ドッペルゲンガー-3-(完)

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(つまり、あのひとなわけですね。)

つまり、あの人なわけですね。

(おれはあたまのなかでさえ、そのなまえをそうきしないようにいしきをうまくちらした。)

俺は頭の中でさえ、その名前を想起しないように意識を上手く散らした。

(「あまくみていたわけじゃないんだが、まずいなこれは」)

「甘く見ていたわけじゃないんだが、まずいなこれは」

(きょうすけさんはみけんにしわをよせててーぶるをゆびでとんとんとたたいた。)

京介さんは眉間に皺を寄せてテーブルを指でトントンと叩いた。

(おれはいきたここちもせず、ようやくぼそりとつぶやいた。)

俺は生きた心地もせず、ようやくぼそりと呟いた。

(「こんなことならたりすまん、かえすんじゃなかった」)

「こんなことならタリスマン、返すんじゃなかった」

(そのしゅんかん、きょうすけさんがおれのむなぐらをつかんだ。「いまなんていった」)

その瞬間、京介さんが俺の胸倉を掴んだ。「今なんて言った」

(「だ、だからあのまよけのなんとかいうたりすまんをかえしたのは)

「だ、だからあの魔除けのなんとかいうタリスマンを返したのは

(しっぱいだったっていったんですよ。またかしてくれませんか」)

失敗だったって言ったんですよ。また貸してくれませんか」

(なぜかきょうすけさんはめずらしくけわしいぎょうそうでつよくいった。)

なぜか京介さんは珍しく険しい形相で強く言った。

(「なにいってるんだ、おまえはたりすまんをかえしてないぞ」)

「なに言ってるんだ、おまえはタリスマンを返してないぞ」

(おれはなにをいわれているのかわからず、うろたえながらこたえる。)

俺はなにを言われているのかわからず、うろたえながら答える。

(「せんしゅうかえしにいったじゃないですか、ほらふろはいるから)

「先週返しにいったじゃないですか、ほら風呂入るから

(かえれっていわれたひですよ」)

帰れって言われた日ですよ」

(「まだもってろっていったろ?!あれをどうしたんだ」)

「まだ持ってろって言ったろ?!あれをどうしたんだ」

(「だからかえしたじゃないですか。だからいまはないですよ」)

「だから返したじゃないですか。だから今はないですよ」

(きょうすけさんはおれのむなもとをさわってたしかめた。「どこでなくした」)

京介さんは俺の胸元を触って確かめた。「どこで無くした」

(「かえしましたって。うけとったじゃないですか」)

「返しましたって。受け取ったじゃないですか」

(「どうしたっていうんだ。おまえはかえしてない」)

「どうしたっていうんだ。おまえは返してない」

(かいわがかみあわなかった。おれはかえしたといい、きょうすけさんはかえしてないという。)

会話が噛み合わなかった。俺は返したと言い、京介さんは返してないと言う。

など

(うそなんかいってない。)

嘘なんか言ってない。

(おれのきおくではまちがいなくきょうすけさんにたりすまんをかえしている。)

俺の記憶では間違いなく京介さんにタリスマンを返している。

(そしてすくなくとも、いまおれがまよけのるいをなにももっていないのはたしかだった。)

そして少なくとも、いま俺が魔除けの類をなにも持っていないのは確かだった。

(きょうすけさんはいきなりじぶんのしゃつのむなもとにてをつっこむと、)

京介さんはいきなり自分のシャツの胸元に手を突っ込むと、

(さんかっけいがからみあったずあんのぺんだんとをとりだした。「これをもっていろ」)

三角形が絡み合った図案のペンダントを取り出した。「これを持っていろ」

(それはたしか、きょうすけさんいがいのひとがさわると)

それはたしか、京介さん以外の人が触ると

(ちからがうせるとかいっていたものではなかったか。)

力が失せるとか言っていたものではなかったか。

(「よくみろ。あれはろくぼうせいで、これはごぼうせい」そういわれればそうだ。)

「よく見ろ。あれは六芒星で、これは五芒星」そう言われればそうだ。

(「とりあえずはこれで、もうひとりのおまえにどうこうされることはないだろう。)

「とりあえずはこれで、もう一人のおまえにどうこうされることはないだろう。

(だがなにがおこるかわからない。しばらくしんちょうにこうどうしろ。)

だがなにが起こるかわからない。しばらく慎重に行動しろ。

(なにかあったら、わたしか・・・・・・」)

なにかあったら、私か・・・・・・」

(そこできょうすけさんはことばをきり、しんけんなひょうじょうでつづけた。「あのへんたいにれんらくしろ」)

そこで京介さんは言葉を切り、真剣な表情で続けた。「あの変態に連絡しろ」

(あのへんたいとは、おれのおかるとどうのししょうのことだ。)

あの変態とは、俺のオカルト道の師匠のことだ。

(きょうすけさんはししょうとやたらはんもくしている。はずだった。)

京介さんは師匠とやたら反目している。はずだった。

(「まったく」といって、きょうすけさんはきっさてんのいすにふかくしずんだ。)

「まったく」と言って、京介さんは喫茶店の椅子に深く沈んだ。

(そして「どっぺるげんがーは」とつないだ。)

そして「ドッペルゲンガーは」と繋いだ。

(「しきがちかづいたにんげんのまえにあらわれるっていうのはさ、うそっぱちだとおもってた。)

「死期が近づいた人間の前に現れるっていうのはさ、嘘っぱちだと思ってた。

(ずっとまえからみえてたのに、いままでいきてたわけだし。)

ずっと前から見えてたのに、今まで生きてたわけだし。

(でも、ちがうのかもしれない。ただのまぼろしが、いまどっぺるげんがーに)

でも、違うのかも知れない。ただの幻が、いまドッペルゲンガーに

(なろうとしているのかもしれない」おれはしにたくない。まだかのじょもいない。)

なろうとしているのかも知れない」俺は死にたくない。まだ彼女もいない。

(どうていのまましぬなんて、いきものとしてしっかくなきがする。)

童貞のまま死ぬなんて、生き物として失格な気がする。

(「その、もうひとりのきょうすけさんはいまもいますか」)

「その、もう一人の京介さんは今もいますか」

(うつむきかげんにそうきくと、きょうすけさんはうなずいてながいゆびですーっとそくほうの)

うつむき加減にそう聞くと、京介さんは頷いて長い指でスーッと側方の

(いってんをさししめした。そこにはなにもみえなかった。)

一点を指し示した。そこにはなにも見えなかった。

(きょうすけさんのゆびさきはてんないのひとつのせきをはっきりさしていたのに、)

京介さんの指先は店内の一つの席をはっきり指していたのに、

(そこにはだれもすわっていなかった。てんないはらんちたいむでこみはじめ、)

そこにはだれも座っていなかった。店内はランチタイムで混み始め、

(ほとんどのせきがうまってしまっているというのに、)

ほとんどの席が埋まってしまっているというのに、

(そこにはだれもすわっていないのだった。)

そこにはだれも座っていないのだった。

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