怪人二十面相14

関連タイピング
問題文
(ななじには、けいしちょうからおおぜいのかかりかんがきて、ていないのとりしらべを)
七時には、警視庁から大ぜいの係官が来て、邸内の取りしらべを
(はじめました。そして、とりしらべがすむまで、いえのものはいっさい)
はじめました。そして、取りしらべがすむまで、家の者はいっさい
(がいしゅつをきんじられたのですが、がくせいだけはしかたがありません。)
外出を禁じられたのですが、学生だけはしかたがありません。
(かどわきちゅうがっこうさんねんせいのさなえさんと、たかちほしょうがっこうごねんせいのそうじくんとは、)
門脇中学校三年生の早苗さんと、高千穂小学校五年生の壮二君とは、
(じかんがくると、いつものように、じどうしゃでやしきをでました。)
時間が来ると、いつものように、自動車でやしきを出ました。
(うんてんしゅはまだげんきのないようすで、あまりくちもきかず、)
運転手はまだ元気のないようすで、あまり口もきかず、
(うなだれてばかりいましたが、でも、がっこうがおくれてはいけないと)
うなだれてばかりいましたが、でも、学校がおくれてはいけないと
(いうので、おしてうんてんせきについたのです。)
いうので、おして運転席についたのです。
(けいしちょうのなかむらそうさかかりちょうは、まずしゅじんのそうたろうしと、はんざいげんばのしょさいで)
警視庁の中村捜査係長は、まず主人の壮太郎氏と、犯罪現場の書斎で
(めんかいして、じけんのてんまつをくわしくききとったうえ、ていえんのそうさくに)
面会して、事件のてんまつをくわしく聞きとったうえ、庭園の捜索に
(とりかかりました。)
とりかかりました。
(「ゆうべわたしたちがかけつけましてから、ただいままで、やしきをでたものは)
「ゆうべ私たちがかけつけましてから、ただ今まで、やしきを出たものは
(ひとりもありません。へいをのりこしたものもありません。このてんは、)
ひとりもありません。塀を乗りこしたものもありません。この点は、
(じゅうぶんしんようしていただいていいとおもいます。」)
じゅうぶん信用していただいていいと思います。」
(しょかつけいさつしょのしゅにんけいじが、なかむらかかりちょうにだんげんしました。)
所轄警察署の主任刑事が、中村係長に断言しました。
(「すると、ぞくはまだていないにせんぷくしているというのですね。」)
「すると、賊はまだ邸内に潜伏しているというのですね。」
(「そうです。そうとしかかんがえられません。しかし、けさよあけから、)
「そうです。そうとしか考えられません。しかし、けさ夜明けから、
(またそうさくをはじめさせているのですが、いままでのところ、なんの)
また捜索をはじめさせているのですが、今までのところ、なんの
(はっけんもありません。ただ、いぬのしがいのほかには・・・・・・。」)
発見もありません。ただ、犬の死がいのほかには……。」
(「え、いぬのしがいだって?」)
「エ、犬の死がいだって?」
(「ここのいえでは、ぞくにそなえるために、じょんといういぬをかっていた)
「ここの家では、賊にそなえるために、ジョンという犬を飼っていた
(のですが、それがゆうべのうちにどくししていました。しらべてみますと)
のですが、それがゆうべのうちに毒死していました。しらべてみますと
(ここのむすこさんにばけたにじゅうめんそうのやつが、きのうのゆうがた、にわに)
ここのむすこさんに化けた二十面相のやつが、きのうの夕方、庭に
(でてそのいぬになにかたべさせていたということがわかりました。じつに)
出てその犬に何かたべさせていたということがわかりました。じつに
(よういしゅうとうなやりかたです。もしここのぼっちゃんが、わなをしかけて)
用意周到なやり方です。もしここの坊ちゃんが、わなをしかけて
(おかなかったら、やつは、やすやすとにげさっていたにちがいありません。」)
おかなかったら、やつは、やすやすと逃げさっていたにちがいありません。」
(「では、もういちどにわをさがしてみましょう。ずいぶんひろいにわだから、)
「では、もう一度庭をさがしてみましょう。ずいぶん広い庭だから、
(どこに、どんなかくればしょがあるかもしれない。」)
どこに、どんなかくれ場所があるかもしれない。」
(ふたりがそんなたちばなしをしているところへ、にわのつきやまのむこうから、)
ふたりがそんな立ち話をしているところへ、庭の築山の向こうから、
(とんきょうなさけびごえがきこえてきました。)
とんきょうなさけび声が聞こえてきました。
(「ちょっときてください。はっけんしました。ぞくをはっけんしました。」)
「ちょっと来てください。発見しました。賊を発見しました。」
(そのさけびごえとともに、にわのあちこちから、あわただしいくつおとが)
そのさけび声とともに、庭のあちこちから、あわただしい靴音が
(おこりました。けいかんたちがげんばへかけつけるのです。なかむらかかりちょうと)
おこりました。警官たちが現場へかけつけるのです。中村係長と
(しゅにんけいじも、こえをめあてにはしりだしました。)
主任刑事も、声を目あてに走りだしました。
(いってみますと、こえのぬしははしばしのひしょのひとりでした。)
行ってみますと、声のぬしは羽柴氏の秘書のひとりでした。
(かれはもりのようなこだちのなかの、いっぽんのおおきなしいのきのしたに)
彼は森のような木立ちの中の、一本のおおきなシイの木の下に
(たって、しきりとうえのほうをゆびさしているのです。)
立って、しきりと上のほうを指さしているのです。
(「あれです、あすこにいるのは、たしかにぞくです。ようふくにみおぼえが)
「あれです、あすこにいるのは、たしかに賊です。洋服に見おぼえが
(あります。」)
あります。」
(しいのきは、ねもとからさんめーとるほどのところで、ふたまたにわかれて)
シイの木は、根もとから三メートルほどのところで、二またにわかれて
(いるのですが、そのまたになったところに、しげったえだにかくれて、)
いるのですが、そのまたになったところに、しげった枝にかくれて、
(ひとりのにんげんが、みょうなかっこうをしてよこたわっていました。)
ひとりの人間が、みょうなかっこうをしてよこたわっていました。
(こんなにさわいでも、にげだそうともせぬところをみると、ぞくは)
こんなにさわいでも、にげだそうともせぬところをみると、賊は
(いきたえているのでしょうか。)
息絶えているのでしょうか。
(それとも、きをうしなっているのでしょうか。まさか、きのうえで)
それとも、気をうしなっているのでしょうか。まさか、木の上で
(いねむりをしているのではありますまい。)
居眠りをしているのではありますまい。
(「だれか、あいつをひきおろしてくれたまえ。」)
「だれか、あいつを引きおろしてくれたまえ。」
(かかりちょうのめいれいに、さっそくはしごがはこばれて、それにのぼるもの、)
係長の命令に、さっそくはしごが運ばれて、それにのぼるもの、
(したからうけとめるもの、さん、よんにんのちからで、ぞくはちじょうにおろされました。)
下から受けとめるもの、三、四人の力で、賊は地上におろされました。