有島武郎 或る女71

投稿者nyokesi プレイ回数193
難易度(4.5) 5804打 長文 長文モード可 タグ長文 小説 文豪 有島武郎
順位名前スコア称号打鍵/秒正誤率時間(秒)打鍵数ミス問題日付
1 Yuu 7945 8.2 96.6% 697.9 5744 199 84 2020/05/15
2 HAKU 7036 7.2 97.7% 805.6 5801 132 84 2020/03/31
3 subaru 7022 7.4 94.6% 776.5 5783 330 84 2020/04/01
4 berry 7019 7.3 95.7% 781.8 5740 252 84 2020/04/30
5 おっ 6844 S++ 7.2 95.2% 801.9 5775 286 84 2020/03/31

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問題文

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(さんざんきむらをくるしめぬいたあげくに、なおあのねのしょうじきなにんげんをたぶらかして)

さんざん木村を苦しめ抜いたあげくに、なおあの根の正直な人間をたぶらかして

(なけなしのかねをしぼりとるのはぞくにいう「つつもたせ」のしょぎょうとちがっては)

なけなしの金をしぼり取るのは俗にいう「つつもたせ」の所業と違っては

(いない。そうおもうとようこはじぶんのだらくをいたくかんぜずにはいられなかった。)

いない。そう思うと葉子は自分の堕落を痛く感ぜずにはいられなかった。

(けれどもげんざいのようこにいちばんだいじなものはくらちというじょうじんのほかには)

けれども現在の葉子にいちばん大事なものは倉地という情人のほかには

(なかった。こころのいたみをかんじながらもくらちのことをおもうとなおこころがいたかった。かれは)

なかった。心の痛みを感じながらも倉地の事を思うとなお心が痛かった。彼は

(さいしをぎせいにきょうし、じぶんのしょくぎょうをぎせいにきょうし、しゃかいじょうのめいよをぎせいに)

妻子を犠牲に供し、自分の職業を犠牲に供し、社会上の名誉を犠牲に

(きょうしてまでようこのあいにおぼれ、ようこのそんざいにいきようとしてくれているのだ。)

供してまで葉子の愛におぼれ、葉子の存在に生きようとしてくれているのだ。

(それをおもうとようこはくらちのためになんでもしてみせてやりたかった。ときによると)

それを思うと葉子は倉地のためになんでもして見せてやりたかった。時によると

(われにもなくおかしてくるなみだぐましいかんじをじっとこらえて、さだこにあいに)

われにもなく侵して来る涙ぐましい感じをじっとこらえて、定子に会いに

(いかずにいるのも、そうすることがなにかしゅうきょうじょうのがんがけで、くらちのあいをつなぎとめる)

行かずにいるのも、そうする事が何か宗教上の願がけで、倉地の愛を繋ぎとめる

(まじないのようにおもえるからしていることだった。きむらにだって)

禁厭(まじない)のように思えるからしている事だった。木村にだって

(いつかはぶっしつじょうのつぐないめにたいしてぶっしつじょうのへんれいだけはすることができるだろう。)

いつかは物質上の償い目に対して物質上の返礼だけはする事ができるだろう。

(じぶんのすることは「つつもたせ」とはかたちがにているだけだ。やってやれ。)

自分のする事は「つつもたせ」とは形が似ているだけだ。やってやれ。

(そうようこはけっしんした。よむでもなくよまぬでもなくてにもってながめていた)

そう葉子は決心した。読むでもなく読まぬでもなく手に持ってながめていた

(てがみのさいごのいちまいをようこはむいしきのようにぽたりとひざのうえにおとした。そして)

手紙の最後の一枚を葉子は無意識のようにぽたりと膝の上に落とした。そして

(そのままじっとてつびんからたつゆげがでんとうのひかりのなかにたようなかもんをえがいてはきえ)

そのままじっと鉄びんから立つ湯気が電燈の光の中に多様な渦紋を描いては消え

(えがいてはきえするのをみつめていた。)

描いては消えするのを見つめていた。

(しばらくしてからようこはものうげにふかいといきをひとつして、じょうたいをひねって)

しばらくしてから葉子は物憂げに深い吐息を一つして、上体をひねって

(たなのうえからてぶんこをとりおろした。そしてふでをかみながらまたうわめでじっとなにか)

棚の上から手文庫を取りおろした。そして筆をかみながらまた上目でじっと何か

(かんがえるらしかった。と、きゅうにいきかえったようにはきはきなって、じょうとうの)

考えるらしかった。と、急に生きかえったようにはきはきなって、上等の

など

(しなずみをがんのみっつまではいったまんまるいすずりにすりおろした。そして)

シナ墨を眼(がん)の三つまで入ったまんまるい硯にすりおろした。そして

(かるくじゃこうのただようなかでおとこのじのようなけんぴつで、せいこうながんぴしのまきがみに、)

軽く麝香の漂うなかで男の字のような健筆で、精巧な雁皮紙の巻紙に、

(いっきに、つぎのようにしたためた。)

一気に、次のようにしたためた。

(「かけばきりがございません。うかがえばきりがございません。だからかきも)

「書けばきりがございません。伺えばきりがございません。だから書きも

(いたしませんでした。あなたのおてがみもきょういただいたものまでははいけんせずに)

いたしませんでした。あなたのお手紙もきょういただいたものまでは拝見せずに

(ずたずたにやぶってすててしまいました。そのこころをおさっしくださいまし。)

ずたずたに破って捨ててしまいました。その心をお察しくださいまし。

(うわさにもおききとはぞんじますが、わたしはみごとにしゃかいてきにころされて)

うわさにもお聞きとは存じますが、わたしはみごとに社会的に殺されて

(しまいました。どうしてわたしがこのうえあなたのつまとなのれましょう。)

しまいました。どうしてわたしがこの上あなたの妻と名乗れましょう。

(じごうじとくとよのなかではもうします。わたしもたしかにそうぞんじています。けれども)

自業自得と世の中では申します。わたしも確かにそう存じています。けれども

(しんるい、えんじゃ、ともだちにまでつきはなされて、ふたりのいもうとをかかえてみますと、)

親類、縁者、友だちにまで突き放されて、二人の妹をかかえてみますと、

(わたしはめもくらんでしまいます。くらちさんだけがどういうごえんかおみすてなく)

わたしは目もくらんでしまいます。倉地さんだけがどういう御縁かお見捨てなく

(わたしどもさんにんをおせわくださっています。こうしてわたしはどこまでしずんで)

わたしども三人をお世話くださっています。こうしてわたしはどこまで沈んで

(いくことでございましょう。ほんとうにじごうじとくでございます。)

行く事でございましょう。ほんとうに自業自得でございます。

(きょうはいけんしたおてがみもほんとうはよまずにさいてしまうのでございました)

きょう拝見したお手紙もほんとうは読まずに裂いてしまうのでございました

(けれども・・・わたしのいどころをどなたにもおしらせしないわけなどは)

けれども・・・わたしの居所をどなたにもお知らせしないわけなどは

(もうしあげるまでもございますまい。)

申し上げるまでもございますまい。

(このてがみはあなたにさしあげるさいごのものかとおもわれます。おだいじにおすごし)

この手紙はあなたに差し上げる最後のものかと思われます。お大事にお過ごし

(あそばしませ。かげながらごせいこうをいのりあげます。)

遊ばしませ。陰ながら御成功を祈り上げます。

(ただいまじょやのかねがなります。おおみそかのよるきむらさまようより」)

ただいま除夜の鐘が鳴ります。 大晦日の夜 木村様 葉より」

(ようこはそれをにほんふうのじょうぶくろにおさめて、もうひつできようにひょうきをかいた。かきおわると)

葉子はそれを日本風の状袋に収めて、毛筆で器用に表記を書いた。書き終わると

(きゅうにいらいらしだして、いきなりりょうてににぎってひとおもいにひきさこうとしたが、)

急にいらいらし出して、いきなり両手に握ってひと思いに引き裂こうとしたが、

(おもいかえしてすてるようにそれをたたみのうえになげだすと、われにもなく)

思い返して捨てるようにそれを畳の上に投げ出すと、われにもなく

(ひややかなびしょうがくちじりをかすかにひきつらした。)

冷ややかな微笑が口じりをかすかに引きつらした。

(ようこのむねをどきんとさせるほどたかく、すぐもよりにあるぞうじょうじのじょやのかねが)

葉子の胸をどきんとさせるほど高く、すぐ最寄りにある増上寺の除夜の鐘が

(なりだした。とおくからどこのてらのともしれないかねのこえがそれにおうずるように)

鳴り出した。遠くからどこの寺のともしれない鐘の声がそれに応ずるように

(きこえてきた。そのおとにひきいれられてみみをすますとよるのしじまの)

聞こえて来た。その音に引き入れられて耳を澄ますと夜の沈黙(しじま)の

(なかにもこえはあった。じゅうにじをうつぼんぼんどけい、「かるた」をよみあげる)

中にも声はあった。十二時を打つぼんぼん時計、「かるた」を読み上げる

(らしいはしゃいだこえ、なににおどろいてかよなきをするにわとり・・・ようこはそんなひびきを)

らしいはしゃいだ声、何に驚いてか夜鳴きをする鶏・・・葉子はそんな響を

(さぐりだすと、ひとのいきているというのがおそろしいほどふしぎにおもわれだした。)

探り出すと、人の生きているというのが恐ろしいほど不思議に思われ出した。

(きゅうにさむさをおぼえてようこはねじたくにたちあがった。)

急に寒さを覚えて葉子は寝じたくに立ち上がった。

(さんじゅういちさむいめいじさんじゅうごねんのしょうがつがきて、あいこたちのとうききゅうかもおわりに)

【三一】 寒い明治三十五年の正月が来て、愛子たちの冬期休暇も終わりに

(ちかづいた。ようこはいもうとたちをふたたびたじまじゅくのほうにかえしてやるきにはなれなかった。)

近づいた。葉子は妹たちを再び田島塾のほうに帰してやる気にはなれなかった。

(たじまというひとにたいしてはんかんをいだいたばかりではない。いもうとたちをふたたびあずかって)

田島という人に対して反感をいだいたばかりではない。妹たちを再び預かって

(もらうことになればようこはとうぜんあいさつにいってくべきぎむをかんじたけれども、)

もらう事になれば葉子は当然挨拶に行って来べき義務を感じたけれども、

(どういうものかそれがはばかれてできなかった。よこはまのしてんちょうのながいとか、)

どういうものかそれがはばかれてできなかった。横浜の支店長の永井とか、

(このたじまとか、ようこにはじぶんながらわけのわからないにがてのひとがあった。)

この田島とか、葉子には自分ながらわけのわからない苦手の人があった。

(そのひとたちがかくべつちがいびとだとも、おそろしいひとだともおもうのではなかった)

その人たちが格別違い人だとも、恐ろしい人だとも思うのではなかった

(けれども、どういうものかそのまえにでることにきがひけた。ようこはまたいもうとたちが)

けれども、どういうものかその前に出る事に気が引けた。葉子はまた妹たちが

(いわずかたらずのうちにせいとたちからうけねばならぬはくがいをおもうとふびんでも)

言わず語らずのうちに生徒たちから受けねばならぬ迫害を思うと不憫でも

(あった。で、まいにちつうがくするにはとおすぎるというりゆうのもとにそこをやめて、)

あった。で、毎日通学するには遠すぎるという理由のもとにそこをやめて、

(いいくらにあるゆうらんじょがっこうというのにかよわせることにした。)

飯倉にある幽蘭女学校というのに通わせる事にした。

(ふたりががっこうにかよいだすようになると、くらちはあさからようこのところでたいこうじかんまで)

二人が学校に通い出すようになると、倉地は朝から葉子の所で退校時間まで

(すごすようになった。くらちのふくしんのなかまたちもちょいちょいでいりした。ことに)

過ごすようになった。倉地の腹心の仲間たちもちょいちょい出入した。ことに

(まさいというおとこはくらちのかげのようにくらちのいるところにはかならずいた。れいの)

正井という男は倉地の影のように倉地のいる所には必ずいた。例の

(みずさきあんないぎょうしゃくみあいのせつりつについてまさいがいちばんはたらいているらしかった。)

水先案内業者組合の設立について正井がいちばん働いているらしかった。

(まさいというおとこは、いっけんほうまんなようにみえていて、かみそりのようにめはしのきくひと)

正井という男は、一見放漫なように見えていて、剃刀のように目はしのきく人

(だった。そのひとがげんかんからはいったら、そのあとにいってみるとはきものは)

だった。その人が玄関から入ったら、そのあとに行って見ると履き物は

(ひとつのこらずそろえてあって、かさはかさでいちぐうにちゃんとあつめてあった。ようこも)

一つ残らずそろえてあって、傘は傘で一隅にちゃんと集めてあった。葉子も

(およばないすばやさでかびんのはなのしおれかけたのや、ちゃやかしのたしなくなった)

及ばない素早さで花びんの花のしおれかけたのや、茶や菓子の足しなくなった

(のをみてとって、よくじつはわすれずにそれをかいととのえてきた。むくちのくせに)

のを見て取って、翌日は忘れずにそれを買いととのえて来た。無口のくせに

(どこかにあいきょうがあるかとおもうと、ばかわらいをしているさいちゅうにふしぎにいんけんな)

どこかに愛嬌があるかと思うと、ばか笑いをしている最中に不思議に陰険な

(めつきをちらつかせたりした。ようこはそのひとをかんさつすればするほどそのしょうたいが)

目つきをちらつかせたりした。葉子はその人を観察すればするほどその正体が

(わからないようにおもった。それはようこをもどかしくさせるほどだった。ときどき)

わからないように思った。それは葉子をもどかしくさせるほどだった。時々

(ようこはくらちがこのおとことくみあいせつりつのそうだんいがいのひみつらしいはなしあいをしているのに)

葉子は倉地がこの男と組合設立の相談以外の秘密らしい話合いをしているのに

(かんづいたが、それはどうしてもめいかくにしることができなかった。くらちにきいて)

感づいたが、それはどうしても明確に知る事ができなかった。倉地に聞いて

(みても、くらちはれいののんきなたいどでこともなげにわだいをそらしてしまった。)

みても、倉地は例ののんきな態度で事もなげに話題をそらしてしまった。

(ようこはしかしなんといってもじぶんがのぞみうるこうふくのぜっちょうにちかいところにいた。くらちを)

葉子はしかしなんといっても自分が望みうる幸福の絶頂に近い所にいた。倉地を

(よろこばせることがじぶんをよろこばせることであり、じぶんをよろこばせることがくらちをよろこばせることで)

喜ばせる事が自分を喜ばせる事であり、自分を喜ばせる事が倉地を喜ばせる事で

(ある、そうしたさくいのないちょうわはようこのこころをしとやかにかいかつにした。なににでも)

ある、そうした作為のない調和は葉子の心をしとやかに快活にした。何にでも

(じぶんがしようとさえおもえばてきおうしうるようこにとっては、ぬけめのないせわにょうぼうに)

自分がしようとさえ思えば適応しうる葉子に取っては、抜け目のない世話女房に

(なるくらいのことはなんでもなかった。いもうとたちもこのあねをむにのものとして、)

なるくらいの事はなんでもなかった。妹たちもこの姉を無二のものとして、

(あねのしてくれることはいちもにもなくただしいものとおもうらしかった。)

姉のしてくれる事は一も二もなく正しいものと思うらしかった。

(しじゅうようこからままこあつかいにされているあいこさえ、ようこのまえにはただじゅうじゅんな)

始終葉子から継子あつかいにされている愛子さえ、葉子の前にはただ従順な

(しとやかなしょうじょだった。)

しとやかな少女だった。

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