ビデオ 中編-6-(完)
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | berry | 7199 | 王 | 7.3 | 97.6% | 558.4 | 4117 | 97 | 78 | 2024/09/25 |
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問題文
(そのてんししょうはずぶといのか、いきわかれのおいっこになりすまして)
その点師匠はずぶといのか、生き別れの甥っ子になりすまして
(いひんのありかをさがしあてるのにせいこうしていた。しかし。)
遺品のありかを探し当てるのに成功していた。しかし。
(「・・・・・・ありましたよそうこに。でもへんだなあ。いっしきいれてあるはずのふくろが)
「……ありましたよ倉庫に。でも変だなあ。一式入れてあるはずの袋が
(からなんですよね。べつのばしょにうつしたのかな。でもいひんのめいさいは)
空なんですよね。別の場所に移したのかな。でも遺品の明細は
(はいってましたから、かくにんできますよ。もしもし、きこえてますか。)
入ってましたから、確認できますよ。もしもし、聞こえてますか。
(あれ?もしもし・・・・・・」がちゃりとじゅわきをおいたししょうがえみをうかべる。)
あれ? もしもし……」ガチャリと受話器を置いた師匠が笑みを浮かべる。
(「からっぽだってさ」けっきょくまともにかくにんできたのはこのいっけんだけだったが、)
「空っぽだってさ」結局まともに確認できたのはこの一件だけだったが、
(なにがおこっているのかりかいするのにはじゅうぶんだった。)
何が起こっているのか理解するのには十分だった。
(さすがにいこつのあるてらまでおなじようにしらべるのはむりだったが、)
さすがに遺骨のある寺まで同じように調べるのは無理だったが、
(げんちにしのびこんでのうこつどうをあばくとこつつぼはおなじように)
現地に忍び込んで納骨堂を暴くと骨壷は同じように
(からになっているのかもしれない。うすらさむくなってきた。)
空になっているのかも知れない。薄ら寒くなってきた。
(ありえないとおもっていたことが、つぎつぎとげんじつてきなすがたであらわれてくる。)
ありえないと思っていたことが、次々と現実的な姿で現れてくる。
(「とまあ、ここまでわかったところで、どうする」ししょうがぼんやりといった。)
「とまあ、ここまで分かったところで、どうする」師匠がぼんやりと言った。
(どうすればいいんだろう。かいだんばなしのしゅうしゅうとしては、)
どうすればいいんだろう。怪談話の収集としては、
(もうここらでおいたほうがいいようなきがする。)
もうここらで置いた方がいいような気がする。
(でもおれたちはびでおをみてしまっていた。ごねんまえのまえばらえきのじけんを。)
でも俺たちはビデオを見てしまっていた。五年まえの前原駅の事件を。
(そしてそのびでおてーぷのもちぬしが、てらにくようをたのみにきた。)
そしてそのビデオテープの持ち主が、寺に供養を頼みに来た。
(しんれいしゃしんなどのくようでひそかにゆうめいなてらにだ。)
心霊写真等の供養で密かに有名な寺にだ。
(なにがあったのか。びでおにうつっていたしろいかめんのじんぶつと、)
なにがあったのか。ビデオに映っていた白い仮面の人物と、
(かめらまんにいったいなにが。ししょうもおなじことをかんがえていたのか、)
カメラマンに一体なにが。師匠も同じことを考えていたのか、
(むぞうさにころがっていたれいのびでおてーぷをでっきにいれようとした。)
無造作に転がっていた例のビデオテープをデッキに入れようとした。
(「まってください。いいです。もういいです」)
「待って下さい。いいです。もういいです」
(あのばんに、なんどもくりかえしみたそれを、いまはもういちどみるゆうきがない。)
あの晩に、何度も繰り返し見たそれを、今はもう一度見る勇気が無い。
(「はらへったんで、かえります」)
「腹減ったんで、帰ります」
(そういってたちあがろうとした。ししょうは「そうか」とくちにすると)
そう言って立ち上がろうとした。師匠は「そうか」と口にすると
(のーとをおれにかえそうとした。)
ノートを俺に返そうとした。
(「もっててください。あげますから。なにかきがついたら)
「持ってて下さい。あげますから。何か気がついたら
(おしえてくれれば・・・・・・」おれがてをふったときだった。)
教えてくれれば……」俺が手を振った時だった。
(ししょうはにやりとわらうと、いった。)
師匠はニヤリと笑うと、言った。
(「じゃあ、さっそくきがついたてんだ。びでおのなかのじこは、)
「じゃあ、さっそく気がついた点だ。ビデオの中の事故は、
(えきのほーむでひかれている。のーとによるとくだりとっきゅうれっしゃがつうかちゅうに、)
駅のホームで轢かれている。ノートによると下り特急列車が通過中に、
(とある。つぎのたかとおえきもとっきゅうれっしゃのつうかちゅうのじこだ。さっきかくにんしたが、)
とある。次の高遠駅も特急列車の通過中の事故だ。さっき確認したが、
(よしださんのときもとっきゅうのつうかしたあとにはっけんされている」)
吉田さんの時も特急の通過した後に発見されている」
(そういえばししょうがしきりにうなずいていた。)
そう言えば師匠がしきりに頷いていた。
(「そのほかのけーすも、とっきゅうれっしゃにひかれているのがほとんどだ。)
「その他のケースも、特急列車に轢かれているのがほとんどだ。
(かくにんできるもっともふるいこしやまえきのものもふくめ、つうかれっしゃとは)
確認できる最も古い越山駅のものも含め、通過列車とは
(めいきされていないものもおおいが、いずれもちいさなまちのちいさなえきだ。)
明記されていないものも多いが、いずれも小さな町の小さな駅だ。
(まるでそういうばしょばかりねらったように。)
まるでそういう場所ばかり狙ったように。
(つまり、とっきゅうがとまらないえきばかりなんだ。)
つまり、特急が停まらない駅ばかりなんだ。
(ということはほぼすべてのけーすでつうかれっしゃにひかれていることになる」)
ということはほぼすべてのケースで通過列車に轢かれていることになる」
(ししょうがなにをいいだすのか、じっときいているとむねがどきどきしてきた。)
師匠がなにを言い出すのか、じっと聞いていると胸がドキドキしてきた。
(ししょうがきょうみをもったぶぶん、そこにはたいてい、ぶきみでぐろてすくなものが)
師匠が興味を持った部分、そこには大抵、不気味でグロテスクなものが
(ひそんでいるから。「きたむらさんがいってたんだろ。「ていしゃえきだと)
潜んでいるから。「北村さんが言ってたんだろ。『停車駅だと
(げんそくしているから、つうかのときみたいにすぱっといかないのよ」って」)
減速しているから、通過の時みたいにスパッといかないのよ』って」
(なにがいいたい?わからない。なにがいいたいんだ?)
なにが言いたい? 分からない。なにが言いたいんだ?
(「どうしてつうかれっしゃなのに、ばらばらなんだ」)
「どうして通過列車なのに、バラバラなんだ」
(ぴくりときた。そうか。よしださんのはなしをきいていて)
ピクリと来た。そうか。吉田さんの話を聞いていて
(かすかないわかんがあったきがしたが、そこだ。)
微かな違和感があった気がしたが、そこだ。
(うわさでは、さとういちろうのしたいはいつもきまってばらばらだ。)
噂では、サトウイチロウの死体はいつも決まってバラバラだ。
(なのに、よしださんのときもそうだが、つうかれっしゃでそうなったというのは)
なのに、吉田さんの時もそうだが、通過列車でそうなったというのは
(すこしへんではないか。ていしゃちょくぜんのれっしゃにまきこまれたというならわかる。)
少し変ではないか。停車直前の列車に巻き込まれたというなら分かる。
(しかしつうかれっしゃでは、はねとばされるか、しゃりんでれきだんされるにしても)
しかし通過列車では、跳ね飛ばされるか、車輪で轢断されるにしても
(きたむらさんにいうように、すぱっときれるのではないだろうか。)
北村さんに言うように、スパッと切れるのではないだろうか。
(しろうとかんがえだが、すくなくともばらばらといわれるほどおおくのにくへんになるとは)
素人考えだが、少なくともバラバラと言われるほど多くの肉片になるとは
(おもえない。あわててのーとをみかえす。)
思えない。慌ててノートを見返す。
(かんぽうにはれきしとかいてあるばかりで、ばらばらしたいなのかどうかは)
官報には轢死と書いてあるばかりで、バラバラ死体なのかどうかは
(はっきりわからない。だが、そのとしかっこうのぶぶんにめがくぎづけになる。)
はっきり分からない。だが、その年恰好の部分に目が釘付けになる。
(まえばらえきのじこでは、「ねんれい20さいから40さいのだんせい、)
前原駅の事故では、『年齢20歳から40歳の男性、
(しんちょう160から170せんちくらい」とある。)
身長160から170センチ位』とある。
(たかとおえきのものは「ねんれい20~40さいくらい、しんちょう165~170cmくらい」)
高遠駅のものは『年齢20~40歳位、身長165~170cm位』
(そのたをみても、ねんれいやしんちょうにかなりのふれはばがある。さいだいのものは)
その他を見ても、年齢や身長にかなりの振れ幅がある。最大のものは
(ねんれいで20~50さいくらい、しんちょうで160~175せんちくらいとなっている。)
年齢で20~50歳位、身長で160~175センチ位となっている。
(しごなんねんもけいかしているわけではないのだ。)
死後何年も経過しているわけではないのだ。
(すぐにけんししたのなら、ねんれいはともかくとして、)
すぐに検視したのなら、年齢はともかくとして、
(しんちょうはせいかくなすうじがわかっていいはずだ。)
身長は正確な数字が分かっていいはずだ。
(たとえどうたいがまっぷたつになっていようと。)
たとえ胴体が真っ二つになっていようと。
(それがせいかくにはかれないようなしたいのじょうたいをあんにしめしているのだとしたら・・・・・・)
それが正確に測れないような死体の状態を暗に示しているのだとしたら……
(ばらばら。みんなばらばらなのだ。)
バラバラ。みんなバラバラなのだ。
(むすうのにくへんになって、せんろにまきちらされているのだ。)
無数の肉片になって、線路に撒き散らされているのだ。
(そうならないはずの、つうかれっしゃなのに!!ごくりとのどがなる。)
そうならないはずの、通過列車なのに!!ごくりと喉が鳴る。
(めのまえでししょうのひとみがあやしくかがやいている。)
目の前で師匠の瞳が妖しく輝いている。
(「あの、こーとの、したは、はじめから・・・・・・」)
「あの、コートの、下は、はじめから……」
(ししょうのくちびるがゆっくりとうごく。あたまのなかで、びでおでみたこーとのおとこのすがたが)
師匠の唇がゆっくりと動く。頭の中で、ビデオで見たコートの男の姿が
(さいせいされる。れっしゃがほーむにとびこんでくるちょくぜんの、いっしゅんのえいぞう。)
再生される。列車がホームに飛び込んでくる直前の、一瞬の映像。
(あらいがしつのなかで、こーとのなかがもぞもぞとうごく。)
荒い画質の中で、コートの中がもぞもぞと動く。
(ぼうしとますくにおおわれたかおの、そのおくは。)
帽子とマスクに覆われた顔の、その奥は。
(やめてくれ。ききたくない。みみをふさぐ。「かえります」)
やめてくれ。聞きたくない。耳を塞ぐ。「帰ります」
(そういってししょうのへやをとびだした。)
そう言って師匠の部屋を飛び出した。