最後の一葉 - 1
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問題文
(わしんとん・すくえあにしにあるしょうちくは、どうろがくるったようにいりくんでおり、)
ワシントン・スクエア西にある小地区は、道路が狂ったように入り組んでおり、
(「ぷれーす」とよばれるくいきにちいさくわかれておりました。)
「プレース」と呼ばれる区域に小さく分かれておりました。
(この「ぷれーす」はふかしぎなかくどときょくせんをえがいており、)
この「プレース」は不可思議な角度と曲線を描いており、
(いち、にかいじぶんじしんとこうさしているとおりがあるほどでした。)
一、二回自分自身と交差している通りがあるほどでした。
(かつて、あるがかは、このとおりがきちょうなかのうせいをもっていることをはっけんしました)
かつて、ある画家は、この通りが貴重な可能性を持っていることを発見しました
(たとえばえやかみやきゃんばすのせいきゅうしょをてにしたとりたてやをかんがえてみてください)
例えば絵や紙やキャンバスの請求書を手にした取り立て屋を考えてみてください
(とりたてやは、このみちをあるきまわったあげく、)
取り立て屋は、この道を歩き回ったあげく、
(ぐるりともとのところまでもどってくるにちがいありません。)
ぐるりと元のところまで戻ってくるに違いありません。
(いちせんともとりたてることができずにね。)
一セントも取り立てることができずにね。
(それで、げいじゅつかたちはまもなく、)
それで、芸術家たちはまもなく、
(きみょうでふるいぐりにっち・ヴぃれっじへとやってきました。)
奇妙で古いグリニッチ・ヴィレッジへとやってきました。
(そして、きたむきのまどとじゅうはっせいきのきりづまとおらんだふうのやねうらべやと)
そして、北向きの窓と十八世紀の切り妻とオランダ風の屋根裏部屋と
(やすいちんたいりょうをさがしてうろついたのです。)
安い賃貸料を探してうろついたのです。
(やがて、かれらはしろめせいのまぐやこんろつきたくじょうなべをいち、にこ、)
やがて、彼らはしろめ製のマグやこんろ付き卓上なべを一、二個、
(ろくばんがいからもちこみ、「ころにー」をけいせいすることになりました。)
六番街から持ち込み、 「コロニー」を形成することになりました。
(ずんぐりしたさんがいだてのれんがづくりのさいじょうかいでは、)
ずんぐりした三階建ての煉瓦造りの最上階では、
(すーとじょんじーがあとりえをもっていました。)
スーとジョンジーがアトリエを持っていました。
(「じょんじー」はじょあんなのあいしょうです。)
「ジョンジー」はジョアンナの愛称です。
(すーはめいんしゅうの、じょんじーはかりふぉるにあしゅうのしゅっしんでした。)
スーはメイン州の、ジョンジーはカリフォルニア州の出身でした。
(ふたりははちばんまちの「でるもにこのみせ」のていしょくでであい、げいじゅつと、)
二人は八番街の「デルモニコの店」の定食で出会い、芸術と、
(ちこりーのさらだと、びしょっぷ・すりーぶのしゅみがぴったりだとわかって、)
チコリーのサラダと、ビショップ・スリーブの趣味がぴったりだとわかって、
(きょうどうのあとりえをもつことになったのでした。)
共同のアトリエを持つことになったのでした。
(それがごがつのことでした。)
それが五月のことでした。
(じゅういちがつにはいると、つめたく、めにみえないよそものが)
十一月に入ると、冷たく、目に見えないよそ者が
(そのころにーをめぐりあるきはじめました。)
そのコロニーを巡り歩きはじめました。
(そのよそものはいしゃからはいえんしとよばれ、)
そのよそ者は医者から肺炎氏と呼ばれ、
(こおりのようなゆびでそこかしこにいるひとにふれていくのでした。)
氷のような指でそこかしこにいる人に触れていくのでした。
(このしんりゃくしゃはひがしのはしからだいたんにあるきまわり、)
この侵略者は東の端から大胆に歩きまわり、
(なにじゅうにんものぎせいしゃにおそいかかりました。)
何十人もの犠牲者に襲いかかりました。
(しかし、せまくてこけむした「ぷれーす」のめいきゅうをとおるときには)
しかし、狭くて苔むした「プレース」の迷宮を通るときには
(さすがのかれのあしどりもにぶりました。)
さすがの彼の足取りも鈍りました。
(はいえんしはきしどうせいしんにみちたろうしんしとはよべませんでした。)
肺炎氏は騎士道精神に満ちた老紳士とは呼べませんでした。
(いきがあらく、ちにまみれたてをもったとしよりのえせものが、)
息が荒く、血にまみれた手を持った年寄りのエセ者が、
(かりふぉるにあのそよかぜでちのけのうすくなっている)
カリフォルニアのそよ風で血の気の薄くなっている
(こがらなふじんをあいてにとるなどというのはふぇあぷれいとはいえますまい。)
小柄な婦人を相手に取るなどというのはフェアプレイとは言えますまい。
(しかしはいえんしはじょんじーをおそいました。)
しかし肺炎氏はジョンジーを襲いました。
(そのけっかじょんじーはたおれ、じぶんのえがえがいてあるてつのべっどによこになったまま)
その結果ジョンジーは倒れ、自分の絵が描いてある鉄のベッドに横になったまま
(すこしもうごけなくなりました。)
少しも動けなくなりました。
(そしてちいさなおらんだふうのまどがらすごしに、)
そして小さなオランダ風の窓ガラスごしに、
(となりにあるれんがづくりのいえのなにもないかべをみつめつづけることになったのです。)
隣にある煉瓦造りの家の何もない壁を見つめつづけることになったのです。