悪獣篇 泉鏡花 10

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね1お気に入り登録
プレイ回数123難易度(4.4) 4992打 長文
泉鏡花の中編小説です
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 やまちゃん 4360 C+ 4.4 98.0% 1114.7 4960 99 100 2025/12/09

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問題文

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(けだしもゆきのつまさきへ、とかくしてずりさがり、ずりさがる) 蹴出[けだ]しも雪の爪尖[つまさき]へ、とかくしてずり下り、ずり下る (ねまきのつまをおさえながら、かたてでともしをうしろへひいて、) 寝衣[ねまき]の褄を圧[おさ]えながら、片手で燈をうしろへ引いて、 (ぼっとする、かたごしのあかりにすかして、かやをのぞこうとして、つまだって、) ぼッとする、肩越のあかりに透かして、蚊帳を覗こうとして、爪立って、 (まえがみをそっとさよせてはみたけれども、ゆめのためにみをもだえた、) 前髪をそっと差寄せては見たけれども、夢のために身を悶[もだ]えた、 (ねやのうちの、なさけないさまをみるのもいまわしし、) 閨[ねや]の内の、情[なさけ]ない状[さま]を見るのも忌[いま]わしし、 (また、なんとなくかいまきが、じぶんのかたちにみえるにつけても、ねていて、) また、何となく掻巻が、自分の形に見えるにつけても、寝ていて、 (かやをうかがうこのすがたがすいたら、きぜつしないではすむまいと、) 蚊帳を覗[うかが]うこの姿が透いたら、気絶しないでは済むまいと、 (おもわずよろよろとすさって、ひっくるまるもすそあやうく、) 思わずよろよろと退[すさ]って、引[ひっ]くるまる裳[もすそ]危く、 (はらりとさばいてろうかへでた。) はらりと捌いて廊下へ出た。 (つぎのへやはまっくらで、そこにはもとよりだれもいない。) 次の室[へや]は真暗[まっくら]で、そこにはもとより誰も居ない。 (ねやとならんで、にわをまえにさんけんつづきの、そのひとまをへだてた) 閨[ねや]と並んで、庭を前に三間続きの、その一室[ひとま]を隔てた (はちじょうに、せんたろうと、けんのすけがひとつかや。) 八畳に、銑太郎と、賢之助が一つ蚊帳。 (そこからべつにうらにわへつきでたかどざしきのろくじょうに、せんせいがねているはず。) そこから別に裏庭へ突き出た角座敷の六畳に、先生が寝ている筈。 (そのほうにもかわやはあるが、はこぶのに、ちととおい。) その方にも厠はあるが、運ぶのに、ちと遠い。 (くだんのつぎのあきまをこすと、とっつきが) 件[くだん]の次の明室[あきま]を越すと、取着[とっつき]が (いたどになって、そのだいどころをこしたところに、まつというなかばたらき、) 板戸になって、その台所を越した処に、松という仲働[なかばたらき]、 (おさんと、もうひとりじょちゅうがさんにん。) お三と、もう一人女中が三人。 (おんなばかりでたよりにはならぬが、ちかいうえにこころやすい。) 婦人[おんな]ばかりでたよりにはならぬが、近い上に心安い。 (それにちとあいだはあるが、そこからいちもくのおもてもんのすぐうちに、ながやだちが) それにちと間はあるが、そこから一目の表門の直ぐ内に、長屋だちが (いっけんあって、かかえしゃふがすんでいて、かくだんながるすのおりからには、) 一軒あって、抱え車夫が住んでいて、かく旦那が留守の折りからには、
など
(あけがたまでこうしどからあかりがさして、しごにんで、ひそめくものおと。) あけ方まで格子戸から灯[あかり]がさして、四五人で、ひそめくもの音。 (ひしひしとはなふだのひびきがするのを、ほようのばしょとおおめにみても、) ひしひしと花ふだの響[ひびき]がするのを、保養の場所と多めに見ても、 (いいこととはおもわなかったが、ときにこそよれたのもしい。) 好[い]いこととは思わなかったが、時にこそよれ頼母[たのも]しい。 (さらばと、やがてろうかづたい、かかとのおとして、するすると、もすその) さらばと、やがて廊下づたい、踵の音して、するすると、裳[もすそ]の (けはいのきこゆるのも、われながらさびしいなかに、ゆめからさめたしるしぞ、と) 気勢[けはい]の聞ゆるのも、我ながら寂しい中に、夢から覚めたしるしぞ、と (こころうれしく、あきまのまえをいそいでこすと、つぎなるこべやの) 心嬉しく、明室[あきま]の前を急いで越すと、次なる小室[こべや]の (さんじょうは、ゆどのにちかいけしょうべや。これはしょうじがあいていた。) 三畳は、湯殿に近い化粧部屋。これは障子が明いていた。 (うちからかぜもふくようなり、わきしょうめんのすがたみに、な、) 中[うち]から風も吹くようなり、傍[わき]正面の姿見に、勿[な]、 (うつりそゆめのすがたとて、うなだるるまでかおをそむけた。) 映りそ夢の姿とて、首垂[うなだ]るるまで顔を背[そむ]けた。 (あたらしいひのきのあまど、それにもかおがえがかれそう。まっすぐにむきなおって、) 新しい檜の雨戸、それにも顔が描かれそう。真直[まっすぐ]に向き直って、 (つとともしびをさしだしながら、つきあたりへ) 衝[つ]と燈[ともしび]を差出しながら、突[つき]あたりへ (たどたどしゅう。) 辿々[たどたど]しゅう。 (ばたり、しめたすぎとのおとは、かかるよふけに、とおくどこまでひびいたろう。) 十八 ばたり、閉めた杉戸の音は、かかる夜ふけに、遠くどこまで響いたろう。 (かべはしろいが、まくらななかにいて、ただそればかりをちからにした、) 壁は白いが、真暗[まくら]な中に居て、ただそればかりを力にした、 (げんかんのとおあかり、しゃふべやのれいのひそひそごえが、このものおとに) 玄関の遠あかり、車夫部屋の例のひそひそ声が、このもの音に (はたとやんだを、きのどくらしくおもうまで、こよいは) ハタと留[や]んだを、気の毒らしく思うまで、今夜[こよい]は (それがうれしかった。) それが嬉しかった。 (うらこのすがたは、ぶじにかわやをうしろにして、さしおいた) 浦子の姿は、無事に厠を背後[うしろ]にして、さし置いた (そのらんぷのまえ、ろうかのはずれに、なまめかしくあらわれた。) その洋燈[ランプ]の前、廊下のはずれに、媚[なまめ]かしく露われた。 (いささかこころもおちついて、かちんとせんを、かたかたとさるをぬいた、) いささか心も落着いて、カチンとせんを、カタカタとさるを抜いた、 (とじまりげんじゅうなあまどをいちまい。なかばとぶくろへするりとあけると、ゆきならぬよるのはくしゃ、) 戸締り厳重な雨戸を一枚。半ば戸袋へするりと開けると、雪ならぬ夜の白砂、 (ひろにわいちめん、うすぐものかげをやどして、やねをこしたつきのかげが、ひさしを) 広庭一面、薄雲の影を宿して、屋根を越した月の影が、廂[ひさし]を (こぼれて、たけがきにはかげおおきく、さきかけるか、いま、ひらくと、あしたの) こぼれて、竹垣に葉かげ大きく、咲きかけるか、今、開くと、朝[あした]の (いろはなになにぞ。こんに、るりに、べにしぼり、しろに、ときいろ、) 色は何々ぞ。紺に、瑠璃に、紅絞[べにしぼ]り、白に、水紅[とき]色、 (みずあさぎ、つぼみのかずはわからねども、) 水浅葱[みずあさぎ]、莟[つぼみ]の数は分らねども、 (あさがおなりのちょうずばちを、もうろうとうつしたのである。) 朝顔形[あさがおなり]の手水鉢[ちょうずばち]を、朦朧と映したのである。 (ふじんはやまのすがたもみず、まつもみず、まつのこずえによるなみの、おきのけしきにも) 夫人は山の姿も見ず、松も見ず、松の梢[こずえ]に寄る浪の、沖の景色にも (めはやらず、ひとみをうっとりみすえるまで、いっしんにしゃふべやの) 目は遣[や]らず、瞳を恍惚[うっとり]見据えるまで、一心に車夫部屋の (ともしを、はるかに、ふねのゆめの、とうだいとちからにしつつ、てをやると、) 灯[ともし]を、遥[はるか]に、船の夢の、燈台と力にしつつ、手を遣ると、 (・・・・・・ひしゃくにさわらぬ。) ・・・・・・柄杓に障らぬ。 (きにもせず、なおうわのそらで、つめたくせともののふちをなでて、) 気にもせず、なお上[うわ]の空で、冷たく瀬戸ものの縁を撫でて、 (てをのばして、むこうまですべらしたが、ゆびにかかるこのはもなかった。) 手をのばして、向うまで辷[すべ]らしたが、指にかかる木の葉もなかった。 (めをかえしてすかしてみると、これはまた、むねにとどくまで、ちかくあり。) 目を返して透かして見ると、これはまた、胸に届くまで、近くあり。 (すぐにとろうとする、ひしゃくは、みずのなかをするすると、むこうまえに、) 直ぐに取ろうとする、柄杓は、水の中をするすると、反対[むこう]まえに、 (やまのほうへえがひとりでにまわった。) 山の方へ柄がひとりでに廻った。 (ふじんはてのものをおとしたように、うつむいてじっとみる。) 夫人は手のものを落したように、俯向[うつむ]いて熟[じっ]と見る。 (ちょうずばちとかきのあいだの、つきのくまくらきなかに、ほのぼのとしろくうごめくものあり。) 手水鉢と垣の間の、月の隈暗き中に、ほのぼのと白く蠢[うごめ]くものあり。 (そのとき、きりかみのはくはつになって、いぬのごとくつくばったが、) その時、切髪[きりかみ]の白髪になって、犬のごとく踞[つくば]ったが、 (ひしゃくのえに、やせがれたてをしかとかけていた。) 柄杓の柄に、痩せがれた手をしかとかけていた。 (ゆうがおのみにあかのすじのはいったさまの、ゆめのおもかげをそのままに、) 夕顔の実に朱の筋の入った状[さま]の、夢の俤[おもかげ]をそのままに、 (ぼやりとあおむけ、) ぼやりと仰向け、 (「みずをめされますかいの。」) 「水を召されますかいの。」 (というと、えんやかなはでにやりとえむ。) というと、艷やかな歯でニヤリと笑む。 (いきとともにみをひいて、よろよろと、あまどにぴったり、) 息とともに身を退[ひ]いて、蹌踉々々[よろよろ]と、雨戸にぴッたり、 (かぜにふきつけられたようになっておもてをそむけた。はすっかいの) 風に吹きつけられたようになって面[おもて]を背けた。斜[はす]ッかいの (けしょうべやのいりぐちを、しきいにかけてろうかへはんしん。) 化粧部屋の入口を、敷居にかけて廊下へ半身。 (まっくろなかげぼうしのちぎれちぎれなぼろをきて、) 真黒[まっくろ]な影法師のちぎれちぎれな襤褸[ぼろ]を被[き]て、 (ちゃいろのけのすくすくとおおわれかかるひたいのあたりに、) 茶色の毛のすくすくと蔽[おお]われかかる額のあたりに、 (しわでをあわせて、まうつむけにこなたをおがんだ) 皺手[しわで]を合わせて、真俯向けに此方[こなた]を拝んだ (はいみのばばは、さかしたのやぶのあねさまであった。) 這身[はいみ]の婆[ばば]は、坂下の藪の姉様[あねさま]であった。 (もうすじもぬけ、ほねくずれて、もすそはこぼれてちょうずばち、すなじにあしを) もう筋も抜け、骨崩れて、裳[もすそ]はこぼれて手水鉢、砂地に足を (ふみみだして、ふじんははしにろうかへたおれる。) 蹈[ふ]み乱して、夫人は橋に廊下へ倒れる。 (むねのうえなるあまどへはんめん、ぬっとよこざまにつきだしたは、あおんぶくれのべつのかおで、) 胸の上なる雨戸へ反面、ぬッと横ざまに突出したは、青ンぶくれの別の顔で、 (とたんにぎんいろのまなこをむいた。) 途端に銀色の眼[まなこ]をむいた。 (のさのさのさ、あたまでろうかをすってきて、ふじんのまくらにちかづいて、とあおいで) のさのさのさ、頭で廊下をすって来て、夫人の枕に近づいて、ト仰いで (あまどのかおをみた、ひたにふたつのきんのひとみ、まっかなくちをよこざまにあけて、) 雨戸の顔を見た、額に二つの金の瞳、真赤[まっか]な口を横ざまに開けて、 (「ふぁはははは、」) 「ふァはははは、」 (「う、うふふ、うふふ、」とかたがって、とをゆすってわらうと、) 「う、うふふ、うふふ、」と傾[かた]がって、戸を揺[ゆす]って笑うと、 (ばちゃりとひしゃくをみずになげて、あかめのおうなは、) バチャリと柄杓を水に投げて、赤目の嫗は、 (「おほほほほほ、」とじんじょうなわらいごえ。) 「おほほほほほ、」と尋常な笑い声。 (ろうかでは、そのにぎられたときこおりのようにつめたかった、といったてで、) 廊下では、その握られた時氷のように冷たかった、といった手で、 (ほおにかかったびんのけをもてあそびながら、) 頬にかかった鬢[びん]の毛を弄びながら、 (「すのまたのごぜんも、やまのかいのばあさまもはやかったな。」というと、) 「洲[す]の股の御前も、山の峡[かい]の婆さまも早かったな。」というと、 (「さかしたのあねさま、ごくろうにござるわや。」とちょうずばちから) 「坂下の姉[あね]さま、御苦労にござるわや。」と手水鉢から (みこしていった。) 見越して言った。 (ぎんのめをじろじろと、) 銀の目をじろじろと、 (「さあ、てをかされ、つれていにましょ。」) 「さあ、手を貸され、連れて行[い]にましょ。」 (「これの、つくいきも、ひくいきも、もうないかいの、」) 十九 「これの、吐[つ]く呼吸[いき]も、引く呼吸も、もうないかいの、」 (すのまたのごぜんがいえば、) と洲[す]の股の御前がいえば、 (「みずくらわしや、」) 「水くらわしや、」 (とかいのばばがじゃけんである。) と峡[かい]の婆[ばば]が邪慳[じゃけん]である。 (ここでさかしたのあねさまは、ふじんのまえがみにてをさしいれ、しろきひたいをひらてでなでて、) ここで坂下の姉様は、夫人の前髪に手をさし入れ、白き額を平手で撫でて、 (「まだじゃ、ぬくぬくとあたたかい。」) 「まだじゃ、ぬくぬくと暖い。」 (「てをかけてかたをあげされ、わしがこしをだこうわいの。」) 「手を掛けて肩を上げされ、私[わし]が腰を抱こうわいの。」 (とれいのよこあるきにそのかたむいたかたちをだしたが、こしにくんだてはそのままなり。) と例の横あるきにその傾いた形を出したが、腰に組んだ手はそのままなり。 (すのまたのごぜん、かたわらより、) 洲の股の御前、傍[かたわら]より、 (「おばあさん、ちょっとそのえいのはりでくちのはたぬわっしゃれ、) 「お婆さん、ちょっとその鱏[えい]の針で口の端[はた]縫わっしゃれ、 (こえをたてるとわるいわや。」) 声を立てると悪いわや。」 (「おいの、そうじゃの。」とろうかでいって、ふじんのくろかみを) 「おいの、そうじゃの。」と廊下でいって、夫人の黒髪を (りょうてでおさえた。) 両手で圧[おさ]えた。
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