芥川龍之介 杜子春①/⑥

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難易度(4.4) 2076打 長文 長文モード可タグ長文 小説 文豪 芥川龍之介
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 Yuu 8210 8.4 96.7% 241.9 2054 68 41 2020/07/08
2 とろ 4781 B 5.2 91.2% 388.2 2054 198 41 2020/06/28
3 mamshino 4484 C+ 4.8 93.6% 431.7 2076 140 41 2020/06/14
4 やまちゃん 4061 C 4.2 96.0% 486.5 2060 84 41 2020/07/25
5 あがさ 4004 C 4.3 93.2% 476.7 2057 148 41 2020/07/27

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問題文

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(いちあるはるのひぐれです。)

【一】 或春の日暮です。

(とうのみやこらくようのにしのもんのしたに、ぼんやりとそらをあおいでいる、)

唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやりと空を仰いでいる、

(ひとりのわかものがありました。)

一人の若者がありました。

(わかものはなはとししゅんといって、もとはかねもちのむすこでしたが、)

若者は名は杜子春といって、元は金持の息子でしたが、

(いまはざいさんをつかいつくして、そのひのくらしにもこまるくらい、)

今は財産を費(つか)い尽して、その日の暮しにも困る位、

(あわれなみぶんになっているのです。)

憐れな身分になっているのです。

(なにしろそのころらくようといえば、てんかにならぶもののない、)

何しろその頃洛陽といえば、天下に並ぶもののない、

(はんじょうをきわめたみやこですから、おうらいにはまだしっきりなく、)

繫昌を極めた都ですから、往来にはまだしっきりなく、

(ひとやくるまがとおっていました。もんいっぱいにあたっている、)

人や車が通っていました。門一ぱいに当っている、

(あぶらのようなゆうひのひかりのなかに、ろうじんのかぶったしゃのぼうしや、)

油のような夕日の光の中に、老人のかぶった紗の帽子や、

(とるこのおんなのきんのみみわや、あおうまにかざったいろいとのたづなが、)

トルコの女の金の耳環や、白馬(あおうま)に飾った色糸の手綱が、

(たえずながれていくようすは、まるでえのようなうつくしさです。)

絶えず流れて行く容子は、まるで絵のような美しさです。

(しかしとししゅんはあいかわらず、もんのかべにみをもたせて、)

しかし杜子春は相変らず、門の壁に身を凭せて、

(ぼんやりとそらばかりながめていました。そらには、もうほそいつきが、)

ぼんやりと空ばかり眺めていました。空には、もう細い月が、

(うらうらとなびいたかすみのなかに、まるでつめのあとかとおもうほど、)

うらうらと靡(なび)いた霞の中に、まるで爪の痕かと思う程、

(かすかにしろくうかんでいるのです。)

かすかに白く浮んでいるのです。

(「ひはくれるし、はらはへるし、そのうえもうどこへいっても、)

「日は暮れるし、腹は減るし、その上もうどこへ行っても、

(とめてくれるところはなさそうだしーーこんなおもいをしていきているくらいなら、)

泊めてくれる所はなさそうだしーーこんな思いをして生きている位なら、

(いっそかわへでもみをなげて、しんでしまったほうがましかもしれない。」)

いっそ川へでも身を投げて、死んでしまった方がましかも知れない。」

(とししゅんはひとりさっきから、こんなとりとめもないことを)

杜子春はひとりさっきから、こんな取りとめもないことを

など

(おもいめぐらしていたのです。)

思いめぐらしていたのです。

(するとどこからやってきたか、とつぜんかれのまえへあしをとめた、)

するとどこからやって来たか、突然彼の前へ足を止めた、

(かためすがめのろうじんがあります。それがゆうひをあびて、)

片目眇(すがめ)の老人があります。それが夕日を浴びて、

(おおきなかげをもんへおとすと、じっととししゅんのかおをみながら、)

大きな影を門へ落すと、じっと杜子春の顔を見ながら、

(「おまえはなにをかんがえているのだ。」と、おうへいにことばをかけました。)

「お前は何を考えているのだ。」と、横柄に言葉をかけました。

(「わたしですか。わたしはこんやねるところもないので、)

「私ですか。私は今夜寝る所もないので、

(どうしたものかとかんがえているのです。」)

どうしたものかと考えているのです。」

(ろうじんのたずねかたがきゅうでしたから、とししゅんはさすがにめをふせて、)

老人の尋ね方が急でしたから、杜子春はさすがに眼を伏せて、

(おもわずしょうじきなこたえをしました。)

思わず正直な答をしました。

(「そうか。それはかわいそうだな。」)

「そうか。それは可哀そうだな。」

(ろうじんはしばらくなにごとかかんがえているようでしたが、やがて、)

老人は暫く何事か考えているようでしたが、やがて、

(おうらいにさしているゆうひのひかりをゆびさしながら、)

往来にさしている夕日の光を指さしながら、

(「ではおれがよいことをひとつおしえてやろう。いまこのゆうひのなかにたって、)

「ではおれが好いことを一つ教えてやろう。今この夕日の中に立って、

(おまえのかげがちにうつったら、そのあたまにあたるところをよなかにほってみるがよい。)

お前の影が地に映ったら、その頭に当る所を夜中に掘って見るが好い。

(きっとくるまにいっぱいのおうごんがうまっているはずだから。」)

きっと車に一ぱいの黄金が埋まっている筈だから。」

(「ほんとうですか。」)

「ほんとうですか。」

(とししゅんはおどろいて、ふせていためをあげました。)

杜子春は驚いて、伏せていた眼を挙げました。

(ところがさらにふしぎなことには、あのろうじんはどこへいったか、)

所が更に不思議なことには、あの老人はどこへ行ったか、

(もうあたりにはそれらしい、かげもかたちもみあたりません。そのかわり)

もうあたりにはそれらしい、影も形も見当りません。その代り

(そらのつきのいろはまえよりもなおしろくなって、やすみないおうらいのひとどおりのうえには、)

空の月の色は前よりも尚白くなって、休みない往来の人通りの上には、

(もうきのはやいこうもりがにさんびきひらひらまっていました。)

もう気の早いコウモリが二三匹ひらひら舞っていました。

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