「心理試験」20 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「心理試験」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(「しかし、あなたはなぜ「かね」だとか「ひとごろし」だとか「かくす」だとか、けんぎを)

「併し、あなたはなぜ「金」だとか「人殺し」だとか「隠す」だとか、嫌疑を

(うけやすいことばをえらんでこたえたのでしょう。いうまでもない。そこがそれ、)

受け易い言葉を選んで答えたのでしょう。云うまでもない。そこがそれ、

(あなたのむじゃきなところですよ。もしあなたがはんにんだったら、けっして「ゆし」と)

あなたの無邪気な所ですよ。若しあなたが犯人だったら、決して「油脂」と

(とわれて「かくす」などとはこたえませんからね。そんなきけんなことばをへいきで)

問われて「隠す」などとは答えませんからね。そんな危険な言葉を平気で

(こたええるのはなんらやましいところのないしょうこですよ。ね、そうでしょう。)

答え得るのは何等やましい所のない証拠ですよ。ね、そうでしょう。

(ぼくのいうとおりでしょう」ふきやははなしてのめをじっとみつめていた。どういうわけか、)

僕のいう通りでしょう」蕗谷は話手の目をじっと見詰めていた。どういう訳か、

(そらすことができないのだ。そして、はなからくちのあたりにかけてきんにくがこうちょくして、)

そらすことが出来ないのだ。そして、鼻から口の辺りにかけて筋肉が硬直して、

(わらうことも、なくことも、おどろくことも、いっさいのひょうじょうがふかのうになったような)

笑うことも、泣くことも、驚くことも、一切の表情が不可能になった様な

(きがした。むろんくちはきけなかった。もしむりにくちをきこうとすれば、それは)

気がした。無論口は利けなかった。もし無理に口を利こうとすれば、それは

(ただちにきょうふのさけびごえになったにそういない。「このむじゃきなこと、つまりこざいくを)

直ちに恐怖の叫声になったに相違ない。「この無邪気なこと、つまり小細工を

(ろうしないということが、あなたのいちじるしいとくちょうですよ。ぼくはそれをしったもの)

弄しないということが、あなたの著しい特徴ですよ。僕はそれを知ったもの

(だから、あのようなしつもんをしたのです。え、おわかりになりませんか。れいのびょうぶの)

だから、あの様な質問をしたのです。エ、お分りになりませんか。例の屏風の

(ことです。ぼくは、あなたがむろんむじゃきにありのままにおこたえくださることを)

ことです。僕は、あなたが無論無邪気にありのままにお答え下さることを

(しんじてうたがわなかったのですよ。じっさいそのとおりでしたがね。ところで、かさもりさんに)

信じて疑わなかったのですよ。実際その通りでしたがね。ところで、笠森さんに

(うかがいますが、もんだいのろっかせんのびょうぶ、いつあのろうばのいえにもちこまれたの)

伺いますが、問題の六歌仙の屏風、いつあの老婆の家に持込まれたの

(ですかしら」あけちはとぼけたかおをして、はんじにきいた。「はんざいじけんの)

ですかしら」明智はとぼけた顔をして、判事に聞いた。「犯罪事件の

(ぜんじつですよ。つまりせんげつのよっかです」「え、ぜんじつですって、それはほんとうですか。)

前日ですよ。つまり先月の四日です」「エ、前日ですって、それは本当ですか。

(みょうじゃありませんか、いまふきやくんは、じけんのぜんぜんじつすなわちみっかに、それを)

妙じゃありませんか、今蕗谷君は、事件の前々日即ち三日に、それを

(あのへやでみたと、はっきりいっているじゃありませんか。どうもふごうり)

あの部屋で見たと、ハッキリ云っているじゃありませんか。どうも不合理

(ですね。あなたがたのどちらかがまちがっていないとしたら」「ふきやくんはなにか)

ですね。あなた方のどちらかが間違っていないとしたら」「蕗谷君は何か

など

(おもいちがいをしているのでしょう」はんじがにやにやわらいながらいった。)

思違いをしているのでしょう」判事がニヤニヤ笑いながら云った。

(「よっかのゆうがたまではあのびょうぶは、そのほんとうのもちぬしのところにあったことが、)

「四日の夕方まではあの屏風は、そのほんとうの持主の所にあったことが、

(めいはくにわかっているのです」あけちはふかいきょうみをもって、ふきやのひょうじょうをかんさつした。)

明白に判っているのです」明智は深い興味を以て、蕗谷の表情を観察した。

(それは、いまにもなきだそうとするこむすめのかおのようにへんなふうにくずれかけていた。)

それは、今にも泣き出そうとする小娘の顔の様に変な風にくずれかけていた。

(これがあけちのさいしょからけいかくしたわなだった。かれはじけんのふつかまえには、ろうばの)

これが明智の最初から計画した罠だった。彼は事件の二日前には、老婆の

(いえにびょうぶのなかったことを、はんじからきいてしっていたのだ。「どうもこまった)

家に屏風のなかったことを、判事から聞いて知っていたのだ。「どうも困った

(ことになりましたね」あけちはさもこまったようなこわねでいった「これはもうとりかえしの)

ことになりましたね」明智はさも困った様な声音で云った「これはもう取返しの

(つかぬだいしっさくですよ。なぜあなたはみもしないものをみたなどというのです。)

つかぬ大失策ですよ。なぜあなたは見もしないものを見たなどと云うのです。

(あなたはじけんのふつかまえからいちどもあのいえへいっていないはずじゃありませんか。)

あなたは事件の二日前から一度もあの家へ行っていない筈じゃありませんか。

(ことにろっかせんのえをおぼえていたのは、ちめいしょうですよ。おそらくあなたは、ほんとうの)

殊に六歌仙の絵を覚えていたのは、致命傷ですよ。恐らくあなたは、ほんとうの

(ことをいおう、ほんとうのことをいおうとして、)

ことを云おう、ほんとうのことを云おうとして、

(ついうそをついてしまったのでしょう。ね、そうでしょう。)

つい嘘をついて了ったのでしょう。ね、そうでしょう。

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