三人目の大人

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 Shion 2816 E+ 2.9 96.1% 1931.6 5669 228 100 2024/10/02

関連タイピング

問題文

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(しょうがっこうにねんせいのきょうしつで、ずこうのじかんに「あなたのかぞくをえがいてね」という)

小学校2年生の教室で、図工の時間に『あなたの家族を描いてね』という

(かだいがでた。みんなおしゃべりをしながらいろえんぴつでがようしいっぱいにえをかいた。)

課題が出た。みんなお喋りをしながら色鉛筆で画用紙いっぱいに絵を描いた。

(はらっぱにおとうさんとおかあさんとおんなのこがにこにこわらいながらならんでいるえ。)

原っぱにお父さんとお母さんと女の子がニコニコ笑いながら並んでいる絵。

(すべりだいのようなものにのってあそんでいるこどもふたりを、)

スベリ台のようなものに乗って遊んでいる子ども二人を、

(おとうさんとおかあさんがみているえ。おとうさんとおかあさんだけではなく、)

お父さんとお母さんが見ている絵。お父さんとお母さんだけではなく、

(おじいちゃんおばあちゃんもいっしょにならんでいるえ。)

おじいちゃんおばあちゃんも一緒に並んでいる絵。

(かっているねこやいぬもいっしょにえがいているこがおおかった。)

飼っている猫や犬も一緒に描いている子が多かった。

(そのねんだいのこどもはぺっともかぞくのいちいんというにんしきがつよいのだろう。)

その年代の子どもはペットも家族の一員という認識が強いのだろう。

(じゅぎょうがおわり、えがきあがったさくひんをひとつひとつみていたせんせいは、)

授業が終わり、描きあがった作品をひとつひとつ見ていた先生は、

(ふと、あるこがえがいたえにくびをかしげた。それはくらすでもおとなしい、)

ふと、ある子が描いた絵に首を傾げた。それはクラスでも大人しい、

(めだたないおとこのこがえがいたもので、みためにはなんしょくもの)

目立たない男の子が描いたもので、見た目には何色もの

(いろえんぴつをふんだんにつかい、にぎやかでたのしいえになっている。)

色鉛筆をふんだんに使い、賑やかで楽しい絵になっている。

(けれどそこにはきみょうないわかんがあった。)

けれどそこには奇妙な違和感があった。

(がようしにはかぞくがてーぶるらしきものをかこんですわっているえがえがかれている。)

画用紙には家族がテーブルらしきものを囲んで座っている絵が描かれている。

(しょくじどきのだんらんのふうけいだろうか。みんなこちらがわをむいているのだが、)

食事どきの団欒の風景だろうか。みんなこちらがわを向いているのだが、

(そのこうせいがどこかおかしい。)

その構成がどこかおかしい。

(ひだりからおとうさんらしいめがねをかけたおとなと、)

左からお父さんらしい眼鏡を掛けた大人と、

(おかあさんらしいぱーまあたまのおとな、そしておとこのこがひとり。)

お母さんらしいパーマ頭の大人、そして男の子が一人。

(さらにみぎはしにはもうひとりのおとながいる。みんなわらっていて、)

さらに右端にはもう一人の大人がいる。みんな笑っていて、

(くちのなかはあかいいろでごうかいにぬられているのに、)

口の中は赤い色で豪快に塗られているのに、

など

(みぎはしのおとなだけはくちをとじたまま、むひょうじょうですわっている。)

右端の大人だけは口を閉じたまま、無表情で座っている。

(めはいとのようにほそい。おとなだということはからだのおおきさでわかる。)

目は糸のように細い。大人だということは身体の大きさで分かる。

(くらすのこどもたちはみんな、こどもであるじぶんとおとなを)

クラスの子どもたちはみんな、子どもである自分と大人を

(はっきりおおきさでくべつしている。そのみぎはしのむひょうじょうのおとなは、)

はっきり大きさで区別している。その右端の無表情の大人は、

(ねんれいはよくわからないが、しわをあらわすせんがまったくないのですくなくとも)

年齢はよくわからないが、皺を表す線がまったくないので少なくとも

(ろうじんではないようだった。さんにんのおとなとひとりのこども。・・・・・・)

老人ではないようだった。三人の大人と一人の子ども。……

(それはどこかひとをふあんなきもちにさせるえだった。)

それはどこか人を不安な気持ちにさせる絵だった。

(せんせいはそのおとこのこのかぞくこうせいをおもいだす。)

先生はその男の子の家族構成を思い出す。

(だんちのあぱーとのいっしつにすんでいるいっかで、おとうさんとおかあさんと)

団地のアパートの一室に住んでいる一家で、お父さんとお母さんと

(そのひとりむすこのさんにんかぞくだったはず。)

その一人息子の三人家族だったはず。

(ではこのさんにんめのおとなはいったいだれなのだろう。)

ではこの三人目の大人はいったい誰なのだろう。

(さいきんしんせきでもあそびにきていたのだろうか?)

最近親戚でも遊びに来ていたのだろうか?

(そうおもって、せんせいはこびりつくようなきもちのわるさをふりはらう。)

そう思って、先生はこびり付くような気持ちの悪さを振り払う。

(きをとりなおしてつぎのえをめくる。)

気を取り直して次の絵をめくる。

(けれど、あたまのかたすみではそのさんにんめのおとながどうしてわらっているかぞくのなかで)

けれど、頭の片隅ではその三人目の大人がどうして笑っている家族の中で

(ひとりだけむひょうじょうにえがかれているのだろうと、かんがえずにはいられなかった。)

一人だけ無表情に描かれているのだろうと、考えずにはいられなかった。

(にしゅうかんがすぎた。そのひはさんかんびで、きょうしつのうしろにずらりとならぶ)

2週間が過ぎた。その日は参観日で、教室の後ろにズラリと並ぶ

(きかざったおとなたちにこどもたちはきもそぞろ。)

着飾った大人たちに子どもたちは気もそぞろ。

(いつもははりきってわるさをするこもそのときばかりは)

いつもは張り切って悪さをする子もその時ばかりは

(かちこちにきんちょうしておとなしくなってしまっている。)

カチコチに緊張して大人しくなってしまっている。

(せんせいはじゅぎょうのおわりに、「このあいだのずこうのじかんに)

先生は授業の終わりに、「このあいだの図工の時間に

(みんなかぞくのえをかいたよね」といった。きゃあ、というこどもたちのかんせい。)

みんな家族の絵を描いたよね」と言った。きゃあ、という子どもたちの歓声。

(そしてせんせいはじゅぎょうさんかんをしているふけいたちのうしろをてでしめし、)

そして先生は授業参観をしている父兄たちの後ろを手で示し、

(「うしろのかべにはっているのがそのえです」といった。)

「後ろの壁に貼っているのがその絵です」と言った。

(ふけいたちはいっせいにふりかえり、わがこのさくひんをみようと)

父兄たちは一斉に振り返り、我が子の作品を見ようと

(えのしたにはられたなまえをたよりにさがしはじめる。そしておかあさんたちは)

絵の下に貼られた名前を頼りに探し始める。そしてお母さんたちは

(「いやぁ」とくちぐちにいって、おおげさなみぶりではずかしがる。おとうさんたちは)

「いやぁ」と口々に言って、大げさな身振りで恥ずかしがる。お父さんたちは

(しずかにくしょうをする。こどもたちはてんでにさわぎはじめておおはしゃぎ。)

静かに苦笑をする。子どもたちはてんでに騒ぎ始めて大はしゃぎ。

(そんなこうけいをほほえましくながめていたせんせいは、ふけいたちにはなしかけようと)

そんな光景を微笑ましく眺めていた先生は、父兄たちに話しかけようと

(きょうだんをおりてあるきはじめる。そのしゅんかん、つんざくようなひめいがあがった。)

教壇を降りて歩き始める。その瞬間、つんざくような悲鳴が上った。

(ひめいはきょうしつじゅうにひびきわたり、おとなもこどももいきをのんでうごきをとめる。)

悲鳴は教室中に響き渡り、大人も子どもも息を呑んで動きを止める。

(そのこえのぬしは、かべのすみのえをみていたぱーまあたまのじょせいだった。)

その声の主は、壁の隅の絵を見ていたパーマ頭の女性だった。

(せんせいがかけよると、そのじょせいはめをむきゆびをかぎのようにおりまげて)

先生が駆け寄ると、その女性は目を剥き指を鉤のように折り曲げて

(くちもとにあてたままさけびつづけている。そのしせんのさきには、)

口元にあてたまま叫び続けている。その視線の先には、

(えのなかでてーぶるのはしにすわるさんにんめのおとなのむひょうじょうなかおがあった。)

絵の中でテーブルの端に座る三人目の大人の無表情な顔があった。

(「というかいだんがあってな」とししょうはいった。だいがくにはいったばかりの)

「という怪談があってな」と師匠は言った。大学に入ったばかりの

(はるのことだった。かれはだいがくのさーくるのせんぱいだったが、さーくるかつどうとは)

春のことだった。彼は大学のサークルの先輩だったが、サークル活動とは

(まったくむかんけいにじゅうどのおかるとまにあで、ぼくはそのうしろを)

まったく無関係に重度のオカルトマニアで、僕はその後ろを

(よちよちとついていくでしというかこどものようなそんざいだった。)

ヨチヨチとついていく弟子というか子どものような存在だった。

(「ここはどこですか」いちおうきいてみたが、こたえはうすうすわかっていた。)

「ここはどこですか」一応聞いてみたが、答えは薄々わかっていた。

(ぼくたちはひとけのないだんちの、うちすてられてはいきょどうぜんになっている)

僕たちは人気のない団地の、打ち捨てられて廃墟同然になっている

(あぱーとのいっしつにしのびこんでいた。ぼくたちがしゃがみこむたたみには)

アパートの一室に忍び込んでいた。僕たちがしゃがみ込む畳には

(どそくのあとや、あきかん、なにかがこげたあとなどがある。)

土足の跡や、空き缶、何かが焦げた跡などがある。

(すくなくともひとがすまなくなってごねんいじょうはたっているようすだった。)

少なくとも人が住まなくなって5年以上は経っている様子だった。

(ししょうはいう。「そのさんにんめのおとなをえがいたこどもが、かぞくとすんでいたへやだ」)

師匠は言う。「その三人目の大人を描いた子どもが、家族と住んでいた部屋だ」

(じつわなんですか。そうきくと、うなずきながら)

実話なんですか。そう聞くと、頷きながら

(「もともとちまたのかいだんとしてひろまってるわけじゃなくて、)

「もともと巷の怪談として広まってるわけじゃなくて、

(こじんてきなつてでしゅうしゅうしたはなしだ」といって、)

個人的なツテで収集した話だ」と言って、

(へやをてらしていたかいちゅうでんとうをけした。)

部屋を照らしていた懐中電灯を消した。

(しんやのいちじすぎ。あたりはくらやみにおおわれる。)

深夜の1時過ぎ。辺りは暗闇に覆われる。

(どうしてあかりをけすんだろうとおもいながら、)

どうして明かりを消すんだろうと思いながら、

(じわじわとしたきょうふしんがかまくびをもたげてくる。「かいだんのいみはわかったよな」)

じわじわとした恐怖心が鎌首をもたげてくる。「怪談の意味はわかったよな」

(とししょうらしきこえがくらがりからきこえる。なんとなく、わかる。)

と師匠らしき声が暗がりから聞こえる。なんとなく、わかる。

(ははおやがさいごにひめいをあげるのは、そのさんにんめのおとなが、)

母親が最後に悲鳴を上げるのは、その三人目の大人が、

(ほんらいそこにえがかれていてはおかしいじんぶつだったからだ。)

本来そこに描かれていてはおかしい人物だったからだ。

(まったくこころあたりのないじんぶつではない。)

まったく心当たりのない人物ではない。

(そうならば「だれかしら」とくびをひねるくらいで、)

そうならば「誰かしら」と首を捻るくらいで、

(そこまでかじょうなはんのうはおこさないだろう。)

そこまで過剰な反応は起こさないだろう。

(しっているのに、そこにいてはいけないじんぶつ。)

知っているのに、そこにいてはいけない人物。

(それもしんでいなくなったかぞくなどであれば、それをえのなかにえがいたおとこのこの)

それも死んでいなくなった家族などであれば、それを絵の中に描いた男の子の

(かんせいになみだぐみこそすれ、きょうふのあまりひめいをあげたりはしないだろう。)

感性に涙ぐみこそすれ、恐怖のあまり悲鳴を上げたりはしないだろう。

(しってはいるが、かぞくであったこともなく、)

知ってはいるが、家族であったこともなく、

(しかもてーぶるをかこんでいてはいけないじんぶつ。)

しかもテーブルを囲んでいてはいけない人物。

(くらいへやにかすかなつきのひかりがにじむようにさしこみ、)

暗い部屋に微かな月の光が滲むように射し込み、

(はしらやかべやめのまえにすわっているはずのししょうのりんかくをおぼろげにうつしだしている。)

柱や壁や目の前に座っているはずの師匠の輪郭をおぼろげに映し出している。

(かつててーぶるがおかれていたであろうろくじょうのいまに)

かつてテーブルが置かれていたであろう6畳の居間に

(ぼくはみをかたくしてすわっている。)

僕は身を硬くして座っている。

(やみのなかに、あおじろいむひょうじょうのかおがうかびあがりそうなきがして、)

闇の中に、青白い無表情の顔が浮かび上がりそうな気がして、

(どうしようもないさむけにおそわれる。)

どうしようもない寒気に襲われる。

(ししょうが、はりつめたくうきをふるわせるようにささやく。)

師匠が、張り詰めた空気を震わせるように囁く。

(「じつは、きづいていないかもしれないが、このはなしをきいたにんげんにも)

「実は、気づいていないかも知れないが、この話を聞いた人間にも

(あるえいきょうがしぜんとおよぼされる」ふーっ、といういきをはきだすおと。)

ある影響が自然と及ぼされる」ふーっ、という息を吐き出す音。

(ぼくもいきをすって、はく。)

僕も息を吸って、吐く。

(「はなしをきいただけなのに、おまえはなぜかもうそのかおをそうぞうしている」)

「話を聞いただけなのに、おまえは何故かもうその顔を想像している」

(しんぞうがみゃくうち、みみをふさぎたくなるしょうどうにかられる。)

心臓が脈打ち、耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。

(「おとなと、きいただけなのに、なぜかおまえはそのかおを、おんなではなく、)

「大人と、聞いただけなのに、何故かおまえはその顔を、女ではなく、

(くちをとじたむひょうじょうのおとこのかおとしてそうぞうしてしまっている」)

口を閉じた無表情の男の顔として想像してしまっている」

(ぼくはみみをふさいだ。そしてめをつぶる。あたまがかってに、きょくうにうかぶかおを)

僕は耳を塞いだ。そして目を瞑る。頭が勝手に、虚空に浮かぶ顔を

(そうぞうしている。どこからともなくこえがきこえてくる。)

想像している。どこからともなく声が聞こえてくる。

(それがここにいてはいけないさんにんめのかおだよ)

それがここにいてはいけない三人目の顔だよ

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