【青空文庫】夢十夜 第三夜 1/2

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問題文
(こんなゆめをみた。)
こんな夢を見た。
(むっつになるこどもをおぶってる。)
六つになる子供を負ってる。
(たしかにじぶんのこである。)
たしかに自分の子である。
(ただふしぎなことにはいつのまにかめがつぶれて、)
ただ不思議な事にはいつの間にか目が潰れて、
(あおぼうずになっている。)
青坊主になっている。
(じぶんがおまえのめはいつつぶれたのかいときくと、)
自分が御前の眼はいつ潰れたのかいと聞くと、
(なにむかしからさとこたえた。)
なに昔からさと答えた。
(こえはこどものこえにそういないが、ことばつきはまるでおとなである。)
声は子供の声に相違ないが、言葉つきはまるで大人である。
(しかもたいとうだ。)
しかも対等だ。
(さゆうはあおたである。)
左右は青田である。
(みちはほそい。)
路は細い。
(さぎのかげがときどきやみにさす。)
鷺の影が時々闇に差す。
(「たんぼへかかったね」とせなかでいった。)
「田圃へかかったね」と背中で云った。
(「どうしてわかる」とかおをうしろへふりむけるようにしてきいたら、)
「どうして解る」と顔を後ろへ振り向けるようにして聞いたら、
(「だってさぎがなくじゃないか」とこたえた。)
「だって鷺が鳴くじゃないか」と答えた。
(するとさぎがはたしてふたこえほどないた。)
すると鷺がはたして二声ほど鳴いた。
(じぶんはわがこながらすこしこわくなった。)
自分は我子ながら少し怖くなった。
(こんなものをしょっていては、このさきどうなるかわからない。)
こんなものを背負っていては、この先どうなるか分からない。
(どこかうっちゃるところはなかろうかとむこうをみると)
どこか打遣ゃる所はなかろうかと向うを見ると
(やみのなかにおおきなもりがみえた。)
闇の中に大きな森が見えた。
(あすこならばとかんがえだすとたんに、)
あすこならばと考え出す途端に、
(せなかで、)
背中で、
(「ふふん」というこえがした。)
「ふふん」と云う声がした。
(「おとっさん、おもいかい」ときいた。)
「御父さん、重いかい」と聞いた。
(「おもかあない」とこたえると、)
「重かあない」と答えると、
(「いまにおもくなるよ」といった。)
「今に重くなるよ」と云った。
(じぶんはだまってもりをもくひょうにあるいていった。)
自分は黙って森を目標にあるいて行った。
(たのなかのみちがふきそくにうねってなかなかおもうようにでられない。)
田の中の路が不規則にうねってなかなか思うように出られない。
(しばらくするとふたまたになった。)
しばらくすると二股になった。
(じぶんはまたのねにたって、ちょっとやすんだ。)
自分は股の根に立って、ちょっと休んだ。
(「いしがたってるはずだがな」とこぞうがいった。)
「石が立ってるはずだがな」と小僧が云った。
(なるほどはっすんかどのいしがこしほどのたかさにたっている。)
なるほど八寸角の石が腰ほどの高さに立っている。
(「いしがたってるはずだがな」とこぞうがいった。)
「石が立ってるはずだがな」と小僧が云った。
(なるほどはっすんかどのいしがこしほどのたかさにたっている。)
なるほど八寸角の石が腰ほどの高さに立っている。
(ひょうにはひだりひがくぼ、みぎほったはらとある。)
表には左り日ヶ窪、右堀田原とある。
(やみだのにあかいじがあきらかにみえた。)
闇だのに赤い字が明かに見えた。
(あかいじはいもりのはらのようないろであった。)
赤い字は井守の腹のような色であった。
(「ひだりがよいだろう」とこぞうがめいれいした。)
「左が好いだろう」と小僧が命令した。
(ひだりをみるとさっきのもりがやみのかげを、)
左を見るとさっきの森が闇の影を、
(たかいそらからじぶんらのあたまのうえへなげかけていた。)
高い空から自分らの頭の上へ投げかけていた。
(じぶんはちょっとちゅうちょした。)
自分はちょっと躊躇した。
(「えんりょはしないでもいい」とこぞうがまたいった。)
「遠慮はしないでもいい」と小僧がまた云った。
(じぶんはしかたなしにもりのほうへあるきだした。)
自分は仕方なしに森の方へ歩き出した。
(はらのなかでは、よくめくらのくせになんでもしってるなとかんがえながら)
腹の中では、よく盲目のくせに何でも知ってるなと考えながら
(ひとすじみちをもりへちかづいてくると、せなかで、)
一筋道を森へ近づいてくると、背中で、
(「どうもめくらはふじゆうでいけないね」といった。)
「どうも盲目は不自由でいけないね」と云った。
(「だからおぶってやるからいいじゃないか」)
「だから負ってやるからいいじゃないか」
(「おぶってもらってすまないが、どうもひとにばかにされていけない。)
「負ぶって貰ってすまないが、どうも人に馬鹿にされていけない。
(おやにまでばかにされるからいけない」)
親にまで馬鹿にされるからいけない」
(なんだかいやになった。)
何だか厭になった。
(はやくもりへいってすててしまおうとおもっていそいだ。)
早く森へ行って捨ててしまおうと思って急いだ。