山本周五郎 赤ひげ診療譚 鶯ばか 二-1

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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 おっ 7539 7.9 95.5% 476.8 3771 176 56 2024/03/28
2 berry 7347 7.5 97.8% 500.2 3759 84 56 2024/03/27
3 HAKU 7303 7.7 94.9% 492.4 3797 201 56 2024/03/28
4 subaru 7215 7.5 95.4% 498.1 3773 179 56 2024/03/28
5 miko 5899 A+ 6.0 97.3% 624.8 3788 102 56 2024/04/15

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問題文

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(ようじょうしょへかえるとちゅう、のぼるがじゅうべえのめをしらべたのはなぜだと、きょじょうがきいた。)

養生所へ帰る途中、登が十兵衛の眼をしらべたのはなぜだと、去定が訊いた。

(のぼるはながさきにいたとき、らんいからおしえられたのだ、とこたえた。あたまのなかにはれものが)

登は長崎にいたとき、蘭医から教えられたのだ、と答えた。頭の中に腫物が

(できたりすると、にたようなしょうじょうをおこす。そのときはめにひかりをあててみると、)

できたりすると、似たような症状を起こす。そのときは眼に光を当ててみると、

(ひとみにふきそくなしんせんがみとめられるという。それでしらべてみたのだが、)

眸子に不規則な震顫が認められるという。それでしらべてみたのだが、

(じゅうべえにはそれがなかった、といった。 「ではびょうきはなんだとおもう」)

十兵衛にはそれがなかった、と云った。 「では病気はなんだと思う」

(「けんとうがつきません」とのぼるはこたえた。「からだにはまったくいじょうがありませんし、)

「見当がつきません」と登は答えた。「躰にはまったく異状がありませんし、

(ことによるとむいしきのけびょうではないかとおもいます」 「そうぞうのしんだんはぜったいに)

ことによると無意識の仮病ではないかと思います」 「想像の診断は絶対に

(いけない」 「いいえそうぞうではなく、くらしのじょうけんからそうかんがえたのです」)

いけない」 「いいえ想像ではなく、くらしの条件からそう考えたのです」

(じゅうごねんあまりかせぎとおして、いまだにせいかつがくるしい。ふたりのこをなくして)

十五年あまり稼ぎとおして、いまだに生活が苦しい。ふたりの子を亡くして

(いることや、いつになったららくなくらしができるというあてもない。としも)

いることや、いつになったら楽なくらしができるという当てもない。年も

(しじゅういちになっていることなどで、「げんざいのせいかつからぬけでよう」という、)

四十一になっていることなどで、「現在の生活から抜け出よう」という、

(ふだんのねがいがかさなってきて、じぶんではいしきせずにあたまのへんちょうをおこした。)

不断の願いが重なって来て、自分では意識せずに頭の変調を起こした。

(せんりょうのうぐいす、などというもうそうがそれをあらわしているようにおもう、とのぼるはいった。)

千両の鶯、などという妄想がそれをあらわしているように思う、と登は云った。

(きょじょうはだまっていたが、やがて、ひまがあったらみにいってやれ、とあっさりいった)

去定は黙っていたが、やがて、暇があったら診にいってやれ、とあっさり云った

(だけで、のぼるのしんだんについてはなにもいけんをのべなかった。 それから)

だけで、登の診断についてはなにも意見を述べなかった。 それから

(ごろくにちして、のぼるがそのながやへいくつもりであるというと、きょじょうはれいのかねづつみを)

五六日して、登がその長屋へいくつもりであると云うと、去定は例の金包みを

(わたして、これをうへえにやってくれといい、また、おなじながやのいどのわきに、)

渡して、これを卯兵衛に遣ってくれと云い、また、同じ長屋の井戸の脇に、

(ごろきちというひようとりがいて、みんなからだがよわいから、そこへもよってみてやるが)

五郎吉という日傭取りがいて、みんな躰が弱いから、そこへも寄って診てやるが

(いい、とつけくわえた。ーーそれからじゅうがつのはじめまでにごかい、のぼるはいずさまうらの)

いい、と付け加えた。ーーそれから十月のはじめまでに五回、登は伊豆さま裏の

(そのながやへかよった。じゅうべえはながやのひとたちから「うぐいすばか」とよばれるように)

その長屋へかよった。十兵衛は長屋の人たちから「鶯ばか」と呼ばれるように

など

(なり、あいかわらずすわったきりで、かもいのめざるをながめくらしていた。)

なり、相変わらず坐ったきりで、鴨居の目笊を眺めくらしていた。

(ごろきちのかぞくとも、このあいだになじみになったのであるが、じなんのちょうじを)

五郎吉の家族とも、このあいだに馴染になったのであるが、二男の長次を

(べつにして、ごろきちもにょうぼうのおふみも、ほかのさんにんのこどもたちも、ひっこみじあんで)

べつにして、五郎吉も女房のおふみも、他の三人の子供たちも、引込み思案で

(よわきらしくなかなかのぼるともうちとけなかった。ごろきちはおふみよりひとつとしうえの)

弱気らしく、なかなか登ともうちとけなかった。五郎吉はおふみより一つ年上の

(さんじゅういち、ちょうなんのとらきちがはっさい、ちょうじょのおみよがろくさい、じじょのおいちがよんさい、)

三十一、長男の虎吉が八歳、長女のおみよが六歳、二女のおいちが四歳、

(おみよまでがとしごで、ーーちょうじはななさいだった。ーーちょうじははじめてのときからのぼるに)

おみよまでが年子で、ーー長次は七歳だった。ーー長次は初めてのときから登に

(なつき、のぼるのかおをみるととびついてきて、かえるまでそばからはなれなかった。)

なつき、登の顔を見るととびついて来て、帰るまで側からはなれなかった。

(にどめにたずねたときのことだが、ちょうじはぎんなんのみをざるにいっぱいひろってきた)

二度目に訪ねたときのことだが、長次は銀杏の実を笊にいっぱい拾って来た

(ところで、のぼるにそれをみせ、このつぎにきたらせんせいにあげるよ、とないしょで)

ところで、登にそれを見せ、この次に来たら先生にあげるよ、とないしょで

(いった。 「そんなにどうしたんだ」)

云った。 「そんなにどうしたんだ」

(「いずさまのやしきだよ」とちょうじはいった、「いずさまのやしきにおおきないちょうのきが)

「伊豆さまの屋敷だよ」と長次は云った、「伊豆さまの屋敷に大きな銀杏の樹が

(あるだろう、かぜがふくと、みがへいのそとへおちるんだ」 「ずいぶんたくさん)

あるだろう、風が吹くと、実が塀の外へ落ちるんだ」 「ずいぶんたくさん

(あるな」 「おれがいちばんさ」といいながら、ちょうじはかってぐちの)

あるな」 「おれが一番さ」と云いながら、長次は勝手口の

(よこのじめんをほって、そのあおくさいにおいのするみをうめていった、「みんなひろいに)

横の地面を掘って、その青臭い匂いのする実を埋めていった、「みんな拾いに

(いくけれど、おれにかなうやつはいやあしねえ、あしたもまたいくんだ」それから)

いくけれど、おれにかなうやつはいやあしねえ、明日もまたいくんだ」それから

(またりきんでいった、「これいいねでうれるんだぜ」 のぼるはとまどったような)

また力んで云った、「これいい値で売れるんだぜ」 登は戸惑ったような

(かおをし、ゆっくりとはなしをそらした。 「つちにうめてどうするんだ」)

顔をし、ゆっくりと話をそらした。 「土に埋めてどうするんだ」

(「こうやってろくしちにちおくとね、うえのこのくさいかわがくさってむけちゃうんだ、)

「こうやって六七日おくとね、上のこの臭い皮が腐って剥けちゃうんだ、

(そうしたらなかからみをだしてあらってほすんだよ」 そのときひとりのおんなが)

そうしたら中から実を出して洗って干すんだよ」 そのとき一人の女が

(とおりかかって、ろこつないろめをつかいながらのぼるにえしゃくした。としはにじゅうはちく)

通りかかって、露骨ないろ眼をつかいながら登に会釈した。年は二十八九

(だろう、こえてかたはばがひろく、どうがくびれておらず、ひろいかたはばがそのままおおきな)

だろう、肥えて肩幅が広く、胴がくびれておらず、広い肩幅がそのまま大きな

(こしへつづいている。ほおぼねのはりでたひらべったいおおきなかおには、いやらしいほど、)

腰へ続いている。頬骨の張り出た平べったい大きな顔には、いやらしいほど、

(あつげしょうがしてあり、あかちゃけたすくないかみでゆったまげも、やすあぶらでびたびたひかって)

厚化粧がしてあり、赤茶けた少ない髪で結った髷も、安油でびたびた光って

(いた。 「やすもとせんせいっておっしゃるんですってね」とおんなはどきっとするほどふとい、)

いた。 「保本先生って仰しゃるんですってね」と女はどきっとするほど太い、

(しゃがれたこえではなしかけた、「あたしむこうながやのはしにいるおきぬという)

しゃがれた声で話しかけた、「あたし向う長屋の端にいるおきぬという

(ものですが、このごろずつうがつづいてどうしようもありませんの、おついでのとき)

者ですが、このごろ頭痛が続いてどうしようもありませんの、おついでのとき

(いちどきてみてくださらないでしょうか」 のぼるはだまってうなずき、すぐにごろきちのいえへ)

いちど来て診て下さらないでしょうか」 登は黙って頷き、すぐに五郎吉の家へ

(はいってしまった。そのかえりにさはいへよると、うへえのにょうぼうのおたつが、あの)

はいってしまった。その帰りに差配へ寄ると、卯兵衛の女房のおたつが、あの

(おんなはいけません、とくびをふった。 「まったくとんでもねえあまです」と)

女はいけません、と首を振った。 「まったくとんでもねえあまです」と

(うへえもそばからいった、「こつ(せんじゅのゆうかく)でねんきいっぱいつとめあげたという)

卯兵衛も側から云った、「こつ(千住の遊廓)で年期いっぱい勤めあげたという

(ふるぎつねで、しらねえもんだからたなもかしたんですが、あいつのおかげでしがつから)

古狐で、知らねえもんだから店も貸したんですが、あいつのおかげで四月から

(こっち、ながやないにいざこざのたえたことがねえ、まったくしまつにおえねえ)

こっち、長屋内にいざこざの絶えたことがねえ、まったく始末におえねえ

(あまです」 「なはおきぬというそうだな」)

あまです」 「名はおきぬというそうだな」

(「まったく」とうへえがいった、「うわばみみてえなかっこうをしてやがって)

「まったく」と卯兵衛が云った、「うわばみみてえな格好をしてやがって

(おきぬもすさまじい、そのうちにはものざたでもおこりゃしねえかと、こっちは)

おきぬもすさまじい、そのうちに刃物沙汰でも起こりゃしねえかと、こっちは

(びくびくものですぜ」 おきぬのしんぺんはふくざつであった。)

びくびくものですぜ」 おきぬの身辺は複雑であった。

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