紫式部 源氏物語 松風 3 與謝野晶子訳

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(「わたくしはしゅっせすることなどをおもいきろうとしていたのだが、)

「私は出世することなどを思い切ろうとしていたのだが、

(いよいよそのきになってちほうかんになったのは、ただあなたにぶっしつてきにだけでも)

いよいよその気になって地方官になったのは、ただあなたに物質的にだけでも

(じゅうぶんつくしてやりたいということからだった。それからちほうかんのしごとも)

十分尽くしてやりたいということからだった。それから地方官の仕事も

(わたくしにてきしたものでないことをいろんなかたちでおしえられたから、これもやめて)

私に適したものでないことをいろんな形で教えられたから、これもやめて

(ちほうかんのらくごしゃのひとりで、きょうでけいべつされるにんげんにこのうえなってはおやのめいよを)

地方官の落伍者の一人で、京で軽蔑される人間にこの上なっては親の名誉を

(はずかしめることだとかなしくてしゅっけしたがね、きょうをでたのがよのなかを)

恥ずかしめることだと悲しくて出家したがね、京を出たのが世の中を

(すてるかどでだったと、せけんからもわたくしはおもわれていて、よくいさぎよくそれをじっこうしたと)

捨てる門出だったと、世間からも私は思われていて、よく潔くそれを実行したと

(わたくしじしんにもまんぞくかんはあったが、あなたがいちにんまえのおとめになってきたのをみると、)

私自身にも満足感はあったが、あなたが一人前の少女になってきたのを見ると、

(どうしてこんなしゅぎょくをでいどにおくようなざんこくなことをじぶんはしたのかとわたくしのこころは)

どうしてこんな珠玉を泥土に置くような残酷なことを自分はしたのかと私の心は

(またくらくなってきた。それからはほとけとかみをたのんで、このひとまでがわたくしのふうんに)

また暗くなってきた。それからは仏と神を頼んで、この人までが私の不運に

(ひかれていちちほうじんとなってしまうようなことがないようにとねがった。)

引かれて一地方人となってしまうようなことがないようにと願った。

(おもいがけずげんじのきみをむこにみるひがきたのであるが、われわれにはみぶんの)

思いがけず源氏の君を婿に見る日が来たのであるが、われわれには身分の

(ひけめがあって、よいことにもかなしみがつねにそっていた。)

ひけ目があって、よいことにも悲しみが常に添っていた。

(しかしひめぎみがおうまれになったことでわたくしもだいぶじしんができてきた。)

しかし姫君がお生まれになったことで私もだいぶ自信ができてきた。

(ひめぎみはこんなとちでおそだちになってはならないたかいしゅくめいをもつかたに)

姫君はこんな土地でお育ちになってはならない高い宿命を持つ方に

(ちがいないのだから、おわかれすることがどんなにかなしくてもわたくしはあきらめる。)

違いないのだから、お別れすることがどんなに悲しくても私はあきらめる。

(なにごとももうとくにあきらめたわたくしはそうじゃないか。ひめぎみはたかいたかい)

何事ももうとくにあきらめた私は僧じゃないか。姫君は高い高い

(しゅくめいのひとでいられるが、ざんじのあいだわたくしにそふとまごのあいをつくって)

宿命の人でいられるが、暫時の間私に祖父と孫の愛を作って

(みせてくださったのだ。てんにうまれるひともいちどはさんずのかわまでいくということに)

見せてくださったのだ。天に生まれる人も一度は三途の川まで行くということに

(あたることだとそれをおもってわたくしはこれでながいおわかれをする。)

あたることだとそれを思って私はこれで長いお別れをする。

など

(わたくしがしんだときいてもぶつじなどはしてくれるひつようはない。しにわかれたかなしみも)

私が死んだと聞いても仏事などはしてくれる必要はない。死に別れた悲しみも

(しないでおおきなさい」 とにゅうどうはだんげんしたのであるが、また、)

しないでおおきなさい」 と入道は断言したのであるが、また、

(「わたくしはけむりになるまえのゆうべまでひめぎみのことをろくじのごんぎょうにまぜていのることだろう。)

「私は煙になる前の夕べまで姫君のことを六時の勤行に混ぜて祈ることだろう。

(おんあいがすてられないで」 とかなしそうにいうのであった。)

恩愛が捨てられないで」 と悲しそうに言うのであった。

(くるまのかずのおおくなることもひとめをひくことであるし、にどにわけてたたせることも)

車の数の多くなることも人目を引くことであるし、二度に分けて立たせることも

(めんどうなことであるといって、むかえにきたひとたちもまたひじょうにめだつことを)

面倒なことであるといって、迎えに来た人たちもまた非常に目だつことを

(おそれるふうであったから、ふねをもちいてそっとあかしおやこはたつことになった。)

恐れるふうであったから、船を用いてそっと明石親子は立つことになった。

(ごぜんはちじにふねがでた。むかしのひともみにしむものにみたあかしのうらのあさぎりに)

午前八時に船が出た。昔の人も身にしむものに見た明石の浦の朝霧に

(ふねのへだたっていくのをみるにゅうどうのこころは、ぶつでしのちょうえつしたきょうちに)

船の隔たって行くのを見る入道の心は、仏弟子の超越した境地に

(ひきもどされそうもなかった。ただぼうぜんとしていた。)

引きもどされそうもなかった。ただ呆然としていた。

(ながいねんげつをへてみやこへかえろうとするあまぎみのこころもまたかなしかった。 )

長い年月を経て都へ帰ろうとする尼君の心もまた悲しかった。

(かのきしにこころよりにしあまぶねのそむきしかたにこぎかえるかな )

かの岸に心寄りにし海人船のそむきし方に漕ぎ帰るかな

(といってあまぎみはないていた。あかしは、 )

と言って尼君は泣いていた。明石は、

(いくかえりゆきかうあきをすごしつつうきぎにのりてわれかえるらん )

いくかへり行きかふ秋を過ごしつつ浮き木に乗りてわれ帰るらん

(といっていた。おいかぜであって、よていどおりにいっこうのひとはきょうへ)

と言っていた。追い風であって、予定どおりに一行の人は京へ

(はいることができた。くるまにうつってからひとめをひかぬようじんをしながら)

はいることができた。車に移ってから人目を引かぬ用心をしながら

(おおいのさんそうへいったのである。)

大井の山荘へ行ったのである。

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