白痴 15
坂口安吾の小説。
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問題文
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(このせんそうはいったいどうなるのであろう。)
この戦争はいったいどうなるのであろう。
(にほんはまけべいぐんはほんどにじょうりくして)
日本は負け米軍は本土に上陸して
(にほんじんのたいはんはしめつしてしまうのかもしれない。)
日本人の大半は死滅してしまうのかも知れない。
(それはもうひとつのちょうしぜんのうんめい、)
それはもう一つの超自然の運命、
(いわばてんめいのようにしかおもわれなかった。)
いわば天命のようにしか思われなかった。
(かれにはしかしもっとひしょうなもんだいがあった。)
彼には然しもっと卑小な問題があった。
(それはおどろくほどひしょうなもんだいで、)
それは驚くほど卑小な問題で、
(しかもめのさきにさしせまり、)
しかも眼の先に差迫り、
(つねにちらついてはなれなかった。)
常にちらついて放れなかった。
(それはかれがかいしゃからもらうにひゃくえんほどのきゅうりょうで、)
それは彼が会社から貰う二百円ほどの給料で、
(そのきゅうりょうをいつまでもらうことができるか、)
その給料をいつまで貰うことができるか、
(あしたにもくびになりろとうにまよいはしないかというふあんであった。)
明日にもクビになり路頭に迷いはしないかという不安であった。
(かれはげっきゅうをもらうとき、)
彼は月給を貰う時、
(どうじにくびのせんこくをうけはしないかとびくびくし、)
同時にクビの宣告を受けはしないかとビクビクし、
(げっきゅうぶくろをうけとるとひとつきのびたいのちのために)
月給袋を受取ると一月延びた命のために
(あきれるぐらいこうふくかんをあじわうのだが、)
呆れるぐらい幸福感を味うのだが、
(そのひしょうさをかえりみていつもなきたくなるのであった。)
その卑小さを顧みていつも泣きたくなるのであった。
(かれはげいじゅつをゆめみていた。)
彼は芸術を夢みていた。
(そのげいじゅつのまえではただひとつぶのじんあいでしかないような)
その芸術の前ではただ一粒の塵埃(じんあい)でしかないような
(にひゃくえんのきゅうりょうがどうしてほねみにからみつき、)
二百円の給料がどうして骨身にからみつき、
など
(せいぞんのこんていをゆさぶるようなおおきなくもんになるのであろうか。)
生存の根底をゆさぶるような大きな苦悶になるのであろうか。
(せいかつのがいけいのみのことではなく)
生活の外形のみのことではなく
(そのせいしんもたましいもにひゃくえんにげんていされ、)
その精神も魂も二百円に限定され、
(そのひしょうさをぎょうししてきもちがわずに)
その卑小さを凝視して気も違わずに
(へいぜんとしていることがなおさらなさけなくなるばかりであった。)
平然としていることが尚更なさけなくなるばかりであった。