紫式部 源氏物語 松風 6 與謝野晶子訳
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問題文
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(げんじはみどうへいってまいつきじゅうし、ごにちとみそかにおこなうふげんこう、あみだ、)
源氏は御堂へ行って毎月十四、五日と三十日に行なう普賢講、阿弥陀、
(しゃかのねんぶつのさんまいのほかにもひをきめてするほうえのことをそうたちに)
釈迦の念仏の三昧のほかにも日を決めてする法会のことを僧たちに
(めいじたりした。どうのそうしょくやぶつぐのせいさくなどのこともみどうのひとびとへ)
命じたりした。堂の装飾や仏具の製作などのことも御堂の人々へ
(さしずしてから、げつめいのみちをかわぞいのさんそうへかえってきた。)
指図してから、月明の路を川沿いの山荘へ帰って来た。
(あかしのべつりのよるのことがげんじのむねによみがえってかんしょうてきなきぶんに)
明石の別離の夜のことが源氏の胸によみがえって感傷的な気分に
(なっているときにおんなはそのよるのかたみのきんをさしだした。ひきたい)
なっている時に女はその夜の形見の琴を差し出した。弾きたい
(よっきゅうもあってげんじはきんをひきはじめた。まだいとのねがかわっていなかった。)
欲求もあって源氏は琴を弾き始めた。まだ絃の音が変わっていなかった。
(そのよるがいまであるようにもおもわれる。
)
その夜が今であるようにも思われる。
(ちぎりしにかわらぬことのしらべにてたえぬこころのほどはしりきや
)
契りしに変はらぬ琴のしらべにて絶えぬ心のほどは知りきや
(というと、おんなが、
)
と言うと、女が、
(かわらじとちぎりしことをたのみにてまつのひびきにねをそえしかな
)
変はらじと契りしことを頼みにて松の響に音を添へしかな
(という。こんなことがふつりあいにみえないのはおんなからいえば)
と言う。こんなことが不つりあいに見えないのは女からいえば
(かぶんなことであった。あかしじだいよりもおんなのびにこうさいがくわわっていた。)
過分なことであった。明石時代よりも女の美に光彩が加わっていた。
(げんじはえいきゅうにはなれがたいひとになったとあかしをおもっている。ひめぎみのかおからも)
源氏は永久に離れがたい人になったと明石を思っている。姫君の顔からも
(まためははなせなかった。ひかげのことしてせいちょうしていくのが、)
また目は離せなかった。日蔭の子として成長していくのが、
(たえられないほどげんじはかわいそうで、これをにじょうのいんへひきとって)
堪えられないほど源氏はかわいそうで、これを二条の院へ引き取って
(できるかぎりにかしずいてやることにすれば、せいちょうごのかたみのせまさも)
できる限りにかしずいてやることにすれば、成長後の肩身の狭さも
(すくわれることになるであろうとげんじのこころにおもわれることであったが、)
救われることになるであろうと源氏の心に思われることであったが、
(またひきはなされるあかしのこころがあわれにおもわれてくちへそのことはでずに)
また引き放される明石の心が哀れに思われて口へそのことは出ずに
(ただなみだぐんでひめぎみのかおをみていた。こごころにはじめはすこし)
ただ涙ぐんで姫君の顔を見ていた。子心にはじめは少し
など
(はずかしがっていたが、いまはもうよくなれてきて、ものをいって、)
恥ずかしがっていたが、今はもうよく馴れてきて、ものを言って、
(わらったりもしてみせた。あまえてちかづいてくるかおがまたいっそううつくしくて)
笑ったりもしてみせた。甘えて近づいて来る顔がまたいっそう美しくて
(かわいいのである。げんじにだかれているひめぎみはすでに)
かわいいのである。源氏に抱かれている姫君はすでに
(るいのないこううんにめぐまれたひととみえた。)
類のない幸運に恵まれた人と見えた。