太宰治 「桜桃」 5

「英数字」「アルファベット」無し。
セリフ文のカギ括弧以外の記号は、基本打つ必要がないようにしています。
No,2 問題文では文字制限の都合上「はくち」が平仮名になっていますが、本文では漢字です。
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太宰治「桜桃」より引用
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問題文
(ちちもははも、このちょうなんについて、ふかくはなしあうことをさける。)
父も母も、この長男について、深く話し合うことを避ける。
(はくち、おし、それをひとことでもくちにだしていって、)
はくち、唖、……それを一言でも口に出して言って、
(ふたりでこうていしあうのは、あまりにひさんだからである。)
二人で肯定し合うのは、あまりに悲惨だからである。
(はははときどき、このこをかたくだきしめる。)
母は時々、この子を堅く抱きしめる。
(ちちはしばしばほっさてきに、このこをだいてかわにとびこみしんでしまいたくおもう。)
父はしばしば発作的に、この子を抱いて川に飛び込み死んでしまいたく思う。
(「おしのじなんをざんさつす。)
「唖の次男を斬殺す。
(ばつにちしょうごすぎ、ばつくばつまちばつばんちばつしょう、なにがしごじゅうさんさんは)
×日正午すぎ、×区×町×番地×商、何某<五三>さんは
(じたくろくじょうまでじなんなにがしじゅうはちくんのあたまをまきわりでいちげきしてさつがい、)
自宅六畳間で次男何某<十八>君の頭を薪割りで一撃して殺害、
(じぶんははさみでのどをついたがしにきれずふきんのいいんにしゅうようしたがきとく、)
自分はハサミで喉を突いたが死に切れず附近の医院に収容したが危篤、
(どうけではさいきんじじょなにがしにじゅうにさんにようしをむかえたが、)
同家では最近二女何某<二二>さんに養子を迎えたが、
(じなんがおしのうえにすこしあたまがわるいのでむすめかわいさからおもいあまったもの」)
次男が唖の上に少し頭が悪いので娘可愛さから思い余ったもの」
(こんなしんぶんのきじもまた、わたしにやけざけをのませるのである。)
こんな新聞の記事もまた、私にヤケ酒を飲ませるのである。
(ああ、ただたんに、はついくがおくれているというだけのことであってくれたら)
ああ、ただ単に、発育がおくれているというだけの事であってくれたら!
(このちょうなんが、いまにきゅうにせいちょうし、)
この長男が、いまに急に成長し、
(ちちははのしんぱいをいきどおりちょうしょうするようになってくれたら)
父母の心配を憤り嘲笑するようになってくれたら!
(ふうふはしんせきにもゆうじんにもだれにもつげず、ひそかにこころでそれをねんじながら、)
夫婦は親戚にも友人にも誰にも告げず、ひそかに心でそれを念じながら、
(ひょうめんはなにもきにしていないみたいに、ちょうなんをからかってわらっている。)
表面は何も気にしていないみたいに、長男をからかって笑っている。
(ははもせいいっぱいのどりょくでいきているのだろうが、ちちもまた、いっしょうけんめいであった。)
母も精一ぱいの努力で生きているのだろうが、父もまた、一生懸命であった。
(もともと、あまりたくさんかけるしょうせつかではないのである。)
もともと、あまりたくさん書ける小説家では無いのである。
(きょくたんなしょうしんものなのである。)
極端な小心者なのである。
(それがこうしゅうのめんぜんにひきだされ、へどもどしながらかいているのである。)
それが公衆の面前に引き出され、へどもどしながら書いているのである。
(かくのがつらくて、やけざけにすくいをもとめる。)
書くのがつらくて、ヤケ酒に救いを求める。
(やけざけというのは、じぶんのおもっていることをしゅちょうできない、)
ヤケ酒というのは、自分の思っていることを主張できない、
(もどっかしさ、いまいましさでのむさけのことである。)
もどっかしさ、いまいましさで飲む酒の事である。
(いつでも、じぶんのおもっていることをはっきりしゅちょうできるひとは、)
いつでも、自分の思っていることをハッキリ主張できるひとは、
(やけざけなんかのまない。)
ヤケ酒なんか飲まない。
(おんなにさけのみのすくないのは、このりゆうからである)
(女に酒飲みの少ないのは、この理由からである)
(わたしはぎろんをして、かったためしがない。かならずまけるのである。)
私は議論をして、勝ったためしが無い。必ず負けるのである。
(あいてのかくしんのつよさ、じここうていのすさまじさにあっとうせられるのである。)
相手の確信の強さ、自己肯定のすさまじさに圧倒せられるのである。
(そうしてわたしはちんもくする。)
そうして私は沈黙する。
(しかし、だんだんかんがえてみると、あいてのみがってにきがづき、)
しかし、だんだん考えてみると、相手の身勝手に気がづき、
(ただこっちばかりがわるいのではないのがかくしんせられてくるのだが、)
ただこっちばかりが悪いのではないのが確信せられて来るのだが、
(いちどいいまけたくせに、またしつこくせんとうかいしするのもいんさんだし、)
いちど言い負けたくせに、またしつこく戦闘開始するのも陰惨だし、
(それにわたしにはいいあらそいはなぐりあいとおなじくらいに)
それに私には言い争いは殴り合いと同じくらいに
(いつまでもふかいなにくしみとしてのこるので、)
いつまでも不快な憎しみとして残るので、
(いかりにふるえながらもわらい、ちんもくし、)
怒りにふるえながらも笑い、沈黙し、
(それから、いろいろさまざまかんがえ、ついやけざけということになるのである。)
それから、いろいろさまざま考え、ついヤケ酒という事になるのである。