怪物 幕のあとで-2-(完)

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(「わたしにもわからないのよ。ただこんなでんわをかけたというきおくがあるだけ。)

「わたしにも分からないのよ。ただこんな電話を掛けたという記憶があるだけ。

(ゆめのなかでわたしがはなしてるのね。それをさいげんしてるのよ。)

夢の中でわたしが話してるのね。それを再現してるのよ。

(うんめいがかえられるかどうかはわからない。でもこころがまえをするってことが、)

運命が変えられるかどうかは分からない。でも心構えをするってことが、

(だいじになることだってあるでしょう」くらのき、とかのじょはなのった。)

大事になることだってあるでしょう」クラノキ、と彼女は名乗った。

(「かおもしらないひとのゆめをみるなんてめずらしいな。)

「顔も知らない人の夢を見るなんて珍しいな。

(きっといつかあなたとわたしはともだちになるのかもしれないね。)

きっといつかあなたとわたしは友だちになるのかも知れないね。

(そのころのわたしは、こんやのでんわのことなんてわすれてしまってるでしょうけど」)

そのころのわたしは、今夜の電話のことなんて忘れてしまってるでしょうけど」

(じゃあ、おやすみなさい。そういってでんわはきられた。)

じゃあ、お休みなさい。そう言って電話は切られた。

(こんらんするあたまをかかえて、わたしはでんわぼっくすをでる。)

混乱する頭を抱えて、私は電話ボックスを出る。

(ゆめ。まるでゆめのなかだ。なにがげんじつなんだろう。)

夢。まるで夢の中だ。なにが現実なんだろう。

(ぽるたーがいすとげんしょうのしょうてんだったしょうじょが、えきどなが、)

ポルターガイスト現象の焦点だった少女が、エキドナが、

(かいぶつたちのまりあが、さいごにおそろしいかいぶつをうみおとしたというのか。)

怪物たちのマリアが、最期に恐ろしい怪物を産み落としたというのか。

(それがやがてわたしにくるしみをもたらすと?なんなのだ。)

それがやがて私に苦しみをもたらすと? なんなのだ。

(どこからどこまでがげんじつなんだ。)

どこからどこまでが現実なんだ。

(めをとじて、いちびょうかぞえよう。めをあけたら、たわいもなくありふれた)

目を閉じて、一秒数えよう。目を開けたら、他愛もなくありふれた

(どようびのあさでありますように。そのときだ。)

土曜日の朝でありますように。そのときだ。

(めをとじたわたしのなかに、せつめいしがたいきみょうなかんかくがうまれた。)

目を閉じた私の中に、説明しがたい奇妙な感覚が生まれた。

(それはいうならば、どこかわからないばしょで、なんだかわからないものが、)

それは言うならば、どこか分からない場所で、なんだか分からないものが、

(きゅうにおおきくなっていくようなかんかく。)

急に大きくなっていくような感覚。

(わたしのごかんとはまったくかんけいなく、それがわかるのである。)

私の五感とは全く関係なく、それが分かるのである。

など

(わたしはあたりをみまわす。はなれたところにあったはずのがいとうが)

私は辺りを見回す。離れたところにあったはずの街灯が

(もうきえてしまって、みえない。おおきくなってる。まだおおきくなってる。)

もう消えてしまって、見えない。大きくなってる。まだ大きくなってる。

(ねつをだしたときに、ふとんのなかでかんじたことのあるようなかんかくだ。ぞうくらい?)

熱を出したときに、布団の中で感じたことのあるような感覚だ。象くらい?

(くじらくらい?もっとだ。もっとおおきい。びるくらい?ぴらみっどくらい?)

クジラくらい?もっとだ。もっと大きい。ビルくらい?ピラミッドくらい?

(もっと。もっと、おおきい。)

もっと。もっと、大きい。

(わたしはわけもなくなみだがでそうなかんじょうにおそわれた。それはきょうふだろうか。)

私は訳もなく涙が出そうな感情に襲われた。それは恐怖だろうか。

(かなしみだろうか。みちのまんなかでそらをみあげた。つきがみえない。)

哀しみだろうか。道の真ん中で空を見上げた。月が見えない。

(おおきい。とてつもなくおおきい。やまよりも。てんたいよりも。)

大きい。とてつもなく大きい。山よりも。天体よりも。

(どんなものよりもおおきい。よるに、うろこがはえたような。)

どんなものよりも大きい。夜に、鱗が生えたような。

(ぼうぜんとたちつくすわたしのはるかじょうくうを、にびいろのぎょりんのようなものがひらめいて、)

呆然と立ち尽くす私の遥か上空を、にび色の魚鱗のようなものが閃いて、

(おともなくやみのかなたへときえていった。)

音もなく闇の彼方へと消えていった。

(・・・・・・うすっすらとめをあけて、しーつのしろさにまためをとじる。)

……薄っすらと目を開けて、シーツの白さにまた目を閉じる。

(どようびのあさ。かーてんからさしこみ、)

土曜日の朝。カーテンから射し込み、

(べっどのうえにおりたたまれる、やさしいひかり。)

ベッドの上に折り畳まれる、優しい光。

(まどのそとからすずめのなきごえがきこえる。)

窓の外からスズメの鳴き声が聞こえる。

(いったい、すずめはなんのためにさえずっているのだろう。)

いったい、スズメはなんのために囀っているのだろう。

(べっどのうえにからだをおこす。このわたしはきのうまでのわたしだろうか。)

ベッドの上に身体を起こす。この私は昨日までの私だろうか。

(あくびをひとつする。かみのけのなかにゆびをいれる。きぶんはそんなにわるくない。)

あくびをひとつする。髪の毛の中に指を入れる。気分はそんなに悪くない。

(あさがきたのなら。)

朝が来たのなら。

(「うんめいがかえられるかどうかはわからない」ということばが)

『運命が変えられるかどうかは分からない』という言葉が

(きのうのきおくからよみがえり、はねねがはえたようにしゅういをとびまわりはじめた。)

昨日の記憶から蘇り、羽根が生えたように周囲を飛び回り始めた。

(もういちどねそべって、しーつにゆびでもじをかく。)

もう一度寝そべって、シーツに指で文字を書く。

(fate)

fate

(しばらくそれをながめたあとで、てまえにもうひとつもじをくっつけた。)

暫くそれを眺めたあとで、手前にもう一つ文字をくっつけた。

(no)

no

(それから、わたしはひさしぶりにわらった。こわいゆめは、みなかったきがする。)

それから、私は久しぶりに笑った。怖い夢は、見なかった気がする。

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