鋏-3-
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | tetsumi | 5384 | B++ | 5.5 | 97.4% | 659.9 | 3649 | 96 | 70 | 2024/10/26 |
2 | 上半身が痛い | 4374 | C+ | 4.6 | 94.8% | 764.0 | 3535 | 193 | 70 | 2024/11/07 |
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問題文
(なにかおかしい。なにより、いまさっきかんじたいやなくうきのながれが、)
何かおかしい。なにより、今さっき感じた嫌な空気の流れが、
(じたいのふかかいさをつよめている。「なあ、そのはさみさまっていうおまじまいは、)
事態の不可解さを強めている。「なあ、その鋏様っていうおまじまいは、
(むかしからあるのかな。せんぱいからかたりつがれたうわさとか」)
昔からあるのかな。先輩から語り継がれた噂とか」
(「わからない。たぶんそうじゃないかな」)
「わからない。たぶんそうじゃないかな」
(「だったら、うわさがつたわるとちゅうでそのないようがずれてきてるってことは)
「だったら、噂が伝わる途中でその内容がズレて来てるってことは
(ありうるね。もとはすこしちがうおまじないだったのかもしれない。たとえば」)
ありうるね。元は少し違うおまじないだったのかも知れない。例えば」
(いうまいかまよって、やっぱりいった。)
言うまいか迷って、やっぱり言った。
(「はさみをそなえて、しんでほしいこのなまえをさんかいとなえれば・・・・・・」)
「ハサミを供えて、死んで欲しい子の名前を3回唱えれば……」
(がたんとまるいいすがなり、ほおにあついかんしょくがはしった。)
ガタンと丸い椅子が鳴り、頬に熱い感触が走った。
(「あ」といって、おんきょうはたったままじぶんのみぎてをみつめる。)
「あ」と言って、音響は立ったまま自分の右手を見つめる。
(ひらてだった。「ごめんなさい」)
平手だった。「ごめんなさい」
(そういってうつむくすがたをみてしまうと、ほおのいたみなどもはや)
そう言ってうつむく姿を見てしまうと、頬の痛みなどもはや
(どうでもよく、おびえているしょうじょをわざわざこわがらせるようなことを)
どうでもよく、怯えている少女をわざわざ怖がらせるようなことを
(いったじぶんのおとなげなさにはらだちをおぼえるのだった。)
言った自分の大人気なさに腹立ちを覚えるのだった。
(「わかった。なんとかする」やすうけあいとはおもわなかった。)
「わかった。なんとかする」安請け合いとは思わなかった。
(ししょをしているおかるとずきのせんぱいになきつくまえに、)
司書をしているオカルト好きの先輩に泣きつく前に、
(じぶんのちからでなんとかできるんじゃないかというさんだんが)
自分の力でなんとかできるんじゃないかという算段が
(すでにあたまのなかにできあがりつつあったのだ。)
すでに頭の中に出来上がりつつあったのだ。
(「とりあえず、そのはさみさまのばしょをおしえてくれ」)
「とりあえず、その鋏様の場所を教えてくれ」
(うなずくと、おんきょうはばっぐからかわいらしいでざいんののーとをとりだして、)
頷くと、音響はバッグから可愛らしいデザインのノートを取り出して、
(ちずをえがきはじめた。あんないするきはないようだった。)
地図を描き始めた。案内する気はないようだった。
(えたいのしれないものにおびえているいまは、それもしかたがないのかもしれない。)
得体の知れないものに怯えている今は、それも仕方がないのかも知れない。
(やまへのあがりぐちまではかんたんだが、じぞうのあるばしょまでが)
山への上り口までは簡単だが、地蔵のある場所までが
(わかりにくいはずだった。)
分かりにくいはずだった。
(ところが、とちゅうのめだつきのいくつかにしるしがしてあるのだという。)
ところが、途中の目立つ木のいくつかに印がしてあるのだという。
(だれがつけたのかはわからないそうだが、かこからげんざいにおいて)
誰がつけたのかは分からないそうだが、過去から現在において
(ひみつをきょうゆうしているじょしせいとたちのいずれかなのだろう。)
秘密を共有している女子生徒たちのいずれかなのだろう。
(「でもあんまりきたいすんなよ」おんきょうはしんみょうにうなずいた。)
「でもあんまり期待すんなよ」音響は神妙に頷いた。
(「でもどうしておれなんだ」「さっきいった」)
「でもどうして俺なんだ」「さっき言った」
(「にねんもまえのことをいまさらおもいだしたのか」「・・・・・・」)
「2年も前のことを今更思い出したのか」「……」
(かのじょはぺんをとめ、それをゆびのうえでくるくるときようにまわす。)
彼女はペンを止め、それを指の上でくるくると器用に回す。
(「あのくだらないさーくるにひとり、ほんものがいるってきいてた。)
「あのくだらないサークルにひとり、ホンモノがいるって聞いてた。
(くらのぎっていうのが、あなたじゃないの」)
倉野木っていうのが、あなたじゃないの」
(おれはおもわずかたをゆすってわらった。)
俺は思わず肩を揺すって笑った。
(ひとちがいだ、というとふしんげにくびをかしげていたが、)
人違いだ、と言うと不審げに首をかしげていたが、
(まあいいわとぺんをにぎりなおした。)
まあいいわとペンを握りなおした。
(ちずができあがるとかのじょはのーとのぺーじをやぶりとり、)
地図が出来上がると彼女はノートのページを破り取り、
(おれにさしだした。みぎうえに、ちいさくけいたいでんわのばんごうがかかれている。)
俺に差し出した。右上に、小さく携帯電話の番号が書かれている。
(「たすけてくれたら、めちゃかわいいともだちをしょうかいしてあげる」)
「助けてくれたら、メチャ可愛い友だちを紹介してあげる」
(なまいきなことをいうので、「おまえでもじゅうぶんかわいいぞ」と)
生意気なことを言うので、「お前でも十分カワイイぞ」と
(うそぶいてはんのうをみたが、にくらしいことにへいぜんとしている。)
うそぶいて反応を見たが、憎らしいことに平然としている。
(「じゃあ」といってせきをたつかのじょへ、とっさにこえをかけた。)
「じゃあ」と言って席を立つ彼女へ、とっさに声を掛けた。
(「みっつのじぞうのうち、どれがはさみさまなんだ」)
「3つの地蔵のうち、どれが鋏様なんだ」
(たちどまってはんみでこちらをじっとみている。)
立ち止まって半身でこちらをじっと見ている。
(「いいだろう?ひみつをおしえておまじないのこうかがきえたって。)
「いいだろう? 秘密を教えておまじないの効果が消えたって。
(むしろそれでかいけつじゃないか」)
むしろそれで解決じゃないか」
(まようようなそぶりをいっしゅんみせたあと、おんきょうはささやくようなこえでこういった。)
迷うような素振りを一瞬見せたあと、音響は囁くような声でこう言った。
(「みぎはし」そしてむきなおるとにげるようなはやあしで)
「みぎはし」そして向き直ると逃げるような早足で
(みせのじどうどあからでていった。くらやみにとけていくように)
店の自動ドアから出て行った。暗闇に溶けていくように
(きえたそのすがたをしばらくめでおっていたが、やがててーぶるのうえの)
消えたその姿をしばらく目で追っていたが、やがてテーブルの上の
(ふたつのぐらすとやぶられたこーすたーのざんがいにしせんがおちる。そのかけらを)
ふたつのグラスと破られたコースターの残骸に視線が落ちる。その欠片を
(てにとって、なんとはなしにながめているとふしぎなことにきがついた。)
手に取って、なんとはなしに眺めていると不思議なことに気がついた。
(ゆびでさかれたしろいこーすたーは、そのさけめにかみのせんいが)
指で裂かれた白いコースターは、その裂け目に紙の繊維が
(ほつれたようなあとがのこっている。ところがそのはへんのうち、)
ほつれたような跡が残っている。ところがその破片のうち、
(いくつかのだんぺんにきれいにきりとられたようなこんせきがみつかった。)
いくつかの断片に綺麗に切り取られたような痕跡が見つかった。
(まるでえいりなはものでさいだんされたようなあとが。)
まるで鋭利な刃物で裁断されたような跡が。
(さっきのこーすたーをさいた、まるでむゆうびょうのようなかのじょのこうどうが、)
さっきのコースターを裂いた、まるで夢遊病のような彼女の行動が、
(これをかくすためだったかのようなきがしてくる。)
これを隠すためだったかのような気がしてくる。
(わたされたのーとのぺーじをひかりにかざすと、)
渡されたノートのページを光にかざすと、
(かのじょのえがいたあかいはさみのいらすとが、やけにまがまがしくみえた。)
彼女の描いた赤いハサミのイラストが、やけに禍々しく見えた。
(ふつかご、おれはかいちゅうでんとうをかたてにまよなかのさんちゅうをあるいていた。)
二日後、俺は懐中電灯を片手に真夜中の山中を歩いていた。
(ばいともやすみだったのでひるまのうちにしたみをするつもりだったのだが、)
バイトも休みだったので昼間のうちに下見をするつもりだったのだが、
(ひまつぶしのつもりではいったぱちんこやでこうせっていのぱちすろだいに)
暇つぶしのつもりで入ったパチンコ屋で高設定のパチスロ台に
(すわってしまったらしくとめるにとめられなくなり、)
座ってしまったらしく止めるに止められなくなり、
(まあいいやなんとかなるだろうと、これまでおかしてきたがくせいとしての)
まあいいやなんとかなるだろうと、これまで犯してきた学生としての
(あやまちからまったくなにもまなんでいないようなあたまのわるいはんだんをして、)
過ちから全く何も学んでいないような頭の悪い判断をして、
(よるにいたってしまっていたのだ。)
夜に至ってしまっていたのだ。
(もうではじめたかにいらいらしながらも、)
もう出始めた蚊にイライラしながらも、
(ぽけっとにしのばせたのーとのきれはしのちずをなんどもかくにんしつつ)
ポケットに忍ばせたノートの切れ端の地図を何度も確認しつつ
(そろそろとほをすすめた。)
ソロソロと歩を進めた。