神曲 第四曲 - 1
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問題文
(はげしきいかづちはわがかうべのうちなるうまいをやぶれり、)
はげしき雷はわが頭のうちなる熟睡を破れり、
(われはちからによりておこされしひとのごとくわれにかへり)
我は力によりておこされし人の如く我にかへり
(たちなほりてやすめるめをうごかし、)
たちなほりて休める目を動かし、
(わがあるところをしらんとてひとみをさだめあたりをみれば)
わが在るところを知らんとて瞳を定めあたりを見れば
(われはげにはてしなききょうかんのいかづちをあつめてものすごきふちなすたにのへりにあり)
我はげにはてしなき叫喚の雷をあつめてものすごき淵なす溪の縁にあり
(くらく、ふかく、きりおおく、めをそのふかみにそそげどもまたなにものをもみとむるをえざりき)
暗く、深く、霧多く、目をその深處に注げどもまた何物をもみとむるをえざりき
(しじんあをざめていひけるは、いざわれらこのめしひのよにくだらむ、われだいいちになんじだいにに)
詩人あをざめていひけるは、いざ我等この盲の世にくだらむ、我第一に汝第二に
(われそのいろをみ、いひけるは、)
われその色を見、いひけるは、
(おそるおそるごとにわれをはげませしなんじもしみづからおそれなばわれなんぞいくをえん)
おそるゝごとに我を勵ませし汝若しみづから恐れなば我何ぞ行くをえん
(ひがに、このしたなるたみのわづらひはあわれみをもてわがおもてをそめしを、)
彼我に、この下なる民のわづらひは憐みをもてわが面を染めしを、
(なんじみておそれとなせり)
汝みて恐れとなせり
(ちょうとわれらをうながせばいざいかむ、かくしてかれさきにはいり、)
長途我等を促せばいざ行かむ、かくして彼さきに入り、
(かくしてわれをみちびきぬ、ふちをめぐれるだいいちのひとやのなかに)
かくして我をみちびきぬ、淵をめぐれる第一の獄の中に
(みみにてはかるに、ここにはとこしへのそらをふるはすためいきのほかなげきなし)
耳にてはかるに、こゝにはとこしへの空をふるはす大息のほか歎聲なし
(こはかしゃくのくなきなやみよりいづ、)
こは苛責の苦なきなやみよりいづ、
(よきしわれに、なんじこれらのたましいをみてそのいかなるやをとはざるならずや、)
善き師我に、汝これらの魂をみてその何なるやを問はざるならずや、
(いざなんじなほさきにいかざるまにしるべし)
いざ汝なほさきに行かざるまに知るべし
(かれらはつみをおかせるにあらず、よみすべきことはありとも)
彼等は罪を犯せるにあらず、嘉すべきことはありとも
(なんじがいだくしんこうのいちぶなるばってすもをうけざるがゆえになほたらず)
汝がいだく信仰の一部なる洗禮をうけざるが故になほたらず
(またくりすとのおしえへのさきによにありたればかみがあがむるのみちをつくさざりき、)
またクリストの教へのさきに世にありたれば神があがむるの道をつくさゞりき、
(われもまたこのひとりなり)
我も亦このひとりなり
(われらのすくいひをうしなへるはほかにつみあるためならず、)
われらの救ひを失へるはほかに罪あるためならず、
(ただこのおちどのためなればわれらは)
たゞこの虧處のためなれば我等は
(ただねがひありてのぞみなきいのちをここにわぶるのみ)
たゞ願ひありて望みなき生命をこゝにわぶるのみ
(われこのことばをきくにおよびてりむぼにかけれるいとたふときたみあるをしり、)
われこの言をきくにおよびてリムボに懸れるいとたふとき民あるをしり、
(ふかきうれひはわがこころをとらへき)
深き憂ひはわが心をとらへき
(われはいっさいのまよいひにかつしんこうにかたくたたんことをおもひ、)
我は一切の迷ひに勝つ信仰にかたく立たんことをおもひ、
(いひけるは、われにつげよわがし、われにつげよきみ)
いひけるは、我に告げよわが師、我に告げよ主
(おのれのくどくによりまたはひとのくどくにより、)
おのれの功徳によりまたは他人の功徳により、
(かつてこのところをいでてさいはひをうくるにいたれるものありや、)
かつてこの處をいでゝ福さいはひを享くるに至れるものありや、
(かれわがことばのうらをさとり)
かれわが言の裏をさとり
(こたへていひけるは、われここにくだりてほどなきに、)
答へて曰ひけるは、われこゝにくだりてほどなきに、
(ひとりのちからあるものかちのしるしをかうむりてくるをみたり)
ひとりの權能あるもの勝利の休徴を冠て來るを見たり