海野十三 蠅男⑬

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※➀に同じくです。


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問題文

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(たんていがん)

◇探偵眼◇

(そこでほむらは、したいはっけんとうじつ、てあらいじょのかがみのまえに、ふらんすせいのおしろいが)

そこで帆村は、屍体発見当日、手洗所の鏡の前に、フランス製の白粉が

(こぼれていたことなどをけんじのためにはなしてきかせた。)

こぼれていたことなどを検事のために話して聞かせた。

(そうかい、そういうわかいおんなが、このいんうつなていないにいたとはおどろいたね)

「そうかい、そういう若い女が、この陰鬱な邸内にいたとは愕いたネ」

(と、むらまつけんじは、くびをうなだれてややかんがえていたが、)

と、村松検事は、首をうなだれてやや考えていたが、

(やがてくびをむっくりおこすと、おかしそうにくすくすわらいだした。)

やがて首をムックリ起すと、可笑しそうにクスクス笑いだした。

(なにがそんなにおかしいのです)

「なにがそんなに可笑しいのです」

(だってきみ、きょうはくじょうのぬしは、はえおとこだよ。いいかね。はえおとこであって、)

「だって君、脅迫状の主は、蠅男だよ。いいかネ。蠅男であって、

(あくまではえおんなではないんだよ。わかいおんながいてもいい。)

あくまで蠅女ではないんだよ。若い女がいてもいい。

(これがどくとるごろしのはんにんだとはおもえないさ)

これがドクトル殺しの犯人だとは思えないさ」

(でもけんじさん。さっきおっしゃったように、このはえおとこなるじんぶつは、)

「でも検事さん。さっき仰有ったように、この蠅男なる人物は、

(いつわりのりょこうちゅうのかんばんをかけるようなりこうなにんげんなんですよ。おんなだから)

偽りの旅行中の看板をかけるような悧巧な人間なんですよ。女だから

(はえおとこではないとはいいきらぬほうがよくはありませんか。それよりも、)

蠅男ではないとは云い切らぬ方がよくはありませんか。それよりも、

(はやくそのふらんすせいのおしろいのおんなをさがしだして、それがはえおとこではないという)

早くそのフランス製の白粉の女を探しだして、それが蠅男ではないという

(しょうめいをするほうがちかみちですようむ、なるほど、なるほど)

証明をする方が近道ですよ」「ウム、なるほど、なるほど」

(けんじは、まごのはなしをきくそふのように、むじゃきにくびをおおきくふってうなずいた。)

検事は、孫の話を聴く祖父のように、無邪気に首を大きく振って肯いた。

(そのとき、おくのほうからひとりのけいかんが、いそぎあしではいってきた。)

そのとき、奥の方から一人の警官が、急ぎ足で入ってきた。

(けんじどのにもうしあげます。ただいま、まさきしょちょうからおでんわでございます。)

「検事どのに申上げます。只今、正木署長からお電話でございます。

(たまやていからかけてまいっとります)

玉屋邸から懸けて参っとります」

(けんじは、そのこえにせきをたっていった。ほむらは、ひきかえそうとするけいかんを)

検事は、その声に席を立っていった。帆村は、引き返そうとする警官を

など

(つかまえて、たばこをいっぽんしょもうした。けいかんはばっとのはこごと)

つかまえて、莨(たばこ)を一本所望した。警官はバットの箱ごと

(ほむらのてにわたして、あたふたとけんじのあとをおっていった。)

帆村の手に渡して、アタフタと検事の後を追っていった。

(ほむらは、ばっとをいっぽんぬきだしてくちにくわえた。そしてまっちを)

帆村は、バットを一本ぬきだして口に咥えた。そして燐寸(マッチ)を

(もとめてあたりをみまわしたが、このときへやのすみに、)

求めてあたりを見まわしたが、このとき室の隅に、

(たたせられているかもしたかおるとうえはらやまじのすがたにきがついた。)

立たせられている鴨下カオルと上原山治の姿に気がついた。

(おおうえはらさん、まっちをおもちじゃありませんか)

「おお上原さん、燐寸をお持ちじゃありませんか」

(と、ほむらはそのほうへちかづいていった。)

と、帆村はその方へ近づいていった。

(はりばんのけいかんのほうがおどろいて、ぽけっとからまっちをおしだして、)

張り番の警官の方が愕いて、ポケットから燐寸を押しだして、

(ほむらのほうへさしだしたけれど、ほむらはそれにきがつかないらしく、)

帆村の方へさしだしたけれど、帆村はそれに気がつかないらしく、

(いや、どうもすみませんと、うえはらせいねんのかしてくれたまっちをてにとった。)

「いや、どうもすみません」と、上原青年の貸して呉れた燐寸を手にとった。

(そしてばっとにひをつけて、うまそうにけむりをすった。)

そしてバットに火を点けて、うまそうに煙を吸った。

(ーーとうきょうは、わりあいにあたたかいようですね)

「ーー東京は、わりあいに暖かいようですね」

(ーーはああたたこうございましたがと、うえはらせいねんはめをぱちぱちさせた。)

「ーーはア暖こうございましたが」と、上原青年は眼をパチパチさせた。

(けさはやく、かもしたさんをむかえにゆかれたんですね)

「今朝早く、鴨下さんを迎えにゆかれたんですね」

(はあーーそうです)

「はアーーそうです」

(あめのところを、たいへんでしたね)

「雨のところを、大変でしたネ」

(ええっーーそうでございます)

「ええッーーそうでございます」

(あの、いたばしくのながさきちょうも、ずいぶんひらけましたね)

「あの、板橋区の長崎町も、随分開けましたネ」

(あっ、ごぞんじですか、かもしたさんのすんでいらっしゃるあたりをーー)

「あッ、御存じですか、鴨下さんの住んでいらっしゃる辺りをーー」

(いや、こうしておめにかかるまで、ぞんじませんでしたが)

「いや、こうしてお目に懸るまで、存じませんでしたが」

(わかいだんじょは、おどろきのめをみはって、たがいにかおをみあわせた。)

若い男女は、愕きの目を見張って、互いに顔を見合わせた。

(きょうのれっしゃは、つばめごうですね。だいぶんすいていましたね。)

「きょうの列車は、燕号ですネ。だいぶん空いていましたネ。

(おじょうさんは、よくねむれましたか)

お嬢さんは、よく眠れましたか」

(これをきいていたかおるは、まっさおになった。)

これを聞いていたカオルは、真青になった。

(ああ、もうよしてください。きもちがわるくなりますわ。たんていなんて、)

「ああ、もうよして下さい。気持が悪くなりますわ。探偵なんて、

(なんていやなしょうばいでしょう。まるであたしたち、かんしされていたようですわ)

なんて厭な商売でしょう。まるであたしたち、監視されていたようですわ」

(ほむらは、わらいかけたかおを、きゅうにきまじめなかおにていせいしながら、)

帆村は、笑いかけた顔を、急に生真面目な顔に訂正しながら、

(やあ、おきにさわったらおゆるしください。もうおてんきのはなしはよします)

「やあ、お気にさわったらお許し下さい。もうお天気の話はよします」

(といって、ゆびさきにはさんだたばこをまじまじとみるのであった。)

といって、指先に挟んだ莨をマジマジと見るのであった。

(そこへでんわぐちへでていたむらまつけんじがかえってきた。)

そこへ電話口へ出ていた村松検事が帰ってきた。

(あとにけいさつのほぼがついている。)

あとに警察の保姆がついている。

(おう、ほむらくん、まさきしょちょうのでんわによると、いまたまやそういちろうのやしきに、)

「おう、帆村君、正木署長の電話によると、いま玉屋総一郎の邸に、

(あやしきおとこがあらわれてていないをうろうろしているそうだよ。)

怪しき男が現われて邸内をウロウロしているそうだよ。

(いよいよちゃんばらがはじまるかもしれないということだ。)

いよいよチャンバラが始まるかもしれないということだ。

(これからいっしょにいってみようじゃないか)

これから一緒に行ってみようじゃないか」

(ほう、またあやしきおとこですか。どうもあやしきおとこがおおすぎますね)

「ほう、また怪しき男ですか。どうも怪しき男が多すぎますね」

(かおるのつれのうえはらやまじが、きらりとめをうごかした。)

カオルの連れの上原山治が、キラリと眼を動かした。

(おおいぶんにはかまわない。たりないよりはいいだろう。)

「多いぶんには構わない。足りないよりはいいだろう。

(ーーそれからおじょうさんにうえはらくんでしたかな。にかいにおちついたへやがあるから、)

ーーそれからお嬢さんに上原君でしたかな。二階に落着いた部屋があるから、

(そこでゆっくりやすんでください。このふじんがせわをしますから、どうぞ)

そこでゆっくり休んで下さい。この婦人が世話をしますから、どうぞ」

(けんじがあごをしゃくると、ほぼはひとなれたようすでふたりにあいさつし、)

検事が頤をしゃくると、保姆は人慣れた様子で二人に挨拶し、

(にかいへあんないするむねをもうしのべた。ーーふたりはかんねんしたものとみえ、)

二階へ案内する旨を申述べた。ーー二人は観念したものと見え、

(またたがいのめをみあわせたまま、ほぼのあとについて、へやをでていった。)

また互いの眼を見合わせたまま、保姆の後について、部屋を出ていった。

(さあ、いこう。ーーが、きみのふくそうはこまったねとけんじがかおをしかめた。)

「さあ、行こう。ーーが、君の服装は困ったネ」と検事が顔をしかめた。

(いや、ふくならあるんです。そろそろひまになりましたから、)

「いや、服ならあるんです。ソロソロ閑(ひま)になりましたから、

(ひとつきかえますかな)

一つ着かえますかな」

(そういってほむらは、そこにはりばんをしていたけいかんにえしゃくすると、)

そういって帆村は、そこに張り番をしていた警官に会釈すると、

(けいかんはいすのうえにおいてあったふろしきづつみをとってさしだした。)

警官は椅子の上に置いてあった風呂敷包みをとって差出した。

(ふろしきをとくと、やどやにのこしてあったようふくがそっくりはいっていた。)

風呂敷を解くと、宿屋に残してあった洋服がそっくり入っていた。

(あきれたものだ。はやくきかえとけばいいのにーー)

「呆れたものだ。早く着かえとけばいいのにーー」

(そうはゆきませんよ。じけんのほうがたいせつですからね。)

「そうはゆきませんよ。事件の方が大切ですからネ。

(ようふくなんか、かならずきかえるじきがくるものですよ)

洋服なんか、必ず着かえる時機が来るものですよ」

(そういいながら、ほむらはかりていたけいかんのおーばーをぬぎ、)

そういいながら、帆村は借りていた警官のオーバーを脱ぎ、

(びょういんのしろいびょういをぬぎすてた。)

病院の白い病衣を脱ぎすてた。

(けいかんはほむらのために、しゃつやずぼんをとってやりながら、)

警官は帆村のために、シャツやズボンをとってやりながら、

(けんじにはえんりょがちに、ほむらにはなしかけた。)

検事には遠慮がちに、帆村に話しかけた。

(ーーもしほむらはん。ちょっとべんきょうになりますさかい、)

「ーーもし帆村はん。ちょっと勉強になりますさかい、

(おしえていただけませんかええ、なんのことです)

教えていただけませんか」「ええ、何のことです」

(そら、さっきのふたりにほむらはんがいやはりましたやろ、)

「そら、さっきの二人に帆村はんが云やはりましたやろ、

(とうきょうはあたたかいとか、あめがふっていたやろとか、つばめできたやろ、)

東京は暖かいとか、雨が降っていたやろとか、燕で来たやろ、

(むすめはんのいえはいたばしくのどこやろとかな。ふたりとも、かおがあおなってしもうて、)

娘はんの家は板橋区の何処やろとかナ。二人とも、顔が青なってしもうて、

(えろうびっくりしとりましたな、つうかいでやしたなあ。)

えろう吃驚しとりましたナ、痛快でやしたなア。

(あのとうしじゅつをおしえとくんなはれ、べんきょうになりますさかい)

あの透視術を教えとくんなはれ、勉強になりますさかい」

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