぞうしよう。)

殊に往来に遺失されていた金が、老婆の財産の一部だと誰れが想像しよう。

(しかし、これがぐうぜんであろうか。じけんのとうじつ、げんばからあまりとおくないところで、)

併し、これが偶然であろうか。事件の当日、現場から余り遠くない所で、

(しかもだいいちのけんぎしゃのしんゆうであるおとこが(さいとうのもうしたてによればかれはうえきばちの)

しかも第一の嫌疑者の親友である男が(斉藤の申立によれば彼は植木鉢の

(かくしばしょをもしっていたのだ)このたいきんをしゅうとくしたというのが、これがはたして)

隠し場所をも知っていたのだ)この大金を拾得したというのが、これが果して

(ぐうぜんであろうか。はんじはそこになにかのいみをはっけんしようとしてもだえた。はんじの)

偶然であろうか。判事はそこに何かの意味を発見しようとして悶えた。判事の

(もっともざんねんにおもったのは、ろうばがしへいのばんごうをひかえておかなかったことだ。)

最も残念に思ったのは、老婆が紙幣の番号を控えて置かなかったことだ。

(それさえあれば、このうたがわしいきんが、じけんにかんけいがあるかないかも、)

それさえあれば、この疑わしい金が、事件に関係があるかないかも、

(ただちにはんめいするのだが。「どんなちいさなことでも、なにかひとつたしかなてがかりを)

直ちに判明するのだが。「どんな小さなことでも、何か一つ確かな手掛かりを

(つかみさえすればなあ」はんじはぜんさいのうをかたむけてかんがえた。げんばのとりしらべも)

掴みさえすればなあ」判事は全才能を傾けて考えた。現場の取調べも

(いくどとなくくりかえされた。ろうばのしんぞくかんけいもじゅうぶんちょうさした。しかしなんのえるところも)

幾度となく繰返された。老婆の親族関係も十分調査した。併し何の得る所も

(ない。そうしてまたはんつきばかりいたずらにけいかした。たったひとつのかのうせいは、)

ない。そうして又半月ばかり徒らに経過した。たった一つの可能性は、

(とはんじがかんがえた。ふきやがろうばのちょきんをはんぶんぬすんで、のこりをもとどおりに)

と判事が考えた。蕗谷が老婆の貯金を半分盗んで、残りを元通りに

(かくしておき、ぬすんだきんをさいふにいれて、おうらいでひろったようにみせかけたと)

隠して置き、盗んだ金を財布に入れて、往来で拾った様に見せかけたと

など

(すいていすることだ。だが、そんなばかなことがありえるだろうか。そのさいふも)

推定することだ。だが、そんな馬鹿なことがあり得るだろうか。その財布も

(むろんしらべてみたけれど、これというてがかりもない。それに、ふきやはへいきで、)

無論検べて見たけれど、これという手掛かりもない。それに、蕗谷は平気で、

(とうじつさんぽのみちすがら、ろうばのいえのまえをとおったともうしたてているではないか。)

当日散歩のみちすがら、老婆の家の前を通ったと申立てているではないか。

(はんにんにこんなだいたんなことがいえるものだろうか。だいいち、もっともたいせつなきょうきの)

犯人にこんな大胆なことが云えるものだろうか。第一、最も大切な兇器の

(ゆくえがわからぬ。ふきやのげしゅくのかたくそうさくのけっかは、なにものをももたらさなかったのだ。)

行方が分らぬ。蕗谷の下宿の家宅捜索の結果は、何物をも齎さなかったのだ。

(しかし、きょうきのことをいえば、さいとうとてもおなじではないか。ではいったいだれれを)

併し、兇器のことをいえば、斉藤とても同じではないか。では一体誰れを

(うたがったらいいのだ。そこにはかくしょうというものがひとつもなかった。しょちょうらの)

疑ったらいいのだ。そこには確証というものが一つもなかった。所長等の

(いうように、さいとうをうたがえばさいとうらしくもある。だがまた、ふきやとてもうたがって)

云う様に、斉藤を疑えば斉藤らしくもある。だが又、蕗谷とても疑って

(うたがえぬことはない。ただ、わかっているのは、このいっかげつはんのあらゆるそうさくの)

疑えぬことはない。ただ、分っているのは、この一ヶ月半のあらゆる捜索の

(けっか、かれらふたりをのぞいては、ひとりのけんぎしゃもそんざいしないということだった。)

結果、彼等二人を除いては、一人の嫌疑者も存在しないということだった。

(ばんさくつきたかさもりはんじはいよいよおくのてをだすときだとおもった。かれはふたりの)

万策尽きた笠森判事は愈々奥の手を出す時だと思った。彼は二人の

(けんぎしゃにたいして、かれのおうらいしばしばせいこうしたしんりしけんをほどこそうとけっしんした。)

嫌疑者に対して、彼の往来屡々成功した心理試験を施そうと決心した。

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