土の下 -1-

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師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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問題文

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(ししょうからきいたはなしだ。)

師匠から聞いた話だ。

(だいがくいっかいせいのはる。ぼくはおもいもよらないあうとどあなひびをおくっていた。)

大学一回生の春。僕は思いもよらないアウトドアな日々を送っていた。

(それはぼくをつれまわしたひとが、)

それは僕を連れ回した人が、

(いえでじっとしてられないたちだったからにほかならない。)

家でじっとしてられないたちだったからに他ならない。

(なかでもとくにやまにはよくはいった。うんざりするほどはいった。)

中でも特に山にはよく入った。うんざりするほど入った。

(ぼくがおかるとにかんしてししょうとつのったそのひとは、)

僕がオカルトに関して師匠と募ったその人は、

(なにがたのしいのかいきあたりばったりにやまにわけいっては、)

なにが楽しいのか行き当たりばったりに山に分け入っては、

(けものみちにうもれたふるいはかをみつけ、てをあわせる、)

獣道に埋もれた古い墓を見つけ、手を合わせる、

(ということをらいふわーくにしていた。)

ということをライフワークにしていた。

(「せんぶつくよう」とほんにんはしょうしていたが、はじめてきいたときには)

「千仏供養」と本人は称していたが、初めて聞いた時には

(ことばのひびきからなんだかそわそわしてしまったことをおぼえている。)

言葉の響きからなんだかそわそわしてしまったことを覚えている。

(じっさいはいろけもなにもなく、えいりんじょのひとのようなさぎょうぎをきて)

実際は色気もなにもなく、営林所の人のような作業着を着て

(くびにまいたたおるであせをふきながら、)

首に巻いたタオルで汗を拭きながら、

(かのじょはたんたんとくちはてたはかをたんさくしていった。)

彼女は淡々と朽ち果てた墓を探索していった。

(ぼくはせんこうやらくがん、しきびなどをりゅっくさっくにせおい、)

僕は線香や落雁、しきびなどをリュックサックに背負い、

(ていのよいにもつもちとしておともをした。)

ていの良い荷物持ちとしてお供をした。

(ししょうはさいていげんのちずしかもたず、ほんとうにちょっかんだけでみちをえらんでいくので)

師匠は最低限の地図しか持たず、本当に直感だけで道を選んでいくので

(なんどもそうなんしかけたものだった。)

何度も遭難しかけたものだった。

(さんどめのせんぶつくようつあーだったとおもう。)

三度目の千仏供養ツアーだったと思う。

(すこしとおでをして、ききなれないなまえのやまにはいったときのことだ。)

少し遠出をして、聞きなれない名前の山に入った時のことだ。

など

(やまはだにうちすてられたしゅうらくのあとをみつけて、ししょうはがぜんはりきりはじめた。)

山肌に打ち捨てられた集落の跡を見つけて、師匠は俄然張り切り始めた。

(「はかがあるはずだ」といって。)

「墓があるはずだ」と言って。

(そのしゅうらくのかつてのじゅうみんたちのせいかつはんいをみぶりてぶりをまじえながらそうぞうし、)

その集落のかつての住民たちの生活範囲を身振り手振りを交えながら想像し、

(ちけいをしんちょうにかくにんしながら「こっちがにおう」などとつぶやきつつやまみちにわけいり、)

地形を慎重に確認しながら「こっちが匂う」などと呟きつつ山道に分け入り、

(あるさわのそばにとうとうにきのぼせきをはっけんした。)

ある沢のそばにとうとう二基の墓跡を発見した。

(えんもゆかりもないひとのねむるはかにみずをかけ、せんこうにひをつけ、)

縁もゆかりもない人の眠る墓に水を掛け、線香に火をつけ、

(じさんしたぷらすてぃっくのつつにしきびをさして、こめとらくがんをそなえる。)

持参したプラスティックの筒にしきびを挿して、米と落雁を供える。

(「てんぽうさんねんか。えどじだいのこうきだな」)

「天保三年か。江戸時代の後期だな」

(てをあわせたあとで、ししょうはぼせきにほられたもじをかんさつする。)

手を合わせた後で、師匠は墓跡に彫られた文字を観察する。

(こけがぜんめんをおおっていて、もじがよめるようになるまでにみどりいろのそれを)

苔が全面を覆っていて、文字が読めるようになるまでに緑色のそれを

(そうとうけずりとらなくてはならなかった。)

相当削り取らなくてはならなかった。

(「みろ。はしのとこ。かけてるだろ」)

「見ろ。端のとこ。欠けてるだろ」

(たしかにぼせきのてっぺんのよすみがそれぞれくだかれたようにかけている。)

確かに墓跡のてっぺんの四隅がそれぞれ砕かれたように欠けている。

(ちいやきんせんにとんだひとのぼせきのかけらをぶっかいてもっていると、)

地位や金銭に富んだ人の墓跡の欠片をぶっかいて持っていると、

(かけごとにごりえきがあるらしいぞ」)

賭け事にご利益があるらしいぞ」

(ししょうはぽけっとからこぶりなはんまーをとりだしてこつこつと、)

師匠はポケットから小ぶりなハンマーを取り出してコツコツと、

(かけているはしをさらにたたきはじめた。)

欠けている端をさらに叩きはじめた。

(「ここはどだいもしっかりしてるし、いしもよいものみたいだ。)

「ここは土台もしっかりしてるし、石も良い物みたいだ。

(きっととちのゆうりょくしゃだったんだろう」)

きっと土地の有力者だったんだろう」

(「でも、いいんですか」)

「でも、いいんですか」

(みずしらずのひとのはかをかってにたたくなんて。)

見ず知らずの人の墓を勝手に叩くなんて。

(「ゆうめいぜいみたいなもんだ。あのよにはろくもんしかもっていけないんだから、)

「有名税みたいなもんだ。あの世には六文しか持って行けないんだから、

(げんせのものはげんせに、かえさるのものはかえさるに、だ」)

現世のものは現世に、カエサルのものはカエサルに、だ」

(てきとうなことをいいながらししょうはだいたんにもはんまーをふりかぶり、)

適当なことを言いながら師匠は大胆にもハンマーを振りかぶり、

(くだけてらくはくしたもののうち、ひときわおおきなかけらを「ほら」とぼくにくれた。)

砕けて落剥したものの内、ひときわ大きなかけらを「ほら」と僕にくれた。

(きもちのわるさよりこうきしんのほうがかって、ぼくはそれをさいふのなかにおさめる。)

気持ちの悪さより好奇心の方が勝って、僕はそれを財布の中に収める。

(やがてなつをむかえるころにはそんないしでさいふがぱんぱんになろうとは、)

やがて夏を迎える頃にはそんな石で財布がパンパンになろうとは、

(まだおもってもいなかった。)

まだ思ってもいなかった。

(「もっとふるいのもあるかも」)

「もっと古いのもあるかも」

(ししょうはそのにきのはかをかんさつしたけっか、すくなくともそのせんだいも)

師匠はその二基の墓を観察した結果、少なくともその先代も

(まけずおとらずのゆうりょくしゃであり、)

負けず劣らずの有力者であり、

(そのはかがちかくにのこっているかのうせいがあるとすいそくし、ふたたびたんさくにはいった。)

その墓が近くに残っている可能性があると推測し、再び探索に入った。

(しかしこれがとんざする。)

しかしこれが頓挫する。

(ひがくれたかけたころ、さわにむけてかつてじすべりがあったとおもわれるこんせきを)

日が暮れたかけたころ、沢に向けてかつて地滑りがあったと思われる痕跡を

(みつけただけでおわった。そこにはかがあったかどうかはさだかではない。)

見つけただけで終わった。そこに墓があったかどうかは定かではない。

(ししょうはくやしそうなかおをしてじすべりのあとをじっとみつめていた。)

師匠は悔しそうな顔をして地滑りの跡をじっと見つめていた。

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