ボヘミアの醜聞 1

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投稿者投稿者大樹野いいね1お気に入り登録
プレイ回数5654難易度(5.0) 4586打 長文
【シャーロック・ホームズの冒険】より
長文なので、読書感覚でお楽しみください
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1 daifuku 3695 D+ 3.9 93.9% 1162.7 4594 297 76 2024/10/21

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問題文

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(しゃーろっくほーむずにとって、かのじょはいつも「あのおんな」である。)

シャーロックホームズにとって、彼女はいつも「あの女」である。

(べつのよびかたをするのは、これまでほとんどきいたことがない。)

別の呼び方をするのは、これまでほとんど聞いたことがない。

(かのじょは、ほーむずが「おんな」にぶんるいしたじょうほうのてまえにいすわっているので)

彼女は、ホームズが「女」に分類した情報の手前に居座っているので

(「おんな」といえばそれはかのじょのことなのだ。)

「女」と言えばそれは彼女のことなのだ。

(しかし、かれはあいりーん・あどらーにあいのようなげきじょうは)

しかし、彼はアイリーン・アドラーに愛のような激情は

(いっさいかんじていなかった。すべてのげきじょう、とくにあいは、れいせいちんちゃくで、)

いっさい感じていなかった。すべての激情、とくに愛は、冷静沈着で、

(すばらしくばらんすのとれたせいちなせいしんにはおきばしょがない。)

すばらしくバランスのとれた精緻な精神には置き場所がない。

(わたしのしるかぎり、かれはこれまでみたこともない、かんぺきなしこうりょくと)

私の知る限り、彼はこれまで見たこともない、完璧な思考力と

(かんさつりょくをかねそなえたさいこうのきかいだ。しかしひとがひとをあいするという)

観察力をかねそなえた最高の機械だ。しかし人が人を愛するという

(かんてんからみると、かれはまちがったばしょにたっていたことになるかもしれない。)

観点から見ると、彼は間違った場所に立っていたことになるかもしれない。

(かれがあいをかたるときは、きまってちょうしょうてきなひはんがくだされる。)

彼が愛を語るときは、決まって嘲笑的な批判が下される。

(かんさつきであるかれにとって、こころをゆりうごかすはげしいかんじょうは、)

観察機である彼にとって、心を揺り動かす激しい感情は、

(かくされたどうきやこうどうをぶんせきするための、またとないかんさつたいしょうだった。)

隠された動機や行動を分析するための、またとない観察対象だった。

(しかし、りづめにつくられているかれじしんのこころにそのようなものが)

しかし、理詰めに作られている彼自身の心にそのようなものが

(まぎれこむことをゆるせば、かんぜんちょうせいずみのせいこうなせいしんに、こんらんのげんいんを)

まぎれこむことを許せば、完全調整済みの精巧な精神に、混乱の原因を

(まねきいれ、すいりでえたけつろんのしんらいせいがすべてそこなわれるきけんがある。)

招きいれ、推理で得た結論の信頼性がすべて損なわれる危険がある。

(かれのようなせいかくのにんげんに、あいというしょうどうがこんにゅうすれば、)

彼のような性格の人間に、愛という衝動が混入すれば、

(せんさいなじっけんきぐにはいったちりや、こうばいりつれんずのひびわれなどとは)

繊細な実験器具に入ったチリや、高倍率レンズのひび割れなどとは

(ひかくにならないほど、かいめつてきなけっかになるはずだ。)

比較にならないほど、壊滅的な結果になるはずだ。

(それにもかかわらず、ひとりのおんなが、かんさつきのなかにいた。)

それにもかかわらず、ひとりの女が、観察機の中にいた。

など

(それが、ほまれたかき、なぞおおき、こあいりーん・あどらーだったのだ。)

それが、誉れ高き、謎多き、故アイリーン・アドラーだったのだ。

(わたしはこのころほーむずとほとんどあっていなかった。わたしがけっこんしたあと、)

私はこの頃ホームズとほとんど会っていなかった。私が結婚した後、

(かんけいはそえんになっていた。わたしはうちょうてんだったし、はじめてかちょうとなったおとこには)

関係は疎遠になっていた。私は有頂天だったし、初めて家長となった男には

(きりもりすべきかじがたたあって、ほかのことをかんがえるよゆうはなかった。)

切り盛りすべき家事が多々あって、他の事を考える余裕はなかった。

(いっぽうほーむずは、あらゆるしゃこうけいたいをひじょうにきらい、なにものにもしばられない)

一方ホームズは、あらゆる社交形態を非常に嫌い、何物にも縛られない

(ほんぽうなせいしんのまま、しゅうしゅうしたこしょにうもれてべーかーがいの)

奔放な精神のまま、収集した古書に埋もれてベーカー街の

(へやにこもっていた。そしてかれのせいしんははげしくじょうげしていた。)

部屋にこもっていた。そして彼の精神は激しく上下していた。

(こかいんとおおいなるやぼう、やくぶつのけだるさとうまれもったはげしいかつりょく、)

コカインと大いなる野望、薬物のけだるさと生まれ持った激しい活力、

(このふたつがまいしゅうのようにいれかわった。かれはまだむかしのように、)

この二つが毎週のように入れ替わった。彼はまだ昔のように、

(はんざいのけんきゅうにつよくひきつけられていた。)

犯罪の研究に強く引き付けられていた。

(そしてそのとほうもないのうりょくとすさまじいかんさつりょくをはんざいそうさにりようして、)

そしてその途方もない能力とすさまじい観察力を犯罪捜査に利用して、

(けいさつがおてあげになったじけんをかいけつするのにいそがしかった。)

警察がお手上げになった事件を解決するのに忙しかった。

(おりにふれ、かれのかつやくをばくぜんとつたえるはなしをみみにした。)

折に触れ、彼の活躍を漠然と伝える話を耳にした。

(とれぽふさつじんじけんでおでっさにしょうへいされたこと、とりんこまりーの)

トレポフ殺人事件でオデッサに招聘されたこと、トリンコマリーの

(あときんそんきょうだいのきみょうなひげきをかいけつしたこと、さいごに、)

アトキンソン兄弟の奇妙な悲劇を解決したこと、最後に、

(かれがおらんだのおうけにたいしてせんさいかつせいこうりににんむをはたしたことなどだ。)

彼がオランダの王家に対して繊細かつ成功裏に任務を果たしたことなどだ。

(しかしこれはしんぶんのどくしゃならだれもがしっているじょうほうで、)

しかしこれは新聞の読者なら誰もが知っている情報で、

(わたしはかつてのゆうじんであり、なかまであるかれのきんきょうをあまりよくしらなかった。)

私はかつての友人であり、仲間である彼の近況をあまりよく知らなかった。

(1888ねん3がつ20にちのよる、わたしはおうしんからもどるみちすがらべーかーがいを)

1888年3月20日の夜、私は往診から戻る道すがらベーカー街を

(とおりぬけようとした。(わたしはまちのかいぎょういにふっきしていた))

通り抜けようとした。(私は町の開業医に復帰していた)

(みなれたとびらをすぎようとしたが、それをめにすればいやでもじぶんのきゅうこんと)

見慣れた扉を過ぎようとしたが、それを目にすれば嫌でも自分の求婚と

(「ひいろのけんきゅう」のくらいじけんをおもいださずにはいられなかった。)

「緋色の研究」の暗い事件を思い出さずにはいられなかった。

(むしょうにほーむずともういちどあいたいというおもいがこみあげてきて、)

無性にホームズともう一度会いたいという思いがこみ上げてきて、

(かれがあのすばらしいのうりょくをどうはっきしているかがしりたくなった。)

彼があの素晴らしい能力をどう発揮しているかが知りたくなった。

(へやはこうこうとてらされ、みあげると、せがたかくやせたくろいかげが)

部屋はこうこうと照らされ、見上げると、背が高く痩せた黒い影が

(ぶらいんどにうつっていったりきたりするのがみえた。)

ブラインドに映って行ったり来たりするのが見えた。

(かれはあごをむねにうずめてをうしろにくんで、せかせかといきおいよくへやを)

彼はあごを胸にうずめ手を後ろに組んで、せかせかと勢いよく部屋を

(あるきまわっていたのだ。かれのたいどとしゅうかんをじゅくちしているわたしには、)

歩き回っていたのだ。彼の態度と習慣を熟知している私には、

(そのしせいとどうさがあたかもかたりかけてくるようにおもえた。)

その姿勢と動作があたかも語りかけてくるように思えた。

(きっとまたしごとをしているのだ。かれはやくぶつでうまれたゆめからめざめ、)

きっとまた仕事をしているのだ。彼は薬物で生まれた夢から目覚め、

(なにかあたらしいじけんのてがかりをむちゅうでおっている。)

何か新しい事件の手がかりを夢中で追っている。

(わたしはべるをならし、かつてきょうどうせいかつをおくっていたへやにあがった。)

私はベルを鳴らし、かつて共同生活を送っていた部屋に上がった。

(ほーむずは、はっきりうれしいというたいどではなかった。)

ホームズは、はっきり嬉しいという態度ではなかった。

(そんなことは、かこにもほとんどなかったのだが、それでもかれはわたしと)

そんなことは、過去にもほとんどなかったのだが、それでも彼は私と

(あえたことをよろこんでいたとおもう。ほとんどことばはかわさなかったが、)

会えたことを喜んでいたと思う。ほとんど言葉は交わさなかったが、

(やさしいめつきでひじかけいすにわたしをてまねきし、じぶんのたばこいれを)

優しい目つきで肘掛け椅子に私を手招きし、自分のタバコ入れを

(なげてよこし、かどにあるさけだなとたんさんすいようきをゆびさした。それからかれは)

投げてよこし、角にある酒棚と炭酸水容器を指差した。それから彼は

(だんろのまえにたち、かれどくとくのかんがえこむようなふんいきでわたしをみまわした。)

暖炉の前に立ち、彼独特の考え込むような雰囲気で私を見回した。

(「けっこんせいかつはじゅんちょうなようだな」かれはいった。)

「結婚生活は順調なようだな」彼は言った。

(「わとそん、ぼくのみたてでは、きみはまえにあってから7.5ぽんどふとったな」)

「ワトソン、僕の見立てでは、君は前に会ってから7.5ポンド太ったな」

(「7ぽんどだ!」わたしはこたえた。「なるほど、もうすこしおおめかと)

「7ポンドだ!」私は答えた。「なるほど、もう少し多めかと

(おもったのだがな。びみょうにおおめだとおもうがね、わとそん。みたところ、また)

思ったのだがな。微妙に多めだと思うがね、ワトソン。見たところ、また

(かいぎょうしているようだが、いしゃのしごとにもどるつもりだとはきいてなかったな」)

開業しているようだが、医者の仕事に戻るつもりだとは聞いてなかったな」

(「いったい、どうしてわかったのだ?」)

「いったい、どうして分かったのだ?」

(「みて、すいりした。いったいどうやってぼくがしったとおもう?)

「見て、推理した。いったいどうやって僕が知ったと思う?

(きみがさいきんずぶぬれになるようなめにあい、いえにはこのうえなくぶきようで)

君が最近ずぶぬれになるような目に会い、家にはこの上なく不器用で

(ふちゅういなおんなしようにんがいることをね」)

不注意な女使用人がいることをね」

(「ほーむず」わたしはいった。「もうじゅうぶんだ。きみはもしなんびゃくねんかまえに)

「ホームズ」私は言った。「もう十分だ。君はもし何百年か前に

(うまれていたら、かくじつにひあぶりになっていただろう。)

生まれていたら、確実に火あぶりになっていただろう。

(ぼくがもくようびにいなかみちをあるいていて、おそろしくぬれてどろどろになって)

僕が木曜日に田舎道を歩いていて、恐ろしく濡れてドロドロになって

(かえったのはじじつだ。しかしふくはすでにきがえているし、)

帰ったのは事実だ。しかし服はすでに着替えているし、

(どうやってきみにそれがすいりできたのか、そうぞうもつかない。)

どうやって君にそれが推理できたのか、想像もつかない。

(めりー・じぇーんについては、あのおんなはてにおえない。)

メリー・ジェーンについては、あの女は手に負えない。

(つまはもうくびにするといいわたしているが、しかし、)

妻はもうクビにすると言い渡しているが、しかし、

(これもきみがどうやってすいりできたかわからない」)

これも君がどうやって推理できたか分からない」

(かれはくくっとひとりわらいをしてほそいてをすりあわせた。)

彼はククッと一人笑いをして細い手を擦り合わせた。

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