注文の多い料理店(1/4)宮沢賢治
関連タイピング
-
プレイ回数10万歌詞200打
-
プレイ回数3867かな314打
-
プレイ回数96万長文かな1008打
-
プレイ回数3.2万歌詞1030打
-
プレイ回数1.1万313打
-
プレイ回数3014歌詞かな155打
-
プレイ回数117歌詞831打
-
プレイ回数1.8万長文かな102打
問題文
(ふたりのわかいしんしが、すっかりいぎりすのへいたいのかたちをして、)
二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、
(ぴかぴかするてっぽうをかついで、しろくまのようないぬをにひきつれて、)
ぴかぴかする鉄砲をかついで、白熊のような犬を二疋(ひき)つれて、
(だいぶやまおくの、このはのかさかさしたとこを、)
だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、
(こんなことをいいながら、あるいておりました。)
こんなことを云いながら、あるいておりました。
(「ぜんたい、ここらのやまはけしからんね。とりもけものもいっぴきもいやがらん。)
「ぜんたい、ここらの山は怪しからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。
(なんでもかまわないから、はやくたんたあーんと、やってみたいもんだなあ。」)
なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」
(「しかのきいろなよこっぱらなんぞに、にさんぱつおみまいもうしたら、)
「鹿の黄いろな横っ腹なんぞに、二三発お見舞もうしたら、
(ずいぶんつうかいだろうねえ。くるくるまわって、)
ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、
(それからどたっとたおれるだろうねえ。」)
それからどたっと倒れるだろうねえ。」
(それはだいぶのやまおくでした。あんないしてきたせんもんのてっぽううちも、)
それはだいぶの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、
(ちょっとまごついて、どこかへいってしまったくらいのやまおくでした。)
ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。
(それに、あんまりやまがものすごいので、そのしろくまのようないぬが、)
それに、あんまり山が物凄いので、その白熊のような犬が、
(にひきいっしょにめまいをおこして、しばらくうなって、)
二疋いっしょにめまいを起こして、しばらく吠(うな)って、
(それからあわをはいてしんでしまいました。)
それから泡を吐いて死んでしまいました。
(「じつにぼくは、にせんよんひゃくえんのそんがいだ」とひとりのしんしが、)
「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、
(そのいぬのまぶたを、ちょっとかえしてみていいました。)
その犬の目(ま)ぶたを、ちょっとかえしてみて言いました。
(「ぼくはにせんはっぴゃくえんのそんがいだ。」)
「ぼくは二千八百円の損害だ。」
(と、もひとりが、くやしそうに、あたまをまげていいました。)
と、もひとりが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。
(はじめのしんしは、すこしかおいろをわるくして、)
はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、
(じっと、もひとりのしんしの、かおつきをみながらいいました。)
じっと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云いました。
(「ぼくはもうもどろうとおもう。」)
「ぼくはもう戻ろうとおもう。」
(「さあ、ぼくもちょうどさむくはなったしはらはすいてきたしもどろうとおもう。」)
「さあ、ぼくもちょうど寒くはなったし腹は空いてきたし戻ろうとおもう。」
(「そいじゃ、これできりあげよう。なあにもどりに、きのうのやどやで、)
「そいじゃ、これで切りあげよう。なあに戻りに、昨日の宿屋で、
(やまどりをじゅうえんもかってかえればいい。」)
山鳥を拾(じゅう)円も買って帰ればいい。」
(「うさぎもでていたねえ。そうすればけっきょくおんなじこった。)
「兎もでていたねえ。そうすれば結局おんなじこった。
(ではかえろうじゃないか。」)
では帰ろうじゃないか。」
(ところがどうもこまったことは、どっちへいけばもどれるのか、)
ところがどうも困ったことは、どっちへ行けば戻れるのか、
(いっこうにけんとうがつかなくなっていました。)
いっこうに見当がつかなくなっていました。
(かぜがどうとふいてきて、くさはざわざわ、このははかさかさ、)
風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、
(きはごとんごとんとなりました。)
木はごとんごとんと鳴りました。
(「どうもはらがすいた。さっきからよこっぱらがいたくてたまらないんだ。」)
「どうも腹が空いた。さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」
(「ぼくもそうだ。もうあんまりあるきたくないな。」)
「ぼくもそうだ。もうあんまりあるきたくないな。」
(「あるきたくないよ。ああこまったなあ、なにかたべたいなあ。」)
「あるきたくないよ。ああ困ったなあ、何か食べたいなあ。」
(「たべたいもんだなあ。」)
「食べたいもんだなあ。」
(ふたりのしんしは、ざわざわなるすすきのなかで、こんなことをいいました。)
二人の紳士は、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことを云いました。
(そのときふとうしろをみますと、りっぱないっけんのせいようづくりのいえがありました。)
その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。
(そしてげんかんには)
そして玄関には
(restaurant せいようりょうりてん wildcat house やまねこけん)
RESTAURANT 西洋料理店 WILDCAT HOUSE 山猫軒
(というふだがでていました。)
という札がでていました。
(「きみ、ちょうどいい。ここはこれでなかなかひらけてるんだ。はいろうじゃないか」)
「君、ちょうどいい。ここはこれでなかなか開けてるんだ。入ろうじゃないか」
(「おや、こんなとこにおかしいね。しかしとにかくなにかしょくじができるんだろう」)
「おや、こんなとこにおかしいね。しかしとにかく何か食事ができるんだろう」
(「もちろんできるさ。かんばんにそうかいてあるじゃないか」)
「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」
(「はいろうじゃないか。ぼくはもうなにかたべたくてたおれそうなんだ。」)
「入ろうじゃないか。ぼくはもう何か食べたくて倒れそうなんだ。」
(ふたりはげんかんにたちました。)
二人は玄関に立ちました。
(げんかんはしろいせとのれんがでくんで、じつにりっぱなもんです。)
玄関は白い瀬戸の煉瓦(れんが)で組んで、実に立派なもんです。
(そしてがらすのひらきどがたって、そこにきんもじでこうかいてありました。)
そして硝子の開き戸がたって、そこに金文字でこう書いてありました。
(「どなたもどうかおはいりください。けっしてごえんりょはありません」)
「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」