新美南吉 手袋を買いに②/④
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問題文
(くらいくらいよるがふろしきのようなかげをひろげてのはらやもりをつつみにやってきましたが、)
暗い暗い夜が風呂敷のような影をひろげて野原や森を包みにやって来ましたが、
(ゆきはあまりしろいので、つつんでもつつんでもしろくうかびあがっていました。)
雪はあまり白いので、包んでも包んでも白く浮びあがっていました。
(おやこのぎんぎつねはほらあなからでました。)
親子の銀狐は洞穴から出ました。
(こどものほうはおかあさんのおなかのしたへはいりこんで、そこからまんまるなめを)
子供の方はお母さんのお腹の下へはいりこんで、そこからまんまるな眼を
(ぱちぱちさせながら、あっちやこっちをみながらあるいていきました。)
ぱちぱちさせながら、あっちやこっちを見ながら歩いて行きました。
(やがて、ゆくてにぽっつりあかりがひとつみえはじめました。)
やがて、行く手にぽっつりあかりが一つ見え始めました。
(それをこどものきつねがみつけて、「かあちゃん、おほしさまは、)
それを子供の狐が見つけて、「母ちゃん、お星さまは、
(あんなひくいところにもおちてるのねえ」とききました。)
あんな低いところにも落ちてるのねえ」とききました。
(「あれはおほしさまじゃないのよ」といって、そのときかあさんぎつねのあしは)
「あれはお星さまじゃないのよ」と言って、その時母さん狐の足は
(すくんでしまいました。「あれはまちのあかりなんだよ」)
すくんでしまいました。「あれは町の灯なんだよ」
(そのまちのあかりをみたとき、かあさんぎつねは、あるときまちへおともだちとでかけていって、)
その町の灯を見た時、母さん狐は、ある時町へお友達と出かけて行って、
(とんだめにあったことをおもいだしました。)
とんだめにあったことを思い出しました。
(およしなさいっていうのもきかないで、おともだちのきつねが、あるいえのあひるを)
およしなさいっていうのもきかないで、お友達の狐が、或る家の家鴨を
(ぬすもうとしたので、おひゃくしょうにみつかって、さんざおいまくられて、)
盗もうとしたので、お百姓に見つかって、さんざ追いまくられて、
(いのちからがらにげたことでした。)
命からがら逃げたことでした。
(「かあちゃんなにしてんの、はやくいこうよ」とこどものきつねがおなかのしたから)
「母ちゃん何してんの、早く行こうよ」と子供の狐がお腹の下から
(いうのでしたが、かあさんぎつねはどうしてもあしがすすまないのでした。)
言うのでしたが、母さん狐はどうしても足がすすまないのでした。
(そこで、しかたがないので、ぼうやだけをひとりでまちまで)
そこで、しかたがないので、坊やだけを一人で町まで
(いかせることになりました。)
行かせることになりました。
(「ぼうやおててをかたほうおだし」とおかあさんぎつねがいいました。)
「坊やお手々を片方お出し」とお母さん狐がいいました。
(そのてを、かあさんぎつねはしばらくにぎっているあいだに、かわいいにんげんのこどものてに)
その手を、母さん狐はしばらく握っている間に、可愛い人間の子供の手に
(してしまいました。ぼうやのきつねはそのてをひろげたりにぎったり、)
してしまいました。坊やの狐はその手をひろげたり握ったり、
(つねってみたり、かいでみたりしました。)
抓って見たり、嗅いで見たりしました。
(「なんだかへんだなかあちゃん、これなあに?」といって、ゆきあかりに、)
「何だか変だな母ちゃん、これなあに?」と言って、雪あかりに、
(またその、にんげんのてにかえられてしまったじぶんのてをしげしげとみつめました。)
またその、人間の手に変えられてしまった自分の手をしげしげと見つめました。
(「それはにんげんのてよ。いいかいぼうや、まちへいったらね、たくさんにんげんのいえが)
「それは人間の手よ。いいかい坊や、町へ行ったらね、たくさん人間の家が
(あるからね、まずおもてにまるいしゃっぽのかんばんのかかっているいえをさがすんだよ。)
あるからね、まず表に円いシャッポの看板のかかっている家を探すんだよ。
(それがみつかったらね、とんとんととをたたいて、こんばんはっていうんだよ。)
それが見つかったらね、トントンと戸を叩いて、今晩はって言うんだよ。
(そうするとね、なかからにんげんが、すこうしとをあけるからね、そのとのすきまから、)
そうするとね、中から人間が、すこうし戸をあけるからね、その戸の隙間から、
(こっちのて、ほらこのにんげんのてをさしいれてね、このてにちょうどいい)
こっちの手、ほらこの人間の手をさし入れてね、この手にちょうどいい
(てぶくろちょうだいっていうんだよ、わかったね、けっして、こっちのおててをだしちゃ)
手袋頂戴って言うんだよ、わかったね、決して、こっちのお手々を出しちゃ
(だめよ」とかあさんぎつねはいいきかせました。)
駄目よ」と母さん狐は言いきかせました。
(「どうして?」とぼうやのきつねはききかえしました。)
「どうして?」と坊やの狐はききかえしました。
(「にんげんはね、あいてがきつねだとわかると、てぶくろをうってくれないんだよ、)
「人間はね、相手が狐だと解ると、手袋を売ってくれないんだよ、
(それどころか、つかまえておりのなかへいれちゃうんだよ、にんげんってほんとに)
それどころか、掴まえて檻の中へ入れちゃうんだよ、人間ってほんとに
(こわいものなんだよ」)
恐いものなんだよ」
(「ふーん」)
「ふーん」
(「けっして、こっちのてをだしちゃいけないよ、こっちのほう、ほらにんげんのてのほうを)
「決して、こっちの手を出しちゃいけないよ、こっちの方、ほら人間の手の方を
(さしだすんだよ」といって、かあさんのきつねは、もってきたふたつのはくどうかを、)
さしだすんだよ」と言って、母さんの狐は、持って来た二つの白銅貨を、
(にんげんのてのほうへにぎらせてやりました。)
人間の手の方へ握らせてやりました。