【洒落怖】虫の養殖

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洒落怖-015
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1 ado様神 5104 B+ 5.6 91.4% 653.4 3677 342 84 2024/02/25

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問題文

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(「しんじてくださいけいじさん。ころすつもりなんてけっしてなかったんです」)

「信じてください刑事さん。殺すつもりなんて決してなかったんです」

(きせしんやがたいほされて10じかんご、)

木瀬伸也が逮捕されて10時間後、

(ようやくおちつきをとりもどしたかれがはっしただいいっせいがこれだった。)

ようやく落ち着きを取り戻した彼が発した第一声がこれだった。

(きせのはなしは、まずかれがここさいきん、)

木瀬の話は、まず彼がここ最近、

(いかにけいざいてきにめぐまれなかったかからはじまった。)

いかに経済的に恵まれなかったかから始まった。

(すうかげつぶんのやちんをたいのうしているあぱーとのいっしつで、)

数カ月分の家賃を滞納しているアパートの一室で、

(きせはにもつをうけとった。)

木瀬は荷物を受け取った。

(「だれにでもできるかんたんかつこうしゅうにゅうのさいどびじねす」)

『誰にでもできる簡単かつ高収入のサイドビジネス』

(らーめんやでてにとったしゅうかんしのこうこくらんで、かれはこのしごとをしった。)

ラーメン屋で手にとった週刊誌の広告欄で、彼はこの仕事を知った。

(「あぱーとのいっしつで、てがるに。なんとたったの3しゅうかんでげんきんが」)

『アパートの一室で、手軽に。なんとたったの3週間で現金が』

(こうこくこぴーのこのいちぎょうでかれはけっしんした。)

広告コピーのこの一行で彼は決心した。

(なんとかかきあつめていたやちん2かげつぶんを)

なんとかかき集めていた家賃2ヶ月分を

(こうこくぬしにおくり、そのにもつをうけとったのだ。)

広告主に送り、その荷物を受け取ったのだ。

(にもつにはかんたんなまにゅあるがそえられていた。)

荷物には簡単なマニュアルが添えられていた。

(「ちょくしゃにっこうにあてないようにきをつけ、)

『直射日光に当てないように気をつけ、

(じゅうぶんなしめりけとしていのえさをあたえてください。)

充分な湿り気と指定のエサを与えてください。

(たまごからふかご、やく2しゅうかんでせいちゅうとなります。」)

卵から孵化後、約2週間で成虫となります。』

(つりえとなるいそめ、ごかいるいのようしょく。)

釣り餌となるイソメ、ゴカイ類の養殖。

(それがきせのえらんださいどびじねす、)

それが木瀬の選んだサイドビジネス、

(いや、しつぎょうちゅうのかれにとってはほんしょくとなるしごとだった。)

いや、失業中の彼にとっては本職となる仕事だった。

など

(なによりも3しゅうかんであるていどのげんきんがはいってくるのがうれしい。)

なによりも3週間である程度の現金が入ってくるのがうれしい。

(きせのけいさんでは、3かげつもつづければとどこおっていた)

木瀬の計算では、3ヶ月も続ければ滞っていた

(やちんのせいさん、しゃっきんのへんさいがかのうなはずだった。)

家賃の清算、借金の返済が可能なはずだった。

(きせはふとんぶくろをとりだした。ぎょうしゃすいせんのすいそうにまでまわすかねがなく、)

木瀬は布団袋を取り出した。業者推薦の水槽にまで回す金がなく、

(このなかでむしをようしょくするつもりだった。)

この中で虫を養殖するつもりだった。

(このふとんぶくろはみずをとおさないが)

この布団袋は水をとおさないが

(くうきはとおすせんいでつくられており、においもしゃだんできる。)

空気はとおす繊維で作られており、臭いも遮断できる。

(くにくのさくではあったが、それなりにやくにたちそうだった。)

苦肉の策ではあったが、それなりに役に立ちそうだった。

(にもつのなかにはいっていたしめった「ふようど」「ふようどじょうのえさ」)

荷物の中に入っていた湿った「腐葉土」「腐葉土状のエサ」

(そしてびにーるふくろいっぱいの「たまご」をふとんぶくろのなかでかきまわした。)

そしてビニール袋いっぱいの「卵」を布団袋の中でかきまわした。

(ごそごそと、ふとんぶくろのなかでうごめくおとがした。)

ごそごそと、布団袋の中で蠢く音がした。

(ふかしたむしたちはじゅんちょうにそだってきていた。)

孵化した虫たちは順調に育ってきていた。

(もう2しゅうかんすれば、まるまるとふとったせいちゅうをしていのふくろにつめ、)

もう2週間すれば、丸々と太った成虫を指定の袋につめ、

(ぎょうしゃにおくりかえすだけできんがはいってくる。)

業者に送り返すだけで金が入ってくる。

(きせにはふとんぶくろからのおとがふくのかみがふるうちでのこづちのおとにきこえたという。)

木瀬には布団袋からの音が福の神が振る打ち出の小槌の音に聞こえたという。

(あと1しゅうかんではっそうできるとなったころ、もんだいがおきた。)

あと1週間で発送できるとなった頃、問題が起きた。

(えさがつきたのである。)

エサが尽きたのである。

(ぎょうしゃにはっちゅうすればよいのだが、そのかねがない。)

業者に発注すればよいのだが、その金がない。

(じぶんのしょくじさえまんぞくにとれないようになっていたのだ。)

自分の食事さえ満足に取れないようになっていたのだ。

(うるものもない。)

売る物もない。

(まにゅあるには)

マニュアルには

(「ともぐいをはじめるのでえさはぜったいにきらさないように」とある。)

「共食いを始めるのでエサは絶対に切らさないように」とある。

(じぶんのたべのこしなどをあたえたがりょうがぜったいてきにたりない。)

自分の食べ残しなどを与えたが量が絶対的に足りない。

(しゅっかまでの1しゅうかん、じぶんはぜっしょくしてもむしにえさをあたえなければならなかった。)

出荷までの1週間、自分は絶食しても虫にエサを与えなければならなかった。

(ちかくにすむおおやのさがわがきせのあぱーとをおとずれたのは、)

近くに住む大家の佐川が木瀬のアパートを訪れたのは、

(きせがぜっしょくして5にちめのことだった。)

木瀬が絶食して5日目のことだった。

(やちんのさいそくにきたさがわをみても、きせのひょうじょうはかわらなかった。)

家賃の催促にきた佐川を見ても、木瀬の表情は変わらなかった。

(そもそもひょうじょうがなかった。)

そもそも表情がなかった。

(めはひかりをうしなっておりかおいろもさえない。)

目は光を失っており顔色もさえない。

(ぜっしょくちゅうだったためだがさがわはかんちがいをした。)

絶食中だったためだが佐川は勘違いをした。

((このとき、あぱーとのりんじんはさがわがきせに)

(この時、アパートの隣人は佐川が木瀬に

(「あんた、へんなくすりでもやっているんでしょう」ときつもんするこえをきいている))

「あんた、変な薬でもやっているんでしょう」と詰問する声を聞いている)

(さがわのかぞくから、かのじょにたいするそうさくねがいがていしゅつされたのは、)

佐川の家族から、彼女に対する捜索願いが提出されたのは、

(そのばんのことだった。)

その晩のことだった。

(「しんじてくださいけいじさん、)

「信じてください刑事さん、

(ころすつもりなんてけっしてなかったんです・・・。)

殺すつもりなんて決してなかったんです・・・。

(ただ、おおやさんがへんなこといいだして、)

ただ、大家さんが変なこと言いだして、

(ずかずかへやにあがりこんできたんです。)

ずかずか部屋に上がり込んできたんです。

(むしのだすおとをきいて、これはなに?)

虫の出す音を聞いて、これはなに?

(これをあけなさいってふとんぶくろを・・・・・・。)

これを開けなさいって布団袋を・・・・・・。

(おれ、まずいとおもって。)

おれ、まずいと思って。

(あぱーとでむしをようしょくしてるなんてしられたら)

アパートで虫を養殖してるなんて知られたら

(ぜったいにおいだされるとおもって・・・・・・。)

絶対に追い出されると思って・・・・・・。

(それでかんべんしてくださいってなんどもたのんだのに・・・・・・」)

それで勘弁してくださいって何度も頼んだのに・・・・・・」

(「そしたらおおやさんがむりやりふとんぶくろのじっぱーをあけて)

「そしたら大家さんが無理やり布団袋のジッパーを開けて

(なかをみてひめいをあげたんです。)

中を見て悲鳴を上げたんです。

(おれ、まずいとおもって、)

おれ、まずいと思って、

(めしくってなくてあたまもぼーっとしてて、)

メシ食ってなくて頭もボーッとしてて、

(とにかくわめくのをやめさせなきゃってことしか)

とにかくわめくのをやめさせなきゃってことしか

(かんがえられなくて、うしろからおおやさんの)

考えられなくて、後ろから大家さんの

(くちとはなをおさえて・・・・・・。)

口と鼻を押さえて・・・・・・。

(それで、しずかになったおおやさんを)

それで、静かになった大家さんを

(ふとんぶくろにいれて、そしてじっぱーをまたしめて・・・・・・。)

布団袋に入れて、そしてジッパーをまた閉めて・・・・・・。

(そしたらなかのあいつらが)

そしたら中のあいつらが

(ぐねぐねってうねってじゅるじゅるっておとがして・・・・・・。)

ぐねぐねってうねってじゅるじゅるって音がして・・・・・・。

(おれもうなにがなんだかわかんなくて・・・・・・)

おれもう何がなんだかわかんなくて・・・・・・

(ひとばんじゅうぐちゃぐちゃっておとをきいてたら)

一晩中ぐちゃぐちゃって音を聞いてたら

(おかしくなりそうで・・・・・・)

おかしくなりそうで・・・・・・

(しんじてください、けいじさん。)

信じてください、刑事さん。

(ころすつもりはなかったんです!」)

殺すつもりはなかったんです!」

(りんじんのしょうげんからそうされいじょうがはっこうされ、)

隣人の証言から捜査令状が発効され、

(きせのへやにそうさいんがおもむいたのはさがわがしっそうしてからみっかごだった。)

木瀬の部屋に捜査員が赴いたのは佐川が失踪してから3日後だった。

(ねぶくろのじっぱーをあけたそうさいん、たなかじゅんいちじゅんさぶちょうは)

寝袋のジッパーを開けた捜査員、田中純一巡査部長は

(それいらいすぱげってぃーをたべることができなくなった。)

それ以来スパゲッティーを食べることができなくなった。

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