最後の一葉 - 2
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問題文
(あるあさ、はいいろのこいまゆをしたたぼうないしゃがすーをろうかによびました。)
ある朝、灰色の濃い眉をした多忙な医者がスーを廊下に呼びました。
(「たすかるみこみは--そう、じゅうにひとつですな」)
「助かる見込みは -- そう、十に一つですな」
(いしゃは、たいおんけいのすいぎんをふりさげながらいいました。)
医者は、体温計の水銀を振り下げながら言いました。
(「で、そのみこみはあのこが「いきたい」とおもうかどうかにかかっている。)
「で、その見込みはあの子が「生きたい」と思うかどうかにかかっている。
(こんなふうにそうぎやのがわにつこうとしてたら、)
こんな風に葬儀屋の側につこうとしてたら、
(どんなくすりでもばかばかしいものになってしまう。)
どんな薬でもばかばかしいものになってしまう。
(あのおじょうさんは、じぶんはよくならない、ときめている。)
あのお嬢さんは、自分はよくならない、と決めている。
(あのこがなにかこころにかけていることはあるかな?」)
あの子が何か心にかけていることはあるかな?」
(「あのこは--いつかなぽりわんをえがきたいっていってたんです」)
「あの子は -- いつかナポリ湾を描きたいって言ってたんです」
(とすーはいいました。「えをかきたいって?--)
とスーは言いました。「絵を描きたいって? --
(ふむ。もっとばいくらいみのあることはかんがえていないのかな)
ふむ。もっと倍くらい実のあることは考えていないのかな
(--たとえばおとこのこととか」)
-- 例えば男のこととか」
(「おとこ?」すーはびあぼんのげんのおとみたいなはなごえでいいました。)
「男?」スーはびあぼんの弦の音みたいな鼻声で言いました。
(「おとこなんて--いえ、ないです。せんせい。そういうはなしはありません」)
「男なんて -- いえ、ないです。先生。そういう話はありません」
(「ふむ。じゃあそこがねっくだな」いしゃはいいました。)
「ふむ。じゃあそこがネックだな」医者は言いました。
(「わたしは、じぶんのちからのおよぶかぎりのこと、)
「わたしは、自分の力のおよぶ限りのこと、
(かがくができることはすべてやるつもりだ。)
科学ができることはすべてやるつもりだ。
(でもな、かんじゃがじぶんのそうしきにくるくるまのかずをかぞえはじめたら、)
でもな、患者が自分の葬式に来る車の数を数え始めたら、
(くすりのききめもはんげんなんだよ。もしもあなたがじょんじーに、)
薬の効き目も半減なんだよ。もしもあなたがジョンジーに、
(ふゆにはどんながいとうのそでがはやるのか、なんてしつもんをさせることができるなら、)
冬にはどんな外套の袖が流行るのか、なんて質問をさせることができるなら、
(のぞみはじゅうにひとつからごにひとつになるってうけあうんだがね」)
望みは十に一つから五に一つになるって請け合うんだがね」
(いしゃがかえると、すーはしごとべやにはいってにほんせいのなふきんが)
医者が帰ると、スーは仕事部屋に入って日本製のナフキンが
(ぐしゃぐしゃになるまでなきました。やがてすーはすけっちぶっくをもち、)
ぐしゃぐしゃになるまで泣きました。やがてスーはスケッチブックを持ち、
(くちぶえでらぐたいむをふきつつ、むねをはってじょんじーのへやに)
口笛でラグタイムを吹きつつ、胸を張ってジョンジーの部屋に
(はいっていきました。)
入っていきました。
(じょんじーはしーつをかけてよこになっていました。)
ジョンジーはシーツをかけて横になっていました。
(しわひとつもしーつによせることなく、かおはまどにむけたままでした。)
しわ一つもシーツに寄せることなく、顔は窓に向けたままでした。
(じょんじーがねむっているとおもい、すーはくちぶえをやめました。)
ジョンジーが眠っていると思い、スーは口笛をやめました。
(すーはすけっちぶっくをせっとすると、)
スーはスケッチブックをセットすると、
(ざっししょうせつのさしえをぺんといんくでえがきはじめました。)
雑誌小説の挿絵をペンとインクで描きはじめました。
(わかいさっかはぶんがくのみちをきりひらくためにざっししょうせつをかきます。)
若い作家は文学の道を切り開くために雑誌小説を書きます。
(わかきがかはげいじゅつのみちをきりひらくためにそのさしえをかかなければならないのです。)
若き画家は芸術の道を切り開くためにその挿絵を描かなければならないのです。
(すーが、ゆうびなうまのしょーようのずぼんとかためがねを)
スーが、優美な馬のショー用のズボンと片眼鏡を
(しゅじんこうのあいだほしゅうかうぼーいのためにえがいているとき、)
主人公のアイダホ州カウボーイのために描いているとき、
(ひくいこえがすうかいくりかえしてきこえました。)
低い声が数回繰り返して聞こえました。
(すーはいそいでべっどのそばにいきました。)
スーは急いでベッドのそばに行きました。
(じょんじーはめをおおきくひらいていました。)
ジョンジーは目を大きく開いていました。
(そしてまどのそとをみながらかずをかぞえて--ぎゃくじゅんにかずをかぞえているのでした。)
そして窓の外を見ながら数を数えて -- 逆順に数を数えているのでした。
(「じゅうに」とじょんじーはいい、すこしあとに「じゅういち」といいました。)
「じゅうに」とジョンジーは言い、少し後に「じゅういち」と言いました。
(それから「じゅう」「く」といい、)
それから「じゅう」「く」と言い、
(それから「はち」と「なな」をほとんどどうじにいいました。)
それから「はち」と「なな」をほとんど同時に言いました。