万葉集 和歌7
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(そらみつ、やまとのくには、みずのうへは、つちゆくごとく、ふねのうへは、とこにをるごと、)
そらみつ、大和の国は、水の上は、地行くごとく、船の上は、床に居るごと、
(おほかみの、いはへるくにそ、よつのふね、ふなのへならべ、たひらけく、はやわたりきて、)
大神の、斎へる国そ、四つの船、船の舳並べ、平けく、はや渡り来て、
(かへりごと、まをさむひに、あひのまむきそ、このとよみきは。)
返り言、奏さむ日に、相飲まむ酒そ、この豊御酒は。
(よつのふね、はやかへりこと、しらかつけ、わがものすそに、いはひてまたむ)
四つの船、はや帰り来と、しらか付け、朕が裳の裾に、斎ひて待たむ
(このさとは、つぎてしもやおく、なつののに、わがみしくさは、もみぢたりけり)
この里は、継ぎて霜や置く、夏の野に、我が見し草は、もみぢたりけり
(よそのみに、みればありしを、けふみては、としにわすれず、おもほえむかも)
よそのみに、見ればありしを、今日見ては、年に忘れず、思ほえむかも
(あめつちと、ひさしきまでに、よろづよに、つかへまつらむ、くろきしろきを)
天地と、久しきまでに、万代に、仕え奉らむ、黒酒白酒を
(やまとには、むらやまあれど、とりよろふ、あまのかぐやま、のぼりたち、くにみをすれば、)
大和には、群山あれど、とりよろふ、天の香具山、登り立ち、国見をすれば、
(くにはらは、けぶりたちたつ、うなはらは、かまめたちたつ、うましくにそ、)
国原は、煙立ち立つ、海原は、かまめ立ち立つ、うまし国そ、
(あきづしま、やまとのくには。)
あきづしま、大和の国は。
(あきののの、みくさかりふき、やどれりし、うぢのみやこの、かりいほしおもほゆ)
秋の野の、み草刈り葺き、宿れりし、宇治のみやこの、仮廬し思ほゆ
(きみがよも、わがよもしれや、いはしろの、をかのくさねを、いざむすびてな)
君が代も、我が代も知れや、岩代の、岡の草根を、いざ結びてな
(わがせこは、かりほつくらす、くさなくは、こまつがもとの、くさをからさね)
わが背子は、仮廬作らす、草なくは、小松が下の、草を刈らさね
(わがほりし、のしまはみせつ、そこふかき、あごねのうらの、たまそひりはぬ)
我が欲りし、野島は見せつ、底深き、阿胡根の浦の、珠そ拾はぬ
(うちそを、をみのおほきみ、あまなれや、いらごのしまの、たまもかります)
打麻を、麻続王、海人なれや、伊良虞の島の、玉藻刈ります
(うつせみの、いのちををしみ、なみにぬれ、いらごのしまの、たまもかりはむ)
うつせみの、命を惜しみ、波に濡れ、伊良虞の島の、玉藻刈り食む
(みよしのの、みみがのみねに、ときなくそ、ゆきはふりける、まなくそ、あめはふりける、)
み吉野の、耳我の嶺に、時なくそ、雪は降りける、間なくそ、雨は降りける、
(そのゆきの、ときなきがごと、そのあめの、まなきがごとく、くまもおちず、)
その雪の、時なきがごと、その雨の、間なきがごとく、隈もおちず、
(おもひつつぞこし、そのやまみちを。)
思ひつつぞ来し、その山道を。
(よきひとの、よしとよくみて、よしといひし、よしのよくみよ、よきひとよくみ)
よき人の、よしとよく見て、よしと言ひし、吉野よく見よ、よき人よく見
など
(これやこの、やまとにしては、わがこふる、きぢにありといふなにおふせのやま)
これやこの、大和にしては、我が恋ふる、紀伊路にありといふ名に負ふ背の山
(しらなみの、はままつがえの、たむけくさ、いくよまでにか、としのへぬらむ)
白波の、浜松が枝の、手向くさ、幾代までにか、年の経ぬらむ
(きみまつと、わがこひをれば、わがやどの、すだれうごかし、あきのかぜふく)
君待つと、我が恋ひをれば、我がやどの、簾動かし、秋の風吹く
(かぜをだに、こふるはともし、かぜをだに、こむとしまたば、なにかなげかむ)
風をだに、恋ふるはともし、風をだに、来むとし待たば、何か嘆かむ
(うだののの、あきはぎしのぎ、なくしかも、つまにこふらく、われにはまさじ)
宇陀の野の、秋萩しのぎ、鳴く鹿も、妻に恋ふらく、我にはまさじ
(わがやどの、ときじきふぢの、めづらしく、いまもみてしか、いもがえまひを)
我がやどの、時じき藤の、めづらしく、今も見てしか、妹が笑まひを
(わがやどの、はぎのしたばは、あきかぜも、いまだふかねば、かくそもみてる)
我がやどの、萩の下葉は、秋風も、いまだ吹かねば、かくそもみてる
(やみならば、うべもきまさじ、うめのはな、さけるつくよに、いでまさじとや)
闇ならば、うべも来まさじ、梅の花、咲ける月夜に、出でまさじとや
(ゆふつづも、かよふあまぢを、いつまでか、あふぎてまたむ、つきひとをとこ)
夕星も、通ふ天道を、何時までか、仰ぎて待たむ、月人をとこ
(ゆふされば、のへのあきはぎ、うらわかみ、つゆにそかるる、あきまちかてに)
夕されば、野辺の秋萩、末若み、露にそ枯るる、秋待ちかねて
(まくずはら、なびくあきかぜ、ふくごとに、あだのおほのの、はぎのはなちる)
ま葛原、なびく秋風、吹くごとに、阿太の大野の、萩の花散る
(かりがねの、きなかむひまで、みつつあらむ、このはぎはらに、あめなふりそね)
雁が音の、来鳴かむ日まで、見つつあらむ、この萩原に、雨な降りそね
(おくやまに、すむといふしかの、よひさらず、つまどふはぎの、ちらまくをしも)
奥山に、住むといふ鹿の、宵さらず、妻問う萩の、散らまく惜しも
(しらつゆの、おかまくをしみ、あきはぎを、をりのみをりて、おきやからさむ)
白露の、置かまく惜しみ、秋萩を、折りのみ折りて、置きや枯らさむ
(あきたかる、かりほのやどり、にほふまで、さけるあきはぎ、みれどあかぬかも)
秋田刈る、仮廬の宿り、にほふまで、咲ける秋萩、見れど飽かぬかも
(このゆふへ、あきかぜふきぬ、しらつゆに、あらそふはぎの、あすさかむみむ)
この夕、秋風吹きぬ、白露に、争ふ萩の、明日咲かむ見む
(あきかぜは、すずしくなりぬ、うまなめて、いざのにゆかな、はぎのはなみに)
秋風は、涼しくなりぬ、馬並めて、いざ野に行かな、萩の花見に
(つのさはふ、いはれもすぎず、はつせやま、いつかもこえむ、よはふけにつつ)
つのさはふ、磐余も過ぎず、初瀬山、いつかも越えむ、夜は更けにつつ
(さぬかたの、のべのあきはぎ、ときなれば、いまさかりなり、をりてかざさむ)
さ額田の、野辺の秋萩、時なれば、今盛りなり、折りてかざさむ
(ひとみなは、はぎをあきといふ、よしわれは、をばながうれを、あきとはいはむ)
人皆は、萩を秋と言ふ、よし我は、尾花が末を、秋とは言はむ
(さをしかの、つまととのふと、なくこえの、いたらむきはみ、なびけはぎはら)
さ雄鹿の、妻ととのふと、鳴く声の、至らむ極み、なびけ萩原
(いかほろの、やさかのいでに、たつのじの、あらはろまでも、さねをさねてば)
伊香保ろの、八尺のゐでに、立つ虹の、現はろまでも、さ寝をさ寝てば
(はつせかぜ、かくふくよひは、いつまでか、ころもかたしき、わがひとりねむ)
泊瀬風、かく吹く宵は、何時までか、衣片敷き、我がひとり寝む
(ながつきの、しぐれのあめの、やまぎりの、いぶせきあがむね、たをみばやまむ)
九月の、しぐれの雨の、山霧の、いぶせき我が胸、誰を見ば止まむ
(ながつきの、ありあけのつくよ、ありつつも、きみがきまさば、われこひめやも)
九月の、有明の月夜、ありつつも、君が来まさば、我恋ひめやも
(はろはろに、おもほゆるかも、しかれども、けしきこころを、あがもはなくに)
はろはろに、思ほゆるかも、然れども、異しき心を、我が思はなくに
(たくぶすま、しらきへいます、きみがめを、けふかあすかと、いはひてまたむ)
栲衾、新羅へいます、君が目を、今日か明日かと、斎ひて待たむ
(わがゆえに、おもひなやせそ、あきかぜの、ふかむそのつき、あはむものゆえ)
わがゆゑに、思ひな痩せそ、秋風の、吹かむその月、逢はむものゆゑ
(むこのうらの、いりえのすどり、はぐくもる、きみをはなれて、こいにしぬべし)
武庫の浦の、入江の渚鳥、羽ぐくもる、君を離れて、恋に死ぬべし
(あさねがみ、われはけづらじ、うつくしき、きみがたまくら、ふれてしものを)
朝寝髪、我は梳らじ、愛しき、君が手枕、触れてしものを
(あづきなく、なにのたはごと、いまさらに、わらはごとする、おいひとにして)
あづきなく、何の狂言、今さらに、童言する、老人にして
(かくのみし、こひばしぬべし、たらちねの、ははにもつげつ、やまずかよはせ)
かくのみし、恋ひば死ぬべし、たらちねの、母にも告げつ、止まず通はせ
(ますらをは、とものさわきに、なぐさもる、こころもあるらむ、われそくるしき)
ますらをは、友の騒ぎに、慰もる、心もあるらむ、我そ苦しき
(あひみては、こひなぐさむと、ひとはいへど、みてのちにそも、こひまさりける)
相見ては、恋慰むと、人はいへど、見て後にそも、恋まさりける
(いつはりも、につきてそする、いつよりか、みぬひとこひに、ひとのしにする)
いつはりも、似つきてそする、何時よりか、見ぬ人恋ひに、人の死にする
(おもわすれ、だにもえすやと、たにぎりて、うてどもこりず、こひといふやつこ)
面忘れ、だにもえすやと、手握りて、打てども懲りず、恋といふ奴
(あめつちの、かみをいのりて、さつやぬき、つくしのしまを、さしてゆくわれは)
天地の、神を祈りて、さつ矢貫き、筑紫の島を、さして行く我は
(まつのけの、なみたるみれば、いはびとの、われをみおくると、たたりしもころ)
松の木の、並みたる見れば、家人の、我を見送ると、立たりしもころ
(たびゆきに、ゆくとしらずて、あもししに、ことまをさずて、いまぞくやしけ)
旅行きに、行くと知らずて、母父に、言申さずて、今ぞ悔しけ
(あもとじも、たまにもがもや、いただきて、みづらのなかに、あへまかまくも)
母刀自も、玉にもがもや、戴きて、みづらの中に、合へ巻かまくも
(つくひやは、すぐはゆけども、あもししが、たまのすがたは、わすれせなふも)
月日やは、過ぐは行けども、母父が、玉の姿は、忘れせなふも
(しらなみの、よそるはまへに、わかれなば、いともすべなみ、やたびそでふる)
白波の、寄そる浜辺に、別れなば、いともすべなみ、八度袖振る
(なにはとを、こぎでてみれば、かみさぶる、いこまたかねに、くもそたなびく)
難波門を、漕ぎ出て見れば、神さぶる、生駒高嶺に、雲そたなびく
(ふたほがみ、あしけひとなり、あたゆまひ、わがするときに、さきもりにさす)
ふたほがみ、悪しけ人なり、あたゆまひ、我がする時に、防人に差す
(つのくにの、うみのなぎさに、ふなよそひ、たしでもときに、あもがめもがも)
摂津の国の、海の渚に、船装ひ、立し出も時に、母が目もがも
(からころむ、すそにとりつき、なくこらを、おきてそきぬや、おもなしにして)
韓衣、裾に取り付き、泣く子らを、置きてそ来ぬや、母なしにして
(おほきみの、みことかしこみ、あをくむの、とのびくやまを、こよてきぬかむ)
大君の、命恐み、青雲の、とのびく山を、越よて来ぬかむ
(よのなかは、むなしきものと、しるときし、いよよますます、かなしかりけり)
世の中は、空しきものと、知る時し、いよよますます、悲しかりけり
(うりはめば、こどもおもほゆ、くりはめば、ましてしのはゆ、いづくより、)
瓜食めば、子ども思ほゆ、栗食めば、まして偲はゆ、いづくより、
(きたりしものそ、まなかひに、もとなかかりて、やすいしなさぬ。)
来たりしものそ、まなかひに、もとなかかりて、安眠し寝さぬ。
(あゆちがた、しほひにけらし、ちたのうらに、あさこぐふねも、おきによるみゆ)
年魚市潟、潮干にけらし、知多の浦に、朝漕ぐ舟も、沖に寄る見ゆ
(しほふれば、ともにかたにいで、なくたづの、こえとほざかる、いそみすらしも)
潮干れば、共に潟に出で、鳴く鶴の、声遠ざかる、磯廻すらしも
(ゆふなぎに、あさりするたづ、しほみてば、おきなみたかみ、おのがつまよぶ)
夕なぎに、あさりする鶴、潮満てば、沖波高み、己が妻呼ぶ
(あさりすと、いそにわがみし、なのりそを、いづれのしまの、あまかりけむ)
あさりすと、磯に我が見し、なのりそを、いづれの島の、海人か刈りけむ
(わかさなる、みかたのうみの、はまきよみ、いゆきかへらひ、みれどあかぬかも)
若狭なる、三方の海の、浜清み、い行き返らひ、見れど飽かぬかも
(ひだひとの、まきながすといふ、にふのかは、ことはかよへど、ふねそかよはぬ)
飛騨人の、真木流すといふ、丹生の川、言は通へど、船そ通はぬ
(ささなみの、なみくらやまに、くもいれば、あめそふるちふ、かへりこわがせ)
楽浪の、連庫山に、雲居れば、雨そ降るちふ、帰り来我が背
(けふもかも、おきつたまもは、しらなみの、やへをるがうへに、みだれてあるらむ)
今日もかも、沖つ玉藻は、白波の、八重折るが上に、乱れてあるらむ
(あられふり、かしまのさきを、なみたかみ、すぎてやゆかむ、こひしきものを)
あられ降り、鹿島の崎を、波高み、過ぎてや行かむ、恋しきものを
(いへにして、あれはこひむな、いなみのの、あさぢがうへに、てりしつくよを)
家にして、我は恋ひむな、印南野の、浅茅が上に、照りし月夜を
(きのくにの、さひかのうらに、いでみれば、あまのともしび、なみのまゆみゆ)
紀伊の国の、雑賀の浦に、出で見れば、海人の燈火、波の間ゆ見ゆ
(つともがと、こはばとらせむ、かひひりふ、われをぬらすな、おきつしらなみ)
つともがと、乞はば取らせむ、貝拾ふ、我を濡らすな、沖つ白波
(あしひきの、やまのしづくに、いもまつと、わがたちぬれし、やまのしづくに)
あしひきの、山のしづくに、妹待つと、われ立ち濡れし、山のしづくに
(あをまつと、きみがぬれけむ、あしひきの、やまのしづくに、ならましものを)
我を待つと、君が濡れけむ、あしひきの、山のしづくに、ならましものを
(おほふねの、つもりがうらに、のらむとは、まさしくしりて、わがふたりねし)
大船の、津守が占に、告らむとは、まさしく知りて、我が二人寝し
(おほなこを、をちかたのへに、かるかやの、つかのあひだも、われわすれめや)
大名児を、彼方野辺に、刈る草の、束の間も、われ忘れめや
(いにしへに、こふるとりかも、ゆづるはの、みいのうへより、なきわたりゆく)
古に、恋ふる鳥かも、ゆづるはの、御井の上より、鳴き渡り行く
(いにしへに、こふらむとりは、ほととぎす、けだしやなきし、あがもへるごと)
古に、恋ふらむ鳥は、ほととぎす、けだしや鳴きし、我が思へるごと
(みよしのの、たままつがえは、はしきかも、きみがみことを、もちてかよはく)
み吉野の、玉松が枝は、愛しきかも、君がみ言を、持ちて通はく
(あきのたの、ほむきのよれる、かたよりに、きみによりなな、こちたくありとも)
秋の田の、穂向きの寄れる、片寄りに、君に寄りなな、言痛くありとも
(おくれいて、こひつつあらずは、おひしかむ、みちのくまみに、しめゆへわがせ)
後れ居て、恋ひつつあらずは、追ひ及かむ、道の隈廻に、標結へわが背
(ひとごとを、しげみこちたみ、おのがよに、いまだわたらぬ、あさかはわたる)
人言を、繁み言痛み、己が世に、いまだ渡らぬ、朝川渡る
(みやびをと、われはきけるを、やどかさず、われをかへせり、おそのみやびを)
みやびをと、我は聞けるを、やど貸さず、我を帰せり、おそのみやびを
(みやびをに、われはありけり、やどかさず、かへししわれそ、みやびをにはある)
みやびをに、我はありけり、やど貸さず、帰しし我そ、みやびをにはある
(わがききし、みみによくにる、あしのうれの、あしやむわがせ、つとめたぶべし)
我が聞きし、耳によく似る、葦の末の、足痛む我が背、つとめたぶべし
(ふりにし、おみなにしてや、かくばかり、こひにしづまむ、たわらはのごと)
古りにし、嫗にしてや、かくばかり、恋に沈まむ、手童のごと
(やすみしし、わごおほきみの、かしこきや、みはかつかふる、やましなの、かがみのやまに、)
やすみしし、わご大君の、恐きや、御陵仕ふる、山科の、鏡の山に、
(よるはも、よのことごと、ひるはも、ひのことごと、ねのみを、)
夜はも、夜のことごと、昼はも、日のことごと、音のみを、
(なきつつありてや、ももしきの、おほみやびとは、ゆきわかれなむ。)
泣きつつありてや、ももしきの、大宮人は、行き別れなむ。
(けひのうみの、にはよくあらし、かりこもの、みだれていづみゆ、あまのつりぶね)
飼飯の海の、庭良くあらし、刈り薦の、乱れて出づ見ゆ、海人の釣船