ビデオ 前編-7-(完)

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
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問題文

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(「ほら、むえんぼとけだったら、さ、なまえもわかんないじゃない。)

「ほら、無縁仏だったら、さ、名前も分かんないじゃない。

(だから、みんなさとういちろう」ぎょうかいようごというやつか。)

だから、みんなサトウイチロウ」業界用語というやつか。

(いっぱんじんにはわからないいんごなわけだ。)

一般人には分からない隠語なわけだ。

(えいがかいではかんとくがさつえいちゅうにこうばんしたばあいなど、)

映画界では監督が撮影中に降板した場合など、

(あらんすみしーというぎめいがくれじっとされることがあるそうだ。)

アラン・スミシーという偽名がクレジットされることがあるそうだ。

(ふとそれをおもいだした。「どんなのろいがあるんですか」)

ふとそれを思い出した。「どんな呪いがあるんですか」

(きたむらさんは、うでぐみをしてひっしでおもいだそうとしていたが、)

北村さんは、腕組みをして必死で思い出そうとしていたが、

(さいしゅうてきににかっとわらうと「わすれた」といった。)

最終的に二カッと笑うと「忘れた」と言った。

(かわりに、そのうわさのことをよくしっているせんぱいがしないにすんでいるから、)

かわりに、その噂のことをよく知っている先輩が市内に住んでいるから、

(しりたければはなしをききにいくとよい、とおしえてくれた。)

知りたければ話を聞きに行くとよい、と教えてくれた。

(「もういんたいしてるから、たぶんはなしてくれるとおもうよ。)

「もう引退してるから、多分話してくれると思うよ。

(にほんしゅをもっていけば」おれはそのじゅうしょをきいてから、おれいをいった。)

日本酒を持っていけば」俺はその住所を聞いてから、お礼を言った。

(もうみんなかえってしまって、しごとばはおれたちだけになってしまっていた。)

もうみんな帰ってしまって、仕事場は俺たちだけになってしまっていた。

(こしをあげながら、きたむらさんはいった。)

腰を上げながら、北村さんは言った。

(「おばけのはなしがすきなんだねぇ。ここにもでるらしいよ。)

「オバケの話が好きなんだねぇ。ここにも出るらしいよ。

(まえ、ここがしょくどうだったときに、ばいとのおばちゃんたちがみたって」)

まえ、ここが食堂だった時に、バイトのおばちゃんたちが見たって」

(おれはなにもかんじなかったけれど、はなしをあわせてくびをすくめた。)

俺はなにも感じなかったけれど、話を合わせて首をすくめた。

(しごとばをでてきたむらさんとわかれたあと、えきまえでひとりらーめんをたべてから)

仕事場を出て北村さんと別れたあと、駅前で一人ラーメンを食べてから

(きとにつく。とちゅう、ひゃくえんしょっぷによってばななとべびーすたーをかいこんだ。)

帰途に着く。途中、百円ショップに寄ってバナナとベビースターを買い込んだ。

(それらをおともにねころがってれんたるびでおをみるのがしふくのときだった。)

それらをお供に寝転がってレンタルビデオを見るのが至福の時だった。

など

(へやにかえりつき、ふろにはいってからさっそくびでおをせっと。)

部屋に帰り着き、風呂に入ってからさっそくビデオをセット。

(もうてこでもうごかないぞ、というきもちがわいてくる。)

もうテコでも動かないぞ、という気持ちが沸いてくる。

(そのころにはすでにあしたのいちげんめがはじまるじかんにおきられるように、)

そのころにはすでに明日の一限目が始まる時間に起きられるように、

(などというしゅしょうなことはあまりかんがえなくなっていた。)

などという殊勝なことはあまり考えなくなっていた。

(けっきょくのこりのさんぼんともみおわったときにはよなかのさんじをまわっていた。)

結局残りの三本とも見終わったときには夜中の三時を回っていた。

(のびをしてから、めざましをてにもち、なんじにせっとしようかかんがえてから、)

伸びをしてから、目覚ましを手に持ち、何時にセットしようか考えてから、

(やっぱりめんどくさくなり、うんめいにみをまかせることにしてべっどにむかう。)

やっぱりめんどくさくなり、運命に身を任せることにしてベッドに向かう。

(あかりをけす。するとめのまえに、ふしぎなひかりがあらわれた。いや、ひかりのざんさいか。)

明かりを消す。すると目の前に、不思議な光が現れた。いや、光の残滓か。

(それはやけいだった。ごくしょうのひかりのつぶがうすくさゆうにのびている。)

それは夜景だった。極小の光の粒が薄く左右に伸びている。

(まるではなれたばしょからまちをみているような・・・・・・)

まるで離れた場所から街を見ているような……

(すぐにめをあける。ひかりのまぼろしはきえさる。きのうとまるでおなじだ。)

すぐに目を開ける。光の幻は消え去る。昨日とまるで同じだ。

(もういちどめをとじる。かすかにひかりのあとがみえる。ぎゅっとめをつぶると、)

もう一度目を閉じる。かすかに光の跡が見える。ギュッと目を瞑ると、

(いっしゅんそのりんかくがつよくうきでる。けれどそれもやがてきえる。)

一瞬その輪郭が強く浮き出る。けれどそれもやがて消える。

(おれはやみのなかでいきをころしながらかんがえる。やけいなんてちょくぜんにはみていない。)

俺は闇の中で息を殺しながら考える。夜景なんて直前には見ていない。

(びでおをみおわって、すぐにてれびもけした。)

ビデオを見終わって、すぐにテレビも消した。

(もちろんさいごにみていたびでおにもそんなしーんはでていなかった。)

もちろん最後に見ていたビデオにもそんなシーンは出ていなかった。

(いっぽんめのびでおにいっしゅんだけやけいがうつっていたようなきがするが、)

一本目のビデオに一瞬だけ夜景が映っていたような気がするが、

(もっとえんけいだったし、なによりろくじかんもまえにみたしーんが)

もっと遠景だったし、なにより六時間も前に見たシーンが

(ずっとまぶたにやきついていたなんてことがあるとはおもえない。)

ずっと瞼に焼き付いていたなんてことがあるとは思えない。

(なにかいやなことがおこりそうなよかんがする。)

なにか嫌なことが起こりそうな予感がする。

(ししょうのへやで、あのびでおをみてからだ。これはぐうぜんなのか。)

師匠の部屋で、あのビデオを見てからだ。これは偶然なのか。

((あのびでお、やばいぜ)のろいのびでお?びでおののろい?)

(あのビデオ、やばいぜ)呪いのビデオ? ビデオの呪い?

(きおくのかげに、もういちどやけいのげんしをのぞく。はなれたばしょからみたまちのひかり。)

記憶の影に、もう一度夜景の幻視を覗く。離れた場所から見た街の光。

(それはいつかみた、よるのなかをはしるでんしゃのまどからのこうけいであるようなきがした。)

それはいつか見た、夜の中を走る電車の窓からの光景であるような気がした。

((さとういちろうをかたづけたらのろわれる)のろわれる。のろわれる?)

(サトウイチロウを片付けたら呪われる)呪われる。呪われる?

(なんだろう。わけもわからず、ただきょうふしんだけがつよくなってくる。)

なんだろう。訳も分からず、ただ恐怖心だけが強くなってくる。

(よるはだめだ。いまだけはなにもおこらないでほしい。)

夜は駄目だ。今だけはなにも起こらないで欲しい。

(べっどのうえで、からだをちぢめておれはしゅういのけはいにみみをそばだてつづけた。)

ベッドの上で、身体を縮めて俺は周囲の気配に耳をそばだて続けた。

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