太宰治 みみずく通信1

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太宰治『みみずく通信』1
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 饅頭餅美 5312 B++ 5.6 94.8% 373.3 2096 113 31 2024/10/29
2 ばぼじま 5024 B+ 5.1 97.0% 400.2 2074 63 31 2024/11/07
3 BE 4039 C 4.4 92.2% 475.3 2097 177 31 2024/10/28

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問題文

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(ぶじ、たいにんをはたしました。どんなたいにんだか、きみは、ごぞんじないでしょう。)

無事、大任を果たしました。どんな大任だか、君は、ご存じないでしょう。

(「これから、たびにでます。」とだけはがきにかいておしえ、どこへなにしにいくのやら)

「これから、旅に出ます。」とだけ葉書にかいて教え、どこへ何しに行くのやら

(きみにはもうしあげていなかった。てれくさかったのです。)

君には申し上げていなかった。てれくさかったのです。

(また、きみがそれをしったら、れいのごとくしんぱいしてなにやらかやらちゅうこく、きょうくんを)

また、君がそれを知ったら、れいの如く心配して何やらかやら忠告、教訓を

(はじめるのではないかとおもい、それをおそれて、わざともくてきはもうしあげずに)

はじめるのではないかと思い、それを恐れて、わざと目的は申し上げずに

(たびにでました。せんじつ、わたしのあまいたんぺんしょうせつが、らじおでほうそうされたときにも、)

旅に出ました。先日、私の甘い短篇小説が、ラジオで放送された時にも、

(わたしはだれにもしられないようにいのっていました。ことにも、きみにきかれては、)

私は誰にも知られないように祈っていました。ことにも、君に聞かれては、

(それこそあなあらばはいらなければならぬきもちでした。)

それこそ穴あらば這入らなければならぬ気持ちでした。

(なかなか、あまいしょうせつでした。わたしはいつも、けちけちしているくせに、)

なかなか、あまい小説でした。私はいつも、けちけちしている癖に、

(ざらざらつかいくずすたちなので、どうしてもおかねがのこりません。)

ざらざら使い崩すたちなので、どうしてもお金が残りません。

(いちもんおしみのひゃくうしないとでもいうものなのでしょうか。)

一文おしみの百失いとでもいうものなのでしょうか。

(しかも、また、びんぼうにこたえるちからもよわいので、ついむりなしごともひきうけます。)

しかも、また、貧乏に堪える力も弱いので、つい無理な仕事も引受けます。

(おかねが、ほしくなるのです。らじおほうそうようのしょうせつなども、わたしのような)

お金が、ほしくなるのです。ラジオ放送用の小説なども、私のような

(やぼないなかものには、とても、うまくかけないのが、わかっていながら、)

野暮な田舎者には、とても、うまく書けないのが、わかっていながら、

(ついひきうけてしまいます。いなかもののくせに、はでなものにあこがれる、)

つい引受けてしまいます。田舎者の癖に、派手なものに憧れる、

(あのあわれなじゃくてんもあるのでしょう。せんじつのらじおは、)

あの哀れな弱点もあるのでしょう。先日のラジオは、

(きみにはきかせたくないとおもい、きみにあってもそのことについてはひとことももうしあげず)

君には聞かせたくないと思い、君に逢ってもその事に就いては一言も申し上げず

(ひたかくしにかくしていたのですが、なんというふうん、きみがうえののみるくほおるで)

ひた隠しに隠していたのですが、なんという不運、君が上野のミルクホオルで

(ぐうぜんにそれをみみにしたということで、よくじつながながとしょうめんきったかんそうぶんを)

偶然にそれを耳にしたという事で、翌日ながながと正面切った感想文を

(おくってよこしたので、わたしは、まことにせきめん、へいこういたしました。)

送ってよこしたので、私は、まことに赤面、閉口いたしました。

など

(こんどのりょこうについても、わたしはだれにもしらせず、えいえんにもくしているつもりで)

こんどの旅行に就いても、私は誰にも知らせず、永遠に黙しているつもりで

(いたのですが、ねがしょうしんのわたしには、とてもかくしきることのできそうもないので、)

いたのですが、根が小心の私には、とても隠し切る事の出来そうもないので、

(かえっていまはあらいざらい、このりょこうのはじをきみにもうしあげてしまうのです。)

かえって今は洗いざらい、この旅行の恥を君に申し上げてしまうのです。

(そのほうが、いいのだ。あとでわたしも、さっぱりするでしょう。)

そのほうが、いいのだ。あとで私も、さっぱりするでしょう。

(かくしていたって、いつかはかならずあらわれる。らじおのときだって、そうでした。)

隠していたって、いつかは必ずあらわれる。ラジオの時だって、そうでした。

(いさぎよいたいどをとることにいたしましょう。わたしは、いまにいがたのりょかんにおります。)

いさぎよい態度を執る事に致しましょう。私は、いま新潟の旅館に居ります。

(いちりゅうのりょかんのようであります。いまわたしのいるこのへやも、このりょかんでいちばん)

一流の旅館のようであります。いま私の居る此の部屋も、この旅館で一番

(いいへやのようであります。わたしは、とうきょうのめいしのあつかいをうけております。)

いい部屋のようであります。私は、東京の名士の扱いを受けて居ります。

(わたしは、きょうのごごいちじから、にいがたのこうとうがっこうで、にじかんちかくのえんぜつを)

私は、きょうの午後一時から、新潟の高等学校で、二時間ちかくの演説を

(しました。たいにんとは、そのことでした。わたしは、どうやら、たいにんをはたしました。)

しました。大任とは、その事でした。私は、どうやら、大任を果たしました。

(そうしていまやどへかえって、きみへいつわらぬほうこくをしたためているところなのです。)

そうしていま宿へ帰って、君へ詐らぬ報告をしたためているところなのです。

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