ビデオ 中編-2-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
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1 berry 7908 8.0 98.3% 601.5 4839 82 90 2024/09/25

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問題文

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(きゅうきゅうたいいんがとうちゃくしたが、そのばにたっているだけでなにもしてくれない。)

救急隊員が到着したが、その場に立っているだけでなにもしてくれない。

(けいさつもだいいちじんとしてふたりかけつけてきたが、げんばけんしょうもそこそこに、)

警察も第一陣として二人駆けつけてきたが、現場検証もそこそこに、

(したいをぜんぶあつめろとめいれいくちょうでいう。)

死体を全部集めろと命令口調で言う。

(しかたなくじぶんたちで、ちらばったにくへんをかきあつめた。)

仕方なく自分たちで、散らばった肉片を掻き集めた。

(ちのにおいがはなをついてたまらなくなり、てぬぐいでますくをして)

血の匂いが鼻をついて堪らなくなり、手ぬぐいでマスクをして

(そのいやなさぎょうをつづける。ないぞうもきもちがわるいが、なまはんかにみなれたじんたいの)

その嫌な作業を続ける。内臓も気持ちが悪いが、生半可に見慣れた人体の

(ぶひんがゆきのうえにおちているのをみるのは、はきけのするおぞましさだった。)

部品が雪の上に落ちているのを見るのは、吐き気のするおぞましさだった。

(くちびるのきれはしや、ゆびのかんせつ。)

唇の切れ端や、指の関節。

(ひものついたがんきゅうはちがぬけて、ひしゃげしまっている。)

紐のついた眼球は血が抜けて、ひしゃげしまっている。

(えきいんとしてもちゅうけんどころにさしかかり、なんどかじこはけいけんしているが、)

駅員としても中堅どころに差し掛かり、何度か事故は経験しているが、

(こんなえげつないしたいをあつかうのははじめてだった。)

こんなえげつない死体を扱うのは初めてだった。

(ようやくひととおりかたづいて、かじかんだてをすとーぶにあてていると、)

ようやく一通り片付いて、悴んだ手をストーブにあてていると、

(そばでいりゅうひんをかくにんしていたけいさつかんがさいふをてにとって、)

そばで遺留品を確認していた警察官が財布を手に取って、

(それをひらいたままよみあげるようにぼそりとつぶやくのをきいた。)

それを開いたまま読み上げるようにボソリと呟くのを聞いた。

(「・・・・・・さとう、いちろう」)

「……さとう、いちろう」

(そのとき、ごねんまえにきいたうわさがのうりにうかびあがってきた。)

その時、五年前に聞いた噂が脳裏に浮かび上がってきた。

(「さとういちろうのしたいをかたづけるとのろわれる」)

『サトウイチロウの死体を片付けると呪われる』

(いま、まぐろのさいふにそのなまえがかいてあったのだ。)

今、マグロの財布にその名前が書いてあったのだ。

((さとういちろうのしたいを、かたづけてしまった))

(サトウイチロウの死体を、片付けてしまった)

(いやなあせがだらだらとながれて、すとーぶのひにもかわかず、じめんにおちていった。)

嫌な汗がだらだらと流れて、ストーブの火にも乾かず、地面に落ちていった。

など

(それからなんにちかたって、けいさつからのじょうほうをうけたえきちょうから)

それから何日か経って、警察からの情報を受けた駅長から

(じけんのあらましをきいた。したいのみもとはふめい。)

事件のあらましを聞いた。死体の身元は不明。

(じこのしゅんかんをもくげきしたものはいなかったので、)

事故の瞬間を目撃した者はいなかったので、

(はっきりしたことはわからないがじけんせいはないものとかんがえられているらしい。)

はっきりしたことは分からないが事件性はないものと考えられているらしい。

(せんろじょうにちらばったしょじひんのなかにさいふがあり、そこにさとういちろうの)

線路上に散らばった所持品の中に財布があり、そこにサトウイチロウの

(ねーむがあることから、なまえだけはそのようだとしれたにすぎない。)

ネームがあることから、名前だけはそのようだと知れたに過ぎない。

(さとういちろうだ。なんどもあらわれて、なんどもしぬ。だれもしょうたいをしらない。)

サトウイチロウだ。何度も現れて、何度も死ぬ。誰も正体を知らない。

(ごくり、とのどがなるおとがした。)

ごくり、と喉が鳴る音がした。

(それがじぶんのものなのか、あおいかおをしてとなりにたつせんぱいのものなのか、)

それが自分のものなのか、青い顔をして隣に立つ先輩のものなのか、

(わからなかった。「ぐうぜん、でしょう」おれは、かるいくちょうをよそおった。)

分からなかった。「偶然、でしょう」俺は、軽い口調を装った。

(よしださんはこっぷをふかくかたむけ、いきをついたあとでくちをひらいた。)

吉田さんはコップを深く傾け、息をついた後で口を開いた。

(「ちがうな。ありゃあ、ぼうれいだかようかいだかのたぐいなんだよ。)

「違うな。ありゃあ、亡霊だか妖怪だかのたぐいなんだよ。

(たしかにあしもあれば、てもある。めのまえからひゅっときえちまうわけでもねぇ。)

確かに足もあれば、手もある。目の前からひゅっと消えちまう訳でもねぇ。

(それでも、それがまともなにんげんだなんて、だれにもいえないんだ。)

それでも、それがまともな人間だなんて、誰にも言えないんだ。

(なにせ、そのあしやらてやらがくっついたじょうたいで、いきて、うごいているところを、)

なにせ、その足やら手やらがくっついた状態で、生きて、動いているところを、

(だれもみてねぇからだ。おれはたくさんのせんぱいからうわさをきいたよ。)

誰も見てねぇからだ。オレはたくさんの先輩から噂を聞いたよ。

(おなじなんだ。さとういちろうは、いろんなえきでしんでる。)

同じなんだ。サトウイチロウは、いろんな駅で死んでる。

(いつもばらばらになって。それもきまってみもとふめいだ。)

いつもバラバラになって。それも決まって身元不明だ。

(わかるのはなまえだけ。そしてだれもしぬしゅんかんをみてねぇ。)

分かるのは名前だけ。そして誰も死ぬ瞬間を見てねぇ。

(あれは、さいしょからさいごまで、したいなんだ」)

あれは、最初から最後まで、死体なんだ」

(がちゃり、とどあがひらいておくさんがみずをもってきた。)

ガチャリ、とドアが開いて奥さんが水を持ってきた。

(おお、ちょっとのみすぎた。きちでんさんはそういってみずをうけとる。)

おお、ちょっと飲み過ぎた。吉田さんはそう言って水を受け取る。

(おくさんはまだなかみののこっているにほんしゅのびんをとりあげるように)

奥さんはまだ中身の残っている日本酒のビンを取り上げるように

(もっていってしまった。)

持って行ってしまった。

(どういつじんぶつなのか、それともたまたまおなじなまえのひとがじこにあっているのか。)

同一人物なのか、それともたまたま同じ名前の人が事故に遭っているのか。

(いや、どういつじんぶつだなんてことはありえない。)

いや、同一人物だなんてことはありえない。

(れきしたいがよみがえり、またべつのえきにあらわれておなじれきしたいになるなんてことは。)

轢死体が蘇り、また別の駅に現れて同じ轢死体になるなんてことは。

(そもそも、これはうわさなのだ。せまいぎょうかいないのおかるとじみたうわさばなし。)

そもそも、これは噂なのだ。狭い業界内のオカルトじみた噂話。

(ききてのおれにとって、あるていどしんようにたるのは、)

聞き手の俺にとって、ある程度信用に足るのは、

(よしださんじしんがけいけんしたじこのはなしだけだ。)

吉田さん自信が経験した事故の話だけだ。

(よしださんがそのうわさをきいたというせんぱいたちは、)

吉田さんがその噂を聞いたという先輩たちは、

(よくある「ふれんどおぶふれんど」にすぎない。)

よくある『フレンド・オブ・フレンド』に過ぎない。

(どこまでいってもはっせいげんがわからない、「ひとづて」がつくるきみょうなまぼろしだ。)

どこまで行っても発生源が分からない、「人づて」が作る奇妙な幻だ。

(とりあえず、おれはそうおもうことにした。)

とりあえず、俺はそう思うことにした。

(みずのはいったこっぷをもったまま、もうかたほうのてであたまをおさえるよしださんをみて、)

水の入ったコップを持ったまま、もう片方の手で頭を押さえる吉田さんを見て、

(そろそろおいとましようとこしをうかしかけたときだった。)

そろそろおいとましようと腰を浮かしかけた時だった。

(おれはふとおもいついたことをなにげなくくちにした。)

俺はふと思いついたことを何気なく口にした。

(「さとういちろうをかたづけたのろいは、どうなったんです?」)

「サトウイチロウを片付けた呪いは、どうなったんです?」

(ぴくりとはんのうがあり、よしださんはあかいかおをしたままくちのなかで)

ぴくりと反応があり、吉田さんは赤い顔をしたまま口の中で

(ぶつぶつとなにごとかつぶやく。そしておれのほうに、あたまをおさえていたてをむけて)

ぶつぶつと何ごとか呟く。そして俺の方に、頭を押さえていた手を向けて

(ぶらぶらとふってみせた。そのてにはこゆびとくすりゆび、)

ぶらぶらと振って見せた。その手には小指と薬指、

(そしてなかゆびのだいいちかんせつからさきがなかった。)

そして中指の第一関節から先が無かった。

(「さっきからみてるじゃねぇか」)

「さっきから見てるじゃねぇか」

(ちょうしょうするでもなく、なげくでもなく、ただひんやりとしたちからないこえだった。)

嘲笑するでもなく、嘆くでもなく、ただひんやりとした力ない声だった。

(かえりみち、じてんしゃをおりてておししながらよしださんからきいたはなしのことを)

帰り道、自転車を降りて手押ししながら吉田さんから聞いた話のことを

(かんがえていた。これは、ふしぎだね、ではすまない、のろいのからんだはなしなのだ。)

考えていた。これは、不思議だね、では済まない、呪いの絡んだ話なのだ。

(よしださんのこうはいであるきたむらさんには、)

吉田さんの後輩である北村さんには、

(まともにつたわっていなかったことはたしかだ。)

まともに伝わっていなかったことは確かだ。

(きたむらさんはさとういちろうを、みもとふめいのまぐろ、れきしたいすべてをあらわす)

北村さんはサトウイチロウを、身元不明のマグロ、轢死体すべてを表す

(いんごだとおもっていた。しかしそれもしかたないだろう。)

隠語だと思っていた。しかしそれも仕方ないだろう。

(おなじじんぶつがなんどもしぬなんて、そうぞうもしていないだろうから。)

同じ人物が何度も死ぬなんて、想像もしていないだろうから。

(そんなことをかんがえていると、いっしゅん、めのまえになにかおおきなかげが)

そんなことを考えていると、一瞬、目の前に何か大きな影が

(はしったようなきがした。きょろきょろとしゅういをみる。)

走ったような気がした。キョロキョロと周囲を見る。

(さゆうにはじゅうたくがいのいろとりどりのかべがずらっとならんでいて、)

左右には住宅街の色とりどりの壁がずらっと並んでいて、

(へいじつのひるまにそのみちをとおっているのはおれぐらいのものだった。)

平日の昼間にその道を通っているのは俺ぐらいのものだった。

(なんだろう。まばたきをしたとき、またいわかんがはしった。)

なんだろう。まばたきをした時、また違和感が走った。

(めのまえにしろいせだんがとまっている。ろかたによってはいるけれど、)

目の前に白いセダンが停まっている。路肩に寄ってはいるけれど、

(つうこうのじゃまになっているのはまちがいない。)

通行の邪魔になっているのは間違いない。

(たいようのひかりをはんしゃして、ぼでぃがまぶしくかがやいている。)

太陽の光を反射して、ボディが眩しく輝いている。

(もういちど、こんどはぐっとめをとじると、そのせだんが)

もう一度、こんどはグッと目を閉じると、そのセダンが

(まぶたのうらにくっきりとうかびあがる。)

瞼の裏にくっきりと浮かび上がる。

(ひかりをはんしゃするしろいぶぶんと、きゅうしゅうするくろいぶぶんのこんとらすとが)

光を反射する白い部分と、吸収する黒い部分のコントラストが

(きょうちょうされるかたちで。そのすこしひだり。どうろのまんなかで、なにもないはずのばしょに、)

強調される形で。その少し左。道路の真ん中で、なにもないはずの場所に、

(もういちだいべつのくるまのいんえいがみえた。ぎゅっとめをちからをこめると、)

もう一台別の車の陰影が見えた。ギュッと目を力を込めると、

(まぶたのうらにうつるものたちのすがたがいっしゅんこくなり、そしてやがてうすれていった。)

瞼の裏に映るものたちの姿が一瞬濃くなり、そしてやがて薄れていった。

(めをあけるとくるまはいちだいしかない。ろかたのしろいせだんだ。)

目を開けると車は一台しかない。路肩の白いセダンだ。

(けれどさっきまぶたのうらには、たしかにもういちだいのくるま、)

けれどさっき瞼の裏には、確かにもう一台の車、

(それもけいよんのしるえっとがうかびあがっていた。)

それも軽四のシルエットが浮かび上がっていた。

(そのばであしをとめてばちばちとまばたきをくりかえすが、)

その場で足を止めてバチバチとまばたきを繰り返すが、

(もうしろいせだんのものしかみえなかった。)

もう白いセダンのものしか見えなかった。

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