引き出し-4-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(わかっている、とおれがうなずくとむきなおり、そっとのぶをひいていく。)

分かっている、と俺が頷くと向き直り、そっとノブを引いていく。

(しかいにわずかなひかりがさす。へやのかーてんのすきまからうすっすらとしたあさひが)

視界にわずかな光が差す。部屋のカーテンの隙間から薄っすらとした朝日が

(もれている。もうすぐよるがあけてしまう。よけいなじかんをかけたからだ。)

漏れている。もうすぐ夜が明けてしまう。余計な時間を掛けたからだ。

(そうおもったのもつかのま、めのまえにひろがるしつないのようすにあぜんとする。)

そう思ったのも束の間、目の前に広がる室内の様子に唖然とする。

(だいにんぐとりびんぐをかねたようなまどりのかなりひろいへやに、ところせましと)

ダイニングとリビングを兼ねたような間取りのかなり広い部屋に、所狭しと

(かぐやものがならべられている。あきらかにふだんのせいかつじょうのものではない。)

家具や物が並べられている。明らかに普段の生活上のものではない。

(へやのまんなかや、きょじゅうくうかんをおかすようなばしょにそれらがおかれていたからだ。)

部屋の真ん中や、居住空間を侵すような場所にそれらが置かれていたからだ。

(ちらかってるのとはちがう。しいていえば、ひっこしのさいちゅうのようないんしょうだ。)

散らかってるのとは違う。強いて言えば、引越しの最中のような印象だ。

(ただ、ふだんこのへやにあるらしいかぐるいは)

ただ、普段この部屋にあるらしい家具類は

(きちんとあるべきばしょにおさまっているようにみえる。)

きちんとあるべき場所に収まっているように見える。

(ようするに、「おおい」のだ。どこかべつのばしょから、)

要するに、「多い」のだ。どこか別の場所から、

(よぶんなかぐがはこびこまれているのか。)

余分な家具が運び込まれているのか。

(はっとした。ふつかまえのかれーやではなしたこと。)

ハッとした。二日前のカレー屋で話したこと。

(「そのへやから、べっどとひきだしいがい、ぜんぶそとにだす」)

『その部屋から、ベッドと引き出し以外、全部外に出す』

(きゃっかされたはずのおれのていあんを、かのじょはおれたちがくるのにあわせて)

却下されたはずの俺の提案を、彼女は俺たちが来るのに合わせて

(じっせんしてしまったのか。みていてくれているひとがいるからと、あんしんして。)

実践してしまったのか。見ていてくれている人がいるからと、安心して。

(いやなよかんがした。そのむぞうさにおかれたかぐたちをいくすじかのあわいこうせんがてらす。)

嫌な予感がした。その無造作に置かれた家具たちを幾筋かの淡い光線が照らす。

(おんきょうがかたいひょうじょうで、おれのしゃつをひっぱる。)

音響が硬い表情で、俺のシャツを引っ張る。

(そのゆびさすさきにはべつのへやにつうじるどあがあった。)

その指さす先には別の部屋に通じるドアがあった。

(しんしつか。ごくりとつばをのみこむ。)

寝室か。ゴクリと唾を飲み込む。

など

(かぐはこのむこうのへやからもちこまれたものにちがいない。)

家具はこの向こうの部屋から持ち込まれたものに違いない。

(ということは、このむこうには・・・・・・)

ということは、この向こうには……

(おんきょうがしずかにどあをあけていく。)

音響が静かにドアを開けていく。

(あとにつづくおれのめのまえに、うすぐらいしつないがひろがる。)

後に続く俺の目の前に、薄暗い室内が広がる。

(てまえのへやよりもかーてんがあついのか。)

手前の部屋よりもカーテンが厚いのか。

(それでも、そこにはよあけのくうきがみちはじめていた。)

それでも、そこには夜明けの空気が満ち始めていた。

(がらんとしたへや。いようなこうけいだった。)

ガランとした部屋。異様な光景だった。

(べっどと、ちいさなたんすだけ。あとはなにもない。けっしてせまくないしつないが、)

ベッドと、小さなタンスだけ。あとはなにもない。けっして狭くない室内が、

(さらにひろくかんじる。そして、そのたんすのいちばんうえのひきだしがひらいている。)

さらに広く感じる。そして、そのタンスの一番上の引き出しが開いている。

(さむけがした。どこかとおくからみみなりがきこえ、)

寒気がした。どこか遠くから耳鳴りが聞こえ、

(そしてふぇーどあうとしていくようにきえていった。)

そしてフェードアウトしていくように消えていった。

(ひっ、といういきをのむこえがする。)

ひっ、という息を飲む声がする。

(おんきょうがふるえるゆびでおれのしゃつのすそをつかんでいる。)

音響が震える指で俺のシャツの裾を掴んでいる。

(そのしせんのさきに、べっどのふくらみがある。)

その視線の先に、ベッドの膨らみがある。

(そのかけぶとんのなかからちいさなかおがのぞいている。)

その掛け布団の中から小さな顔が覗いている。

(そのかおはたんすのほうをみている。くびをひねったかっこうで。)

その顔はタンスの方を見ている。首を捻った格好で。

(めが、ひらいている。まるでじぶんのいしではないように、)

目が、開いている。まるで自分の意思ではないように、

(しゅういのきんにくがこわばったままめがみひらかれているようだった。)

周囲の筋肉が強張ったまま目が見開かれているようだった。

(そのめは、たんすのいちばんうえ、ひとつだけとびでたひきだしをぎょうししている。)

その目は、タンスの一番上、一つだけ飛び出た引き出しを凝視している。

(いじょうなけはいがへやをつつんでいる。)

異常な気配が部屋を包んでいる。

(おれとおんきょうのいきづかいだけがきこえる。)

俺と音響の息遣いだけが聞こえる。

(ふつかまえのはなしをきいただんかいではゆめのかのうせいがたかいとおもっていた。)

二日前の話を聞いた段階では夢の可能性が高いと思っていた。

(だが、げんじつにはかのじょのめはひらいている。ということはかなしばりか。)

だが、現実には彼女の目は開いている。ということは金縛りか。

(だが・・・・・・いま、このしゅんかん、べっどとひきだしのあいだのくうかんに、)

だが……今、この瞬間、ベッドと引き出しの間の空間に、

(おれのめにはなにもみえないそのくうかんに、かのじょはなにかをみているのだろうか。)

俺の目には何も見えないその空間に、彼女は何かを見ているのだろうか。

(へやのいりぐちでうごけないでいるおれたちのまえに、)

部屋の入り口で動けないでいる俺たちの前に、

(べっどのなかでうごけないでいるしょうじょの、こえにならないひめいがひびいてくるような、)

ベッドの中で動けないでいる少女の、声にならない悲鳴が響いて来るような、

(そんなげんちょうさえするようだ。だが、なにも。なにもみえない。みえないのに。)

そんな幻聴さえするようだ。だが、何も。何も見えない。見えないのに。

(かのじょのおおきくひらかれためは、いま、なにをみている?ひめいがあがった。)

彼女の大きく開かれた目は、今、何を見ている?悲鳴が上った。

(のうてんをちょくげきするしょっくがある。おんきょうがあたまをかかえてさけんでいる。)

脳天を直撃するショックがある。音響が頭を抱えて叫んでいる。

(きょうふしんにたえきれなくなったのか。)

恐怖心に耐え切れなくなったのか。

(だがつぎのしゅんかん、おれのからだはむいしきにはんのうした。)

だが次の瞬間、俺の身体は無意識に反応した。

(じぶんでもよくわからないことをわめきながらたんすにかけより、)

自分でもよく分からないことを喚きながらタンスに駆け寄り、

(ひきだしをなぐりつけるようにしてしめる。)

引き出しを殴りつけるようにして閉める。

(それにひきずられるようにうごいたおんきょうが、)

それに引きずられるように動いた音響が、

(すこしおくれてべっどのうえのしょうじょにおおいかぶさる。「おきて、おきて」)

少し遅れてベッドの上の少女に覆いかぶさる。「起きて、起きて」

(さけぶようにくりかえす。おれははいごのたんすをきにしながら、そのようすをみまもる。)

叫ぶように繰り返す。俺は背後のタンスを気にしながら、その様子を見守る。

(やがてこうちょくしたようにくびをまげてめをひらいていたるりが、)

やがて硬直したように首を曲げて目を開いていた瑠璃が、

(びくんとぜんしんをふるわせるとちいさくいきをはいた。「おきた?おきた?」)

ビクンと全身を震わせると小さく息を吐いた。「起きた? 起きた?」

(おんきょうがかけぶとんをはぎとって、そのかたをゆさぶる。)

音響が掛け布団を剥ぎ取って、その肩を揺さぶる。

(かるいけいれんのようなふるえがそのかおにはしったあと、るりはちいさくうなずいた。)

軽い痙攣のような震えがその顔に走った後、瑠璃は小さく頷いた。

(とりあえずはだいじょうぶのようだ。おれはすこしおちついてたんすのほうをふりかえる。)

とりあえずは大丈夫のようだ。俺は少し落ち着いてタンスの方を振り返る。

(あのいようなけはいはどこかへいってしまっていた。やわらかなもくめちょうの、)

あの異様な気配はどこかへ行ってしまっていた。柔らかな木目調の、

(ただのありふれたたんすだ。それでもみがまえながら、)

ただのありふれたタンスだ。それでも身構えながら、

(そっといちばんうえのひきだしにてをかける。おそるおそるひいていくとなかには、)

そっと一番上の引き出しに手を掛ける。恐る恐る引いていくと中には、

(しろいぬのがみえるばかりだった。くらくてよくみえないが、くつしたのたぐいのようだ。)

白い布が見えるばかりだった。暗くてよく見えないが、靴下の類のようだ。

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