フランツ・カフカ 変身⑭
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問題文
(もしぐれごーるがいもうととはなすことができ、かのじょがじぶんのためにしなければならない)
もしグレゴールが妹と話すことができ、彼女が自分のためにしなければならない
(こうしたすべてのことにたいしてれいをいうことができるのであったら、)
こうしたすべてのことに対して礼をいうことができるのであったら、
(かのじょのほうしをもっときがるにうけることができただろう。ところが、かれは)
彼女の奉仕をもっと気軽に受けることができただろう。ところが、彼は
(それがくるしくてたまらなかった。いもうとはむろん、いっさいのことのつらいおもいを)
それが苦しくてたまらなかった。妹はむろん、いっさいのことのつらい思いを
(ぬぐいさろうとつとめていたし、ときがたつにつれてむろんだんだんそれが)
ぬぐい去ろうと努めていたし、時がたつにつれてむろんだんだんそれが
(うまくいくようになったのだが、ぐれごーるもじかんがたつとともに)
うまくいくようになったのだが、グレゴールも時間がたつとともに
(いっさいをはじめのころよりもずっとせいかくにみてとるようになった。)
いっさいをはじめのころよりもずっと正確に見て取るようになった。
(いもうとがへやへあしをふみいれるだけで、かれにはおそろしくてならなかった。)
妹が部屋へ足を踏み入れるだけで、彼には恐ろしくてならなかった。
(ふだんはぐれごーるのへやをだれにもみせまいときをくばっているのだが、)
ふだんはグレゴールの部屋をだれにも見せまいと気をくばっているのだが、
(へやにはいってくるやいなや、どあをしめるてまさえかけようとせず、)
部屋に入ってくるやいなや、ドアを閉める手間さえかけようとせず、
(まっすぐにまどへとはしりよって、まるでいきがつまりそうだといわんばかりのかっこうで)
まっすぐに窓へと走りよって、まるで息がつまりそうだといわんばかりの恰好で
(あわただしくりょうてでまどをひらき、まだいくらさむくてもしばらくまどぎわに)
あわただしく両手で窓を開き、まだいくら寒くてもしばらく窓ぎわに
(たったままでいて、しんこきゅうをする。こうやってはしってさわがしいおとを)
立ったままでいて、深呼吸をする。こうやって走ってさわがしい音を
(たてることで、ぐれごーるをひににどびっくりさせるのだ。そのあいだじゅう、)
立てることで、グレゴールを日に二度びっくりさせるのだ。そのあいだじゅう、
(かれはそふぁのしたでふるえていた。だがかれにはよくわかるのだが、)
彼はソファの下でふるえていた。だが彼にはよくわかるのだが、
(もしぐれごーるがいるへやでまどをしめきっていることができるものならば、)
もしグレゴールがいる部屋で窓を閉め切っていることができるものならば、
(きっとこんなことはやりたくはないのだ。)
きっとこんなことはやりたくはないのだ。
(あるとき、ぐれごーるのへんしんがおこってからはやくもひとつきがたっていたし、)
あるとき、グレゴールの変身が起こってから早くもひと月がたっていたし、
(いもうとももうぐれごーるのすがたをみてびっくりしてしまうかくべつのりゆうなどは)
妹ももうグレゴールの姿を見てびっくりしてしまう格別の理由などは
(なくなっていたのだが、いもうとはいつもよりもすこしはやくやってきて、ぐれごーるが)
なくなっていたのだが、妹はいつもよりも少し早くやってきて、グレゴールが
(みうごきもしないで、ほんとうにおどかすようなかっこうでからだをたてたまま、)
身動きもしないで、ほんとうにおどかすような恰好で身体を立てたまま、
(まどからそとをながめているばめんにぶつかった。いもうとがへやにはいってこなかったと)
窓から外をながめている場面にぶつかった。妹が部屋に入ってこなかったと
(しても、ぐれごーるにとってはいがいではなかったろう。なにしろそういうしせいを)
しても、グレゴールにとっては意外ではなかったろう。なにしろそういう姿勢を
(とっていることで、すぐにまどをあけるじゃまをしていたわけだからだ。)
取っていることで、すぐに窓を開けるじゃまをしていたわけだからだ。
(ところが、いもうとはなかへはいってこないばかりか、うしろへとびのいて、)
ところが、妹はなかへ入ってこないばかりか、うしろへ飛びのいて、
(どあをしめてしまった。みしらぬものならば、ぐれごーるがいもうとのくるのを)
ドアを閉めてしまった。見知らぬ者ならば、グレゴールが妹のくるのを
(まちうかがっていて、いもうとにかみつこうとしているのだ、とおもったことだろう。)
待ちうかがっていて、妹にかみつこうとしているのだ、と思ったことだろう。
(ぐれごーるはむろんすぐそふぁのしたにみをかくしたが、いもうとがまたやってくるまで)
グレゴールはむろんすぐソファの下に身を隠したが、妹がまたやってくるまで
(にはしょうごまでまたねばならなかった。そのことから、じぶんのすがたをみることは)
には正午まで待たねばならなかった。そのことから、自分の姿を見ることは
(いもうとにはまだがまんがならないのだし、これからもいもうとにはずっとがまんできないに)
妹にはまだ我慢がならないのだし、これからも妹にはずっと我慢できないに
(ちがいない、そふぁのしたからでているほんのわずかなからだのぶぶんをみただけでも)
ちがいない、ソファの下から出ているほんのわずかな身体の部分を見ただけでも
(にげだしたいくらいで、にげだしていかないのはよほどじぶんをおさえているに)
逃げ出したいくらいで、逃げ出していかないのはよほど自分を抑えているに
(ちがいないのだ、とかれははっきりしった。いもうとにじぶんのすがたをみせないために、)
ちがいないのだ、と彼ははっきり知った。妹に自分の姿を見せないために、
(かれはあるひ、せなかにあさぬのをのせてそふぁのうえまではこんでいった。ーーこの)
彼はある日、背中に麻布をのせてソファの上まで運んでいった。ーーこの
(しごとにはよじかんもかかったーーそして、じぶんのからだがすっかりかくれて)
仕事には四時間もかかったーーそして、自分の身体がすっかり隠れて
(しまうように、またいもうとがかがみこんでもみえないようにした。もしこのあさぬのは)
しまうように、また妹がかがみこんでも見えないようにした。もしこの麻布は
(ふひつようだといもうとがおもうならば、いもうとはそれをとりはらってしまうこともできるだろう。)
不必要だと妹が思うならば、妹はそれを取り払ってしまうこともできるだろう。
(というのは、からだをこんなふうにすっかりとじこめてしまうことは、)
というのは、身体をこんなふうにすっかり閉じこめてしまうことは、
(ぐれごーるにとってなぐさみごとなんかではないからだ。ところが、いもうとは)
グレゴールにとってなぐさみごとなんかではないからだ。ところが、妹は
(あさぬのをそのままにしておいた。おまけにぐれごーるがいちどあたまであさぬのを)
麻布をそのままにしておいた。おまけにグレゴールが一度頭で麻布を
(ようじんぶかくすこしばかりあげて、いもうとがこのあたらしいしかけをどうおもっているのか)
用心深く少しばかり上げて、妹がこの新しいしかけをどう思っているのか
(みようとしたとき、いもうとのめにかんしゃのいろさえみてとったようにおもったのだった。)
見ようとしたとき、妹の眼に感謝の色さえ見て取ったように思ったのだった。
(さいしょのにしゅうかんには、りょうしんはどうしてもかれのへやにはいってくることが)
最初の二週間には、両親はどうしても彼の部屋に入ってくることが
(できなかった。これまでりょうしんはいもうとをやくたたずのむすめとおもっていたのでしばしば)
できなかった。これまで両親は妹を役立たずの娘と思っていたのでしばしば
(はらをたてていたが、いまのいもうとのしごとぶりをかんぜんにみとめていることを、)
腹を立てていたが、今の妹の仕事ぶりを完全にみとめていることを、
(ぐれごーるはしばしばきいた。ところがりょうしんはしばしば、いもうとがぐれごーるの)
グレゴールはしばしば聞いた。ところが両親はしばしば、妹がグレゴールの
(へやでそうじしているあいだ、ふたりでかれのへやのまえにまちかまえていて、)
部屋で掃除しているあいだ、二人で彼の部屋の前に待ちかまえていて、
(いもうとがでてくるやいなや、へやのなかがどんなようすであるか、ぐれごーるが)
妹が出てくるやいなや、部屋のなかがどんな様子であるか、グレゴールが
(なにをたべたか、そのときかれがどんなたいどをとったか、きっとちょっとかいほうへ)
何を食べたか、そのとき彼がどんな態度を取ったか、きっとちょっと快方へ
(むいているのがみられたのでないか、などとかたってきかせなければ)
向いているのが見られたのでないか、などと語って聞かせなければ
(ならなかった。ところでははおやのほうはひかくてきはやくぐれごーるをたずねてみようと)
ならなかった。ところで母親のほうは比較的早くグレゴールを訪ねてみようと
(おもったのだったが、ちちおやといもうととがまずいろいろりにかなったりゆうをあげて)
思ったのだったが、父親と妹とがまずいろいろ理にかなった理由を挙げて
(ははおやをおしとどめた。それらのりゆうをぐれごーるはきわめてちゅういぶかく)
母親を押しとどめた。それらの理由をグレゴールはきわめて注意深く
(きいていたが、いずれもまったくただしいとおもった。ところが、あとになると)
聞いていたが、いずれもまったく正しいと思った。ところが、あとになると
(ははおやをちからずくでとどめなければならなかった。そして、とめられたははおやが)
母親を力ずくでとどめなければならなかった。そして、とめられた母親が
(「ぐれごーるのところへいかせて!あのこはわたしのかわいそうな)
「グレゴールのところへいかせて! あの子はわたしのかわいそうな
(むすこなんだから!わたしがあのこのところへいかないではいられない)
息子なんだから! わたしがあの子のところへいかないではいられない
(ということが、あんたたちにはわからないの?」とさけぶときには、)
ということが、あんたたちにはわからないの?」と叫ぶときには、
(むろんまいにちではないがおそらくしゅうにいちどはははおやがはいってきたほうが)
むろん毎日ではないがおそらく週に一度は母親が入ってきたほうが
(いいのではないか、とぐれごーるはおもった。なんといってもははおやのほうが)
いいのではないか、とグレゴールは思った。なんといっても母親のほうが
(いもうとよりはばんじをよくこころえているのだ。いもうとはいくらけなげとはいっても)
妹よりは万事をよく心得ているのだ。妹はいくらけなげとはいっても
(まだこどもで、けっきょくはこどもらしいけいそつさからこんなにむずかしいにんむを)
まだ子供で、結局は子供らしい軽率さからこんなにむずかしい任務を
(ひきうけているのだ。)
引き受けているのだ。
(ははおやにあいたいというぐれごーるのねがいは、まもなくかなえられた。)
母親に会いたいというグレゴールの願いは、まもなくかなえられた。