桜の樹の下には3(完) 梶井基次郎
「桜の樹の下には死体が埋まっている」
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問題文
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(おれはそれをみたとき、むねがつかれるようなきがした。はかばをあばいてしたいをこのむ)
俺はそれを見た時、胸が衝かれるような気がした。墓場を発いて屍体を嗜む
(へんしつしゃのようなざんにんなよろこびをおれはあじわった。
このけいこくではなにもおれを)
変質者のような残忍なよろこびを俺は味わった。
この渓谷ではなにも俺を
(よろこばすものはない。うぐいすやしじゅうからも、しろいにっこうをさあおにけむらせている)
よろこばすものはない。鶯や四十雀も、白い日光をさ青に煙らせている
(きのわかめも、ただそれだけでは、もうろうとしたしんしょうにすぎない。)
木の若芽も、ただそれだけでは、もうろうとした心象に過ぎない。
(おれにはさんげきがひつようなんだ。そのへいこうがあって、はじめておれのしんしょうはめいかくになって)
俺には惨劇が必要なんだ。その平衡があって、はじめて俺の心象は明確になって
(くる。おれのこころはあっきのようにゆううつにかわいている。おれのこころにゆううつがかんせいするときに)
来る。俺の心は悪鬼のように憂鬱に渇いている。俺の心に憂鬱が完成するときに
(ばかり、おれのこころはなごんでくる。
ーーおまえはわきのしたをふいているね。)
ばかり、俺の心は和んでくる。
――おまえは腋の下を拭いているね。
(ひやあせがでるのか。それはおれもおなじことだ。なにもそれをふゆかいがることはない。)
冷や汗が出るのか。それは俺も同じことだ。何もそれを不愉快がることはない。
(べたべたとまるでせいえきのようだとおもってごらん。それでおれたちのゆううつは)
べたべたとまるでせいえきのようだと思ってごらん。それで俺達の憂鬱は
(かんせいするのだ。
ああ、さくらのきのしたにはしたいがうまっている!)
完成するのだ。
ああ、桜の樹の下には屍体が埋まっている!
(いったいどこからうかんできたくうそうかさっぱりけんとうのつかないしたいが、)
いったいどこから浮かんで来た空想かさっぱり見当のつかない屍体が、
(いまはまるでさくらのきとひとつになって、どんなにあたまをふっても)
いまはまるで桜の樹と一つになって、どんなに頭を振っても
(はなれてゆこうとはしない。
いまこそおれは、あのさくらのきのしたでしゅえんをひらいている)
離れてゆこうとはしない。
今こそ俺は、あの桜の樹の下で酒宴をひらいている
(むらびとたちとおなじけんりで、はなみのさけがのめそうなきがする。)
村人たちと同じ権利で、花見の酒が呑めそうな気がする。