最後の一葉 - 3

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原作:オー・ヘンリー 訳:結城浩

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(すーはいぶかしげにまどのそとをみました。なにをかぞえているのだろう?)

スーはいぶかしげに窓の外を見ました。 何を数えているのだろう?

(そこにはくさもなくわびしいにわがみえるだけで、)

そこには草もなくわびしい庭が見えるだけで、

(れんがのいえのなにもないかべはにじゅうふぃーともむこうなのです。)

煉瓦の家の何もない壁は二十フィートも向こうなのです。

(ねもとがふしだらけでくさりかかっている、)

根元が節だらけで腐りかかっている、

(とても、とてもふるいつたがそのれんがのかべのなかほどまではっていました。)

とても、とても古いつたがその煉瓦の壁の中ほどまで這っていました。

(つめたいあきのかぜはつたのはにふきつけて、)

冷たい秋の風は つたの葉に吹き付けて、

(もうはだかどうぜんとなったえだはくずれかかったれんがにしがみついているのでした。)

もう裸同然となった枝は崩れかかった煉瓦にしがみついているのでした。

(「なあに?」すーはたずねました。)

「なあに?」スーは尋ねました。

(「ろく」とじょんじーはささやくようなこえでいいました。)

「ろく」とジョンジーはささやくような声で言いました。

(「はやくおちてくるようになったわ。みっかまえはひゃくまいくらいあったのよ。)

「早く落ちてくるようになったわ。三日前は百枚くらいあったのよ。

(かぞえているとあたまがいたくなるほどだったわ。でもいまはかんたん。)

数えていると頭が痛くなるほどだったわ。でもいまは簡単。

(ほらまたいちまい。もうのこっているのはごまいだけね」)

ほらまた一枚。もう残っているのは五枚だけね」

(「なにがごまいなの?すーちゃんにおしえてちょうだい」)

「何が五枚なの?スーちゃんに教えてちょうだい」

(「はっぱよ。つたのはっぱ。さいごのいちまいがちるとき、わたしもいっしょにいくのよ。)

「葉っぱよ。つたの葉っぱ。最後の一枚が散るとき、わたしも一緒に行くのよ。

(みっかまえからわかっていたの。おいしゃさんはおしえてくれなかったの?」)

三日前からわかっていたの。お医者さんは教えてくれなかったの?」

(「まあ、そんなばかなはなしはきいたことがないわよ」)

「まあ、そんな馬鹿な話は聞いたことがないわよ」

(すーはとんでもないともんくをいいました。)

スーはとんでもないと文句を言いました。

(「ふるいつたのはっぱと、あなたがげんきになるのと、)

「古いつたの葉っぱと、あなたが元気になるのと、

(んなかんけいがあるっていうの?あなたは、)

んな関係があるっていうの? あなたは、

(あのつたをとてもだいすきだったじゃない、おばかさん。)

あのつたをとても大好きだったじゃない、おばかさん。

など

(そんなしょうもないこといわないでちょうだい。)

そんなしょうもないこと言わないでちょうだい。

(あのね、おいしゃさんはけさ、あなたがすぐによくなるみこみは--)

あのね、お医者さんは今朝、あなたがすぐによくなる見込みは --

(えっと、おいしゃさんがいったとおりのことばでいえば--)

えっと、 お医者さんが言ったとおりの言葉で言えば --

(「いちにじゅうだ」っていうのよ。)

「一に十だ」って言うのよ。

(それって、にゅーよーくででんしゃにのるとか、)

それって、ニューヨークで電車に乗るとか、

(けんせつちゅうのびるのそばをとおるぐらいしかあぶなくないってことよ。)

建設中のビルのそばを通るぐらいしか危なくないってことよ。

(ほらほら、すーぷをすこしのんで。)

ほらほら、スープを少し飲んで。

(そしてこのすーちゃんをすけっちにもどらせてね。)

そしてこのスーちゃんをスケッチに戻らせてね。

(そしたらすーちゃんはへんしゅうしゃにすけっちをうってね、)

そしたらスーちゃんは編集者にスケッチを売ってね、

(びょうきのべびーにはぽーとわいんをかってね、)

病気のベビーにはポートワインを買ってね、

(はらぺこのじぶんにはぽーくちょっぷをかえるでしょ」)

はらぺこの自分にはポークチョップを買えるでしょ」

(「もう、わいんはかわなくていいわ」)

「もう、ワインは買わなくていいわ」

(めはまどのそとにむけたまま、じょんじーはいいました。)

目は窓の外に向けたまま、ジョンジーは言いました。

(「ほらまたいちまい。ええ、もう、すーぷもいらないの。)

「ほらまた一枚。ええ、もう、スープもいらないの。

(のこりのははたったのよんまい。)

残りの葉は たったの四枚。

(くらくなるまえにさいごのいちまいがちるのをみたいな。そしてわたしもさよならね」)

暗くなる前に最後の一枚が散るのを見たいな。そして私もさよならね」

(「じょんじー、ねえ」すーはじょんじーのうえにかがみこんでいいました。)

「ジョンジー、ねえ」スーはジョンジーの上にかがみ込んで言いました。

(「おねがいだからめをとじて、)

「お願いだから目を閉じて、

(わたしのしことがおわるまでまどのそとをみないってやくそくしてくれない?)

私の仕事が終わるまで窓の外を見ないって約束してくれない?

(このえは、あしたまでにださなきゃいけないのよ。えがくのにあかりがいるの。)

この絵は、明日までに出さなきゃいけないのよ。 描くのに明かりがいるの。

(でなきゃひよけをおろしてしまうんだけど」)

でなきゃ日よけを降ろしてしまうんだけど」

(「ほかのへやではえがけないの?」とじょんじーはつめたくたずねました。)

「他の部屋では描けないの?」とジョンジーは冷たく尋ねました。

(「あなたのそばにいたいのよ」とすーはこたえました。)

「あなたのそばにいたいのよ」とスーは答えました。

(「それに、あんなつたのはっぱなんかみてほしくないの」)

「それに、あんなつたの葉っぱなんか見てほしくないの」

(「おわったらすぐにおしえてね」とじょんじーはいい、)

「終わったらすぐに教えてね」とジョンジーは言い、

(めをとじ、たおれたぞうのようにしろいかおをしてじっとよこになりました。)

目を閉じ、 倒れた像のように白い顔をしてじっと横になりました。

(「さいごのいちまいがちるのをみたいの。もうまつのはつかれたし。)

「最後の一枚が散るのを見たいの。もう待つのは疲れたし。

(かんがえるのにもつかれたし。じぶんがぎゅっとにぎりしめていたものすべてをはなしたいの。)

考えるのにも疲れたし。自分がぎゅっと握り締めていたもの全てを放したいの。

(そしてひらひらひらっといきたいのよ。あのあわれで、つかれたこのはみたいに」)

そしてひらひらひらっと行きたいのよ。あの哀れで、疲れた木の葉みたいに」

(「もうおやすみなさい」とすーはいいました。)

「もうおやすみなさい」とスーは言いました。

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