怪人二十面相_5

関連タイピング
問題文
(みんなとあくしゅをかわすと、そういちくんは、おとうさま、おかあさまに)
みんなと握手をかわすと、壮一君は、おとうさま、おかあさまに
(はさまれて、じどうしゃにのりました。そうじくんは、おねえさまや)
はさまれて、自動車にのりました。壮二君は、おねえさまや
(こんどうろうじんといっしょに、あとのじどうしゃでしたが、くるまがはしるあいだも、)
近藤老人といっしょに、あとの自動車でしたが、車が走るあいだも、
(うしろのまどからすいてみえるおにいさまのすがたを、じっとみつめていますと、)
うしろの窓からすいて見えるおにいさまの姿を、ジッと見つめていますと、
(なんだか、うれしさがこみあげてくるようでした。)
なんだか、うれしさがこみあげてくるようでした。
(きたくして、いちどうが、そういちくんをとりかこんで、なにかとはなしているうちに、)
帰宅して、一同が、壮一君をとりかこんで、何かと話しているうちに、
(もうゆうがたでした。しょくどうには、おかあさまのこころづくしのばんさんが)
もう夕方でした。食堂には、おかあさまの心づくしの晩さんが
(よういされました。)
用意されました。
(あたらしいてーぶるくろすでおおった、おおきなしょくたくのうえには、うつくしい)
新しいテーブル・クロスでおおった、大きな食卓の上には、美しい
(あきのもりばながかざられ、めいめいのせきには、ぎんのないふやふぉーくが、)
秋の盛り花がかざられ、めいめいの席には、銀のナイフやフォークが、
(きらきらとひかっていました。きょうは、いつもとちがって、)
キラキラと光っていました。きょうは、いつもとちがって、
(ちゃんとせいしきにおりたたんだなぷきんがでていました。)
チャンと正式に折りたたんだナプキンが出ていました。
(しょくじちゅうは、むろんそういちくんがだんわのちゅうしんでした。めずらしいなんようの)
食事中は、むろん壮一君が談話の中心でした。めずらしい南洋の
(はなしがつぎからつぎとかたられました。そのあいだには、いえでいぜんの、)
話がつぎからつぎと語られました。そのあいだには、家出以前の、
(しょうねんじだいのおもいでばなしも、さかんにとびだしました。)
少年時代の思い出話も、さかんにとびだしました。
(「そうじくん、きみはそのじぶん、まだあんよができるようになったばかりでね、)
「壮二君、きみはその時分、まだあんよができるようになったばかりでね、
(ぼくのべんきょうべやへしんにゅうして、つくえのうえをひっかきまわしたりしたものだよ。)
ぼくの勉強部屋へ侵入して、机の上をひっかきまわしたりしたものだよ。
(いつかはいんきつぼをひっくりかえして、そのてでかおをなすったもんだから、)
いつかはインキつぼをひっくりかえして、その手で顔をなすったもんだから、
(まっくろになってね、おおさわぎをしたことがあるよ。)
まっくろになってね、大さわぎをしたことがあるよ。
(ねえ、おかあさま。」)
ねえ、おかあさま。」
(おかあさまは、そんなことがあったかしらと、)
おかあさまは、そんなことがあったかしらと、
(よくおもいだせませんでしたけれど、ただうれしさに、めになみだをうかべて、)
よく思いだせませんでしたけれど、ただうれしさに、目に涙をうかべて、
(にこにことうなずいていらっしゃいました。)
にこにことうなずいていらっしゃいました。
(ところがです、どくしゃしょくん、こうしたいっかのよろこびは、)
ところがです、読者諸君、こうした一家の喜びは、
(あるおそろしいできごとのために、じつにとつぜん、まるでばいおりんの)
あるおそろしいできごとのために、じつにとつぜん、まるでバイオリンの
(いとがきれでもしたように、ぷっつりとたちきられてしまいました。)
糸が切れでもしたように、プッツリとたちきられてしまいました。
(なんというこころなしのあくまでしょう。おやこきょうだいじゅうねんぶりのさいかい、)
なんという心なしの悪魔でしょう。親子兄弟十年ぶりの再会、
(いっしょうにいちどというめでたいせきじょうへ、そのしあわせをのろうかのように、)
一生に一度というめでたい席上へ、そのしあわせをのろうかのように、
(あいつのぶきみなすがたが、もうろうとたちあらわれたのでありました。)
あいつのぶきみな姿が、もうろうと立ちあらわれたのでありました。
(おもいでのはなしのさいちゅうへ、ひしょがいっつうのでんぽうをもってはいってきました。)
思い出話のさいちゅうへ、秘書が一通の電報を持ってはいってきました。
(いくらはなしにむちゅうになっていても、でんぽうとあっては、)
いくら話にむちゅうになっていても、電報とあっては、
(ひらいてみないわけにはいきません。)
ひらいて見ないわけにはいきません。
(そうたろうしは、すこしかおをしかめて、そのでんぽうをよみましたが、すると、)
壮太朗氏は、少し顔をしかめて、その電報を読みましたが、すると、
(どうしたことか、にわかにむっつりとだまりこんでしまったのです。)
どうしたことか、にわかにムッツリとだまりこんでしまったのです。
(「おとうさま、なにかごしんぱいなことでも。」)
「おとうさま、何かご心配なことでも。」
(そういちくんが、めばやくそれをみつけてたずねました。)
壮一君が、目ばやくそれを見つけてたずねました。
(「うん、こまったものがとびこんできた。おまえたちにしんぱいさせたくないが、)
「ウン、こまったものがとびこんできた。おまえたちに心配させたくないが、
(こういうものがくるようでは、こんやは、よほどようじんしないといけない。」)
こういうものが来るようでは、今夜は、よほど用心しないといけない。」
(そういって、おみせになったでんぽうには、)
そういって、お見せになった電報には、
(「こんやしょうじゅうにじおやくそくのものうけとりにいく にじゅう」)
「コンヤショウ一二ジ オヤクソクノモノ ウケトリニイク 二〇」
(とありました。にじゅうというのは、「にじゅうめんそう」のりゃくごにちがいありません。)
とありました。二〇というのは、「二十面相」の略語にちがいありません。
(「しょうじゅうにじ」は、しょうじゅうにじで、ごぜんれいじかっきりに、)
「ショウ一二ジ」は、正十二時で、午前零時かっきりに、
(ぬすみだすぞという、かくしんにみちたぶんしょうです。)
ぬすみだすぞという、確信にみちた文章です。
(「このにじゅうというのは、もしや、にじゅうめんそうのぞくのことではありませんか。」)
「この二〇というのは、もしや、二十面相の賊のことではありませんか。」
(そういちくんがはっとしたように、おとうさまをみつめていいました。)
壮一君がハッとしたように、おとうさまを見つめていいました。
(「そうだよ。おまえよくしっているね」)
「そうだよ。おまえよく知っているね」
(「しものせきじょうりくいらい、たびたびそのうわさをききました。とうとう、)
「下関上陸以来、たびたびそのうわさを聞きました。とうとう、
(うちをねらったのですね。しかし、あいつはなにをほしがっているのです。」)
うちをねらったのですね。しかし、あいつは何をほしがっているのです。」