太宰治 「桜桃」 7

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問題文
(ああ、だれかひとり、やとってくれたらいい。)
ああ、誰かひとり、雇ってくれたらいい。
(ははがすえのこをせおって、ようたしにそとにでかけると、)
母が末の子を背負って、用足しに外に出かけると、
(ちちはあとのふたりのこのせわをみなければならぬ。)
父はあとの二人の子の世話を見なければならぬ。
(そうして、らいきゃくがまいにち、きまってじゅうにんくらいずつある。)
そうして、来客が毎日、きまって十人くらいずつある。
(「しごとべやのほうへ、でかけたいんだけど」)
「仕事部屋のほうへ、出かけたいんだけど」
(「これからですか」 )
「これからですか?」
(「そう。どうしても、こんやのうちにかきあげなければならないしごとがあるんだ」)
「そう。どうしても、今夜のうちに書き上げなければならない仕事があるんだ」
(それは、うそでなかった。)
それは、嘘でなかった。
(しかし、いえのなかのゆううつから、のがれたいきもあったのである。)
しかし、家の中の憂鬱から、のがれたい気もあったのである。
(「こんやは、わたし、いもうとのところへいってきたいとおもっているのですけど」)
「今夜は、私、妹のところへ行って来たいと思っているのですけど」
(それも、わたしはしっていた。いもうとはじゅうたいなのだ。)
それも、私は知っていた。妹は重態なのだ。
(しかし、にょうぼうがみまいにいけば、)
しかし、女房が見舞いに行けば、
(わたしはこどものおもりをしていなければならぬ。)
私は子供のお守りをしていなければならぬ。
(「だから、ひとをやとって、」)
「だから、ひとを雇って、……」
(いいかけて、わたしは、よした。)
言いかけて、私は、よした。
(にょうぼうのみうちのひとのことにすこしでも、ふれると、)
女房の身内の人のことに少しでも、ふれると、
(ひどくふたりのきもちがややこしくなる。)
ひどく二人の気持ちがややこしくなる。
(いきるということは、たいへんなことだ。)
生きるという事は、たいへんな事だ。
(あちこちからくさりがからまっていて、すこしでもうごくと、ちがふきだす。)
あちこちから鎖がからまっていて、少しでも動くと、血が噴き出す。
(わたしはだまってたって、)
私は黙って立って、
(ろくじょうまのつくえのひきだしからこうりょうのはいっているふうとうをとりだし、)
六畳間の机の引き出しから稿料のはいっている封筒を取りだし、
(たもとにつっこんで、)
袂につっ込んで、
(それからげんこうようしとじてんをくろいふろしきにつつみ、)
それから原稿用紙と辞典を黒い風呂敷に包み、
(ぶったいでないみたいに、ふわりとそとにでる。)
物体でないみたいに、ふわりと外に出る。