追跡-4-
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | tetsumi | 5457 | B++ | 5.6 | 97.0% | 731.3 | 4115 | 124 | 78 | 2024/11/02 |
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問題文
(「ここからひがしへあるきます」)
「ここから東へ歩きます」
(といったものの、ふたりともとちかんがなくこまってしまった。)
と言ったものの、二人とも土地勘がなく困ってしまった。
(ちかくでしゅうへんのちずをえがいたかんばんをみつけて、そのげんざいいちから)
近くで周辺の地図を描いた看板を見つけて、その現在位置から
(かろうじてほうがくをわりだす。ぺーじないをよみすすめると、)
かろうじて方角を割り出す。ページ内を読み進めると、
(どうやらはいこうじょうにたどりつくらしい。)
どうやら廃工場にたどり着くらしい。
(かおをあげるが、まだそのしるえっとはみえない。)
顔を上げるが、まだそのシルエットは見えない。
(かわがちかいらしく、かすかにしめったかぜがほおをなでていく。)
川が近いらしく、かすかに湿った風が頬を撫でていく。
(さむさにうわぎのえりをなおした。うしろすがたにあった。)
寒さに上着の襟を直した。うしろすがたに会った。
(きゅうにこんないちぶんがでてくる。ぜんごをよんでも、よくわからない。)
急にこんな一文が出てくる。前後を読んでも、よくわからない。
(だれかのうしろすがたをみたということだろうか。)
誰かの後ろ姿を見たということだろうか。
(じゅうたくがいなのだろうが、さびれていておれたちのほかにひとかげもない。)
住宅街なのだろうが、寂れていて俺たちの他に人影もない。
(みぎてにはせのひくいざっそうがおいしげるあきちがあり、ひだりてにはたかいへいがつづいている。)
右手には背の低い雑草が生い茂る空き地があり、左手には高い塀が続いている。
(あかりといえば、おもいだしたようにすうじゅうめーとるかんかくで)
明かりといえば、思い出したように数十メートル間隔で
(がいとうがたっているだけだ。そのみちのむこうがわから、)
街灯が立っているだけだ。その道の向こう側から、
(だれかのあしおとがきこえはじめた。)
誰かの足音が聞こえ始めた。
(そしてほどなくして、くらやみのなかからちゅうにくちゅうぜいのだんせいのせなかがあらわれた。)
そしてほどなくして、暗闇の中から中肉中背の男性の背中が現れた。
(たしかにこちらにむかってあるいてきているのに、それはどうみても)
確かにこちらに向かって歩いて来ているのに、それはどう見ても
(うしろすがたなのだった。ふくだけをぎゃくにきているわけではない。)
後ろ姿なのだった。服だけを逆に着ているわけではない。
(よるにこんなひとけのないばしょで、うしろむきにあるいているひとなんて)
夜にこんなひとけのない場所で、後ろ向きに歩いている人なんて
(どうかんがえてもまともなにんげんじゃない。)
どう考えてもまともな人間じゃない。
(おれはみてみぬふりをしながら、それをやりすごそうと)
俺は見てみぬ振りをしながら、それをやり過ごそうと
(みちのはしによってはやあしでとおりすぎた。)
道の端に寄って早足で通り過ぎた。
(そして、どんなつらしてるんだとこっそりふりかえってみると、)
そして、どんなツラしてるんだとこっそり振り返ってみると、
(ぞくりとくびすじにつめたいものがはしった。)
ゾクリと首筋に冷たいものが走った。
(うしろすがただった。うしろすがたがさっきとおなじほちょうであるきさっていく。)
後ろ姿だった。後ろ姿がさっきと同じ歩調で歩き去っていく。
(よこをとおりすぎたいっしゅんに、むきなおったのだろうか。)
横を通り過ぎた一瞬に、向き直ったのだろうか。
(いや、そんなけはいはなかった。あしをとめるおれに、かのじょがどうしたのときく。)
いや、そんな気配はなかった。足を止める俺に、彼女がどうしたのと訊く。
(あれを、とふるえるゆびさきでしめすと、かのじょはくびをひねって、なに?という。)
あれを、と震える指先で示すと、彼女は首を捻って、なに? と言う。
(かのじょにはみえないらしい。)
彼女には見えないらしい。
(そしておれのしかいからもうしろすがたはゆっくりときえていった。やみのなかへと。)
そして俺の視界からも後ろ姿はゆっくりと消えていった。闇の中へと。
(「ついせき」からよみとるかぎり、ししょうのいくさきとはかんけいがないようだ。)
『追跡』から読みとる限り、師匠の行く先とは関係がないようだ。
(あんなさらっとよみとばせそうなぶぶんだったのに、)
あんなサラッと読み飛ばせそうな部分だったのに、
(おれのきもったまはすっかりちぢみあがってしまった。)
俺の肝っ玉はすっかり縮み上がってしまった。
(はいこうじょうのくろぐろとしたしるえっとがめのまえにあらわれたころにはすっかりあしが)
廃工場の黒々としたシルエットが目の前に現れた頃にはすっかり足が
(すくんで、ほんとにこんなとこにししょうがいるのかときよわになってしまっていた。)
竦んで、ホントにこんなとこに師匠がいるのかと気弱になってしまっていた。
(「で?こうじょうについたけど」)
「で? 工場についたけど」
(くずれかけたぶろっくべいのうちがわにはいり、かのじょがふりむく。)
崩れかけたブロック塀の内側に入り、彼女が振り向く。
(つづきをよめといっているのだ。)
続きを読めと言っているのだ。
(おれはふるえるてでぺんらいとをかざし、ぺーじをめくる。)
俺は震える手でペンライトをかざし、ページをめくる。
(よびかけにこたえるこえをたよりに、おくへとすすむ。)
呼びかけに答える声を頼りに、奥へと進む。
(そのままよみすすめ、こころのじゅんびうんぬんのいちぶんがなかったのでつづけてぺーじをめくる。)
そのまま読み進め、心の準備云々の一文が無かったので続けてページをめくる。
(ほんとうにこれでししょうをみつけられるのだろうか。)
本当にこれで師匠を見つけられるのだろうか。
(おれはおそるおそるこうじょうのしきちにはいっていき、ししょうのなまえをさけんだ。)
俺は恐る恐る工場の敷地に入って行き、師匠の名前を叫んだ。
(とたんのなみいたがかぜにたわむおとにまぎれて、かすかなこたえがきこえたきがする。)
トタンの波板が風にたわむ音に紛れて、微かな応えが聞こえた気がする。
(からっぽのそうこをいくつかとおりすぎ、しきちのすみにあったぷれはぶのまえにたつ。)
空っぽの倉庫をいくつか通り過ぎ、敷地の隅にあったプレハブの前に立つ。
(ぺんらいとのわずかなあかりにてらされて、)
ペンライトのわずかな明かりに照らされて、
(すぷれーやぺんきのらくがきだらけのがいそうがうかびあがる。)
スプレーやペンキの落書きだらけの外装が浮かび上がる。
(そのぜんめんにつたがからみついて、はいきされたものがなしいふぜいをかもしだしている。)
その全面に蔦がからみついて、廃棄された物悲しい風情を醸し出している。
(こごえで、もういちどよんでみる。)
小声で、もう一度呼んでみる。
(そのしゅんかん、なかからがたんというなにかきんぞくせいのものがたおれるおとがして、)
その瞬間、中からガタンという何か金属製のものが倒れる音がして、
(「ここだ」というよわよわしいこえがつづく。)
「ここだ」という弱々しい声が続く。
(けられたあとなのか、だれかのあしあとだらけのいりぐちのどあは、)
蹴られた跡なのか、誰かの足跡だらけの入り口のドアは、
(すぐみつかったが、どあのぶをひねってみてもやはりかぎがかかっている。)
すぐ見つかったが、ドアノブを捻ってみてもやはり鍵が掛かっている。
(「むだだ。あいつらなぜかあいかぎもってるんだ」というなかからのこえに、)
「無駄だ。あいつら何故か合鍵持ってるんだ」という中からの声に、
(「うらのまどからはいればいいんでしょう」とこたえると、)
「裏の窓から入ればいいんでしょう」と答えると、
(ししょうはすこしおしだまったあとかのじょがいるのかときいた。)
師匠は少し押し黙ったあと彼女がいるのかと訊いた。
(そのとおりだとこたえたあとで、おれはぷれはぶのうらにまわる。)
その通りだと答えたあとで、俺はプレハブの裏に回る。
(かなりたかいいちにまどはあったが、かべにたてかけられたはいざいを)
かなり高い位置に窓はあったが、壁に立てかけられた廃材を
(なんとかりようしてよじのぼる。)
なんとか利用してよじ登る。
(わるまでもなく、すでにがらすなどのこってはいないまどからからだをすべりこませる。)
割るまでもなく、すでにガラスなど残ってはいない窓から体を滑り込ませる。
(なかはくらい。なにもみえない。くちにくわえたぺんらいとをしたにむけると、)
中は暗い。何も見えない。口にくわえたペンライトを下に向けると、
(なんとかあしばはありそうだ。)
なんとか足場はありそうだ。
(さびついたなにかのほねぐみをつたって、したにおりる。)
錆付いたなにかの骨組みを伝って、下に降りる。
(ここだというこえに、ふみばもないほどぷらすてぃっくやらこうざいやらで)
ここだという声に、踏み場もないほどプラスティックやら鋼材やらで
(ちらかったあしもとにきをつけながらすすみ、ようやくししょうらしきひとかげをはっけんした。)
散らかった足元に気をつけながら進み、ようやく師匠らしき人影を発見した。
(てっせいのはしらをだくようにすわりこんでいる。)
鉄製の柱を抱くように座り込んでいる。
(よくみると、そのてにはてじょうがかけられている。)
よく見ると、その手には手錠が掛けられている。
(じぶんのてとてじょうとではしらをまくようなわっかをつくることで、)
自分の手と手錠とで柱を巻くような輪っかを作ることで、
(じゆうをうばわれているのだ。)
自由を奪われているのだ。
(かおをらいとでてらすと、「まぶしい」といってすぐにそらしたが、)
顔をライトで照らすと、「眩しい」と言ってすぐに逸らしたが、
(かなりしょうすいしていることはわかった。)
かなり憔悴していることは分かった。
(そしてなぐられたようなかおのはれにもきづいた。)
そして殴られたような顔の腫れにも気付いた。
(「つるはしみたいのがあるはずです」というと、)
「ツルハシみたいのがあるはずです」と言うと、
(ししょうはすこしかんがえるようにあたまをふったあと、「あのへんにあったかな」と)
師匠は少し考えるように頭を振ったあと、「あの辺にあったかな」と
(へやのすみをあごでさした。)
部屋の隅を顎で指した。
(くらくてよくみえないので、なかばてさぐりでさがす。)
暗くてよく見えないので、半ば手探りで探す。
(さびてささくれだったきんぞくへんがゆびにきずをつける。)
錆びてささくれ立った金属片が指に傷をつける。
(おれはかまわずにすすみ、ようやくもくてきのものをはっけんした。)
俺はかまわずに進み、ようやく目的のものを発見した。