引き出し-5-(完)

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(おそれるようなものはなにもない。あのけはいはさっかくだったのか。)

恐れるようなものはなにもない。あの気配は錯覚だったのか。

(そのとき、はいごからまたひめいがあがった。まったくよきしてなかったので、)

その時、背後からまた悲鳴が上った。全く予期してなかったので、

(とびあがるほどおどろいた。それでもふりかえり、べっどのほうをみる。)

飛び上がるほど驚いた。それでも振り返り、ベッドの方を見る。

(おんきょうがくちをおさえながらふるえるゆびさきでるりのみぎてくびをさしている。)

音響が口を押さえながら震える指先で瑠璃の右手首を指している。

(ぱじゃまのすそからほそいてくびがのぞいているのだが、)

パジャマの裾から細い手首が覗いているのだが、

(そのいようなほどしろいはだに、こいあざがくっきりとうかびあがっていた。)

その異様なほど白い肌に、濃い痣がくっきりと浮かび上がっていた。

(それは、にんげんのてのひらのかたちにみえた。てくびをつかみ、)

それは、人間の手の平の形に見えた。手首を掴み、

(ありったけのちからでにぎりしめたようなこんせき・・・・・・なきだしそうなほど)

ありったけの力で握り締めたような痕跡……泣き出しそうなほど

(おびえているおんきょうにたいし、とうのほんにんはきょとんとして)

怯えている音響に対し、当の本人はきょとんとして

(じたいをはあくしているのかどうかもわからないようなかおをしている。)

事態を把握しているのかどうかも分からないような顔をしている。

(ていけつあつのにんげんのねおきだからなのか。おれはとっさにぼうかんのかのうせいをかんがえた。)

低血圧の人間の寝起きだからなのか。俺はとっさに暴漢の可能性を考えた。

(ひとりぐらしのじょせいのへやにしのびこむ、ふらちなやから。)

一人暮らしの女性の部屋に忍び込む、不埒な輩。

(だがいりぐちにはかぎがかかっていた。それはこのおれじしんたしかめている。)

だが入り口には鍵が掛かっていた。それはこの俺自身確かめている。

(すぐにかーてんのすきまにてをつっこみ、このしんしつのまどにかぎがかかっているのを)

すぐにカーテンの隙間に手を突っ込み、この寝室の窓に鍵が掛かっているのを

(たしかめる。そしてふたりをのこしたままとなりのへやにいどうし、すべてのまどと、)

確かめる。そして二人を残したまま隣の部屋に移動し、すべての窓と、

(べらんだへのでいりぐちにかぎがかかっているのをかくにんした。)

ベランダへの出入り口に鍵が掛かっているのを確認した。

(ねんのためにふろやといれのなかもかってにあけてなかにだれもひそんでいないかしらべる。)

念のために風呂やトイレの中も勝手に開けて中に誰も潜んでいないか調べる。

(ひろいとはいってもしょせんまんしょんのへやだ。)

広いとは言っても所詮マンションの部屋だ。

(すぐにおれたちさんにんいがいだれもいないことはわかる。)

すぐに俺たち三人以外誰もいないことは分かる。

(ということは、おれとおんきょうがやってくるまで、このまんしょんのへやは)

ということは、俺と音響がやってくるまで、このマンションの部屋は

など

(みっしつじょうたいだった。そしてあのあざをみるに、ついてからさほどじかんが)

密室状態だった。そしてあの痣を見るに、ついてからさほど時間が

(けいかしていないだろうということをあわせてかんがえると、)

経過していないだろうということを合わせて考えると、

(ごうりてきにだせるけつろんはひとつしかない。おれはすぐにしんしつにとってかえし、)

合理的に出せる結論は一つしかない。俺はすぐに寝室に取って返し、

(まだべっどからおきあがらないるりのみぎてくびをつかむ。)

まだベッドから起き上がらない瑠璃の右手首を掴む。

(そしてじっくりとそのあざのあとをみる。とくちょうてきなぶぶんがある。よんほんのぼうと)

そしてじっくりとその痣の跡を見る。特徴的な部分がある。四本の棒と

(そのむかいがわのいっぽんのぼう。そのいちかんけいをしっかりとかくにんする。)

その向かい側の一本の棒。その位置関係をしっかりと確認する。

(ひだりてだ。かのじょのみぎてのてくびにこのあざをつけたのはだれかのひだりて。)

左手だ。彼女の右手の手首にこの痣をつけたのは誰かの左手。

(そしてそのだれかとは・・・・・・かのじょじしん。「なにするの」おんきょうがこうぎのこえをあげる。)

そしてその誰かとは……彼女自身。「なにするの」音響が抗議の声を上げる。

(これはじしょうこういのいっしゅなのか。ひきだしからでてくるというしろいても、)

これは自傷行為の一種なのか。引き出しから出てくるという白い手も、

(かのじょのもうそうのさんぶつなのだろうか。あるいはまいばんひきだしを)

彼女の妄想の産物なのだろうか。あるいは毎晩引き出しを

(あけていたのもかのじょじしんなのかもしれない。)

開けていたのも彼女自身なのかも知れない。

(じぶんのしていることを、まるでたにんにされているようにかんじるせいしんしょうがいが)

自分のしていることを、まるで他人にされているように感じる精神障害が

(あるらしいが、このしょうじょも、そういうこころのやまいをかかえているのだろうか。)

あるらしいが、この少女も、そういう心の病を抱えているのだろうか。

(そうかんがえているとぎゃくにぞっとするものがあった。)

そう考えていると逆にゾッとするものがあった。

(だがつぎのしゅんかん、おれのめはしんじられないものをみた。)

だが次の瞬間、俺の目は信じられないものを見た。

(るりが、おれにつかまれたみぎてをとりもどそうとするように、)

瑠璃が、俺に掴まれた右手を取り戻そうとするように、

(もうかたほうのひだりてをのろのろとのばしてきたときだ。)

もう片方の左手をのろのろと伸ばして来た時だ。

(そのぱじゃまのすそがずれててくびがあらわになる。)

そのパジャマの裾がずれて手首が露になる。

(そこにはみぎてのてくびとまったくおなじかたちのあざがうかんでいた。おもわずいきをのんだ。)

そこには右手の手首と全く同じ形の痣が浮かんでいた。思わず息を飲んだ。

(あざ。ひだりてくびにも、あざ。むかいあう、よんほんのぼうと、いっぽんのぼう。)

痣。左手首にも、痣。向かい合う、四本の棒と、一本の棒。

(おもいきりにぎりしめられたようなあと。ひだりてくびに、ひだりてのあと?)

思い切り握り締められたような跡。左手首に、左手の跡?

(おれはじぶんのてのひらをぎょうしして、にんげんのゆびのこうぞうをかくにんする。)

俺は自分の手の平を凝視して、人間の指の構造を確認する。

(あのあざは、まちがいなくひだりてでつけられたものだ。)

あの痣は、間違いなく左手で付けられたものだ。

(どうすれば、じぶんのひだりてくびにひだりてでにぎったあざをつけられるんだ?)

どうすれば、自分の左手首に左手で握った痣を付けられるんだ?

(それともみっしつじょうたいのこのへやのなかにかのじょいがいのだれかがいて、)

それとも密室状態のこの部屋の中に彼女以外の誰かがいて、

(そしてこつねんときえたというのだろうか。おれはじぶんのはいごにあるたんすに、)

そして忽然と消えたというのだろうか。俺は自分の背後にあるタンスに、

(ふたたびいようなけはいをかんじた。だがそれはおれのさっかくにすぎないのだろう。)

再び異様な気配を感じた。だがそれは俺の錯覚に過ぎないのだろう。

(ただのきょうふしんがうみだしたまぼろしに・・・・・・)

ただの恐怖心が生み出した幻に……

(るりはそのじぶんのひだりてくびのあざにきづき、)

瑠璃はその自分の左手首の痣に気づき、

(そこにじっとしせんをおとしていたかとおもうと、ひとことぽつりとつぶやいた。)

そこにじっと視線を落としていたかと思うと、一言ぽつりと呟いた。

(「heseemedtohave)

「He seemed to have

(cometothisroom・・・・・・」おれはかのじょのかおをあらためてみる。)

come to this room……」俺は彼女の顔を改めて見る。

(そのとき、かーてんからさしこんだひかりがそのひとみにはんしゃしてきらりとかがやいた。)

その時、カーテンから射し込んだ光がその瞳に反射してキラリと輝いた。

(いまさらのようにきづく。ふつかまえと、めのいろがちがうことに。)

今さらのように気づく。二日前と、目の色が違うことに。

(あのときはたしかにえめらるどぐりーんだった。)

あの時は確かにエメラルドグリーンだった。

(いかにもからーこんたくとらしいやすっぽいいろをしていた。)

いかにもカラーコンタクトらしい安っぽい色をしていた。

(けれどいま、めのまえにいるしょうじょのめはあざやかなぶるーだ。)

けれど今、目の前にいる少女の目は鮮やかなブルーだ。

(からーこんたくとをしたままねむりはしないだろう。)

カラーコンタクトをしたまま眠りはしないだろう。

(いや、そういうじょうしきをぬきにしても、それがかのじょのなちゅらるな)

いや、そういう常識を抜きにしても、それが彼女のナチュラルな

(めのいろであることはちょっかんでわかった。「にほんじんじゃ、ないのか」)

目の色であることは直感で分かった。「日本人じゃ、ないのか」

(そうつぶやいたおれに、おんきょうがよこからくちをとがらせる。「だからつうやくしてたじゃない」)

そう呟いた俺に、音響が横から口を尖らせる。「だから通訳してたじゃない」

(ななめにさしこむあけがたのひかりのなかに、にんぎょうのようなかおをしたしょうじょが)

斜めに射し込む明け方の光の中に、人形のような顔をした少女が

(かすかにほほえんだきがした。そのあとのてんまつは、またべつのきかいにはなそう。)

微かに微笑んだ気がした。その後の顛末は、また別の機会に話そう。

(このしょうじょがもちこんだじけんは、かんたんにかたれないほどやっかいなじたいを)

この少女が持ち込んだ事件は、簡単に語れないほどやっかいな事態を

(ひきおこしていくのだから。そのためにはもうすこし、それにかかわるかこを)

引き起こして行くのだから。そのためにはもう少し、それに関わる過去を

(ほりおこすひつようがあるだろう。ただ、ひとつだけつけくわえることがある。)

掘り起こす必要があるだろう。ただ、一つだけ付け加えることがある。

(そのどようびからすうじつご、おれはふるほんやにたちよった。)

その土曜日から数日後、俺は古本屋に立ち寄った。

(そこでふとおもいだしてるぶらんのるぱんしりーずのしょうせつをさがしてみた。)

そこでふと思い出してルブランのルパンシリーズの小説を探してみた。

(またよみたくなったのだ。だが、なかなかみつからない。)

また読みたくなったのだ。だが、なかなか見つからない。

(うろうろとてんないをあるきまわることしばし。もうてんだったいりぐちちかくで)

うろうろと店内を歩き回ることしばし。盲点だった入り口近くで

(そのこーなーをはっけんした。しかしそこにあったのはみなみよういちろうのほんやくによる)

そのコーナーを発見した。しかしそこにあったのは南洋一郎の翻訳による

(こどもむけのるぱんしりーずだったのだ。がっかりしながらも、)

子ども向けのルパンシリーズだったのだ。がっかりしながらも、

(しょうがくせいのころになんさつかよんだことをおもいだしてなつかしくなり)

小学生のころに何冊か読んだことを思い出して懐かしくなり

(いっさつぬきだしててにとってみた。やっぱりいまよむとひらがながおおく、)

一冊抜き出して手に取ってみた。やっぱり今読むと平仮名が多く、

(ひょうげんもよういでなんだかいわかんがある。くすぐったくなり、たなにもどす。)

表現も容易でなんだか違和感がある。くすぐったくなり、棚に戻す。

(そしてそのちかくのあったたいとるがめにとまった。)

そしてその近くのあったタイトルが目に留まった。

(それをみたしゅんかん、わらいだしてしまう。だって、おかしいから。)

それを見た瞬間、笑い出してしまう。だって、おかしいから。

(あのときかれーやで、おんきょうがおどろいたわけがわかったのだ。)

あの時カレー屋で、音響が驚いたわけが分かったのだ。

(おれが「おーれりー」とつぶやいたときだ。みどりのめのれいじょうとでもたたえるべき)

俺が「オーレリー」と呟いた時だ。緑の目の令嬢とでも称えるべき

(るりのようしをあげつらったおれにたいし、おんきょうは「どうしてしってるの」といった。)

瑠璃の容姿をあげつらった俺に対し、音響は「どうして知ってるの」と言った。

(おなじるぱんしりーずをよんでいるにんげんだと、おたがいここでわかったわけだが、)

同じルパンシリーズを読んでいる人間だと、お互いここで分かったわけだが、

(そのときのかのじょのことばのにゅあんすは、おれがそううけとったように)

その時の彼女の言葉のニュアンスは、俺がそう受け取ったように

(「どうしてあなたもそのしょうせつをよんでるの」という)

「どうしてあなたもその小説を読んでるの」という

(たんじゅんなものではなかったらしい。そこには、あるかくされたしんじつを)

単純なものではなかったらしい。そこには、ある隠された真実を

(ひとめでみやぶられたことへのおどろきがこめられていたのだ。)

一目で見破られたことへの驚きが込められていたのだ。

(おれはわらいながら、そのたいとるのせびょうしをたなからぬきだす。)

俺は笑いながら、そのタイトルの背表紙を棚から抜き出す。

(とおりすぎるきゃくがへんなめでこっちをみている。)

通り過ぎる客が変な目でこっちを見ている。

(ほんのなかみをかくにんして、「やっぱり」とおもった。)

本の中身を確認して、「やっぱり」と思った。

(どらえもんもみてないくせに、るぱんしりーずはよんでるなんて)

ドラえもんも見てないくせに、ルパンシリーズは読んでるなんて

(なまいきだとおもったのだが、どうやらはやとちりだったらしい。)

生意気だと思ったのだが、どうやら早とちりだったらしい。

(おんきょうは、このこどもむけのみなみよういちろうやくのしりーずをよんだだけだったのだ。)

音響は、この子供向けの南洋一郎訳のシリーズを読んだだけだったのだ。

(おれがべつのほんやくかによるほうだい、「みどりのめのれいじょう」としてきおくしていたほんを、)

俺が別の翻訳家による邦題、『緑の目の令嬢』として記憶していた本を、

(かのじょはみなみよういちろうのほんやくによるたいとるでおぼえていたらしい。)

彼女は南洋一郎の翻訳によるタイトルで覚えていたらしい。

(ぺーじをとじ、うすくほこりをかぶっているそのほんのひょうしをかるくいきでふく。)

頁を閉じ、薄く埃を被っているその本の表紙を軽く息で吹く。

(「あおいめのしょうじょ」なるほどね。また、わらった。)

『青い目の少女』なるほどね。また、笑った。

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