フランツ・カフカ 変身⑯

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(いもうとはぐれごーるにかんするけんのはなしあいではりょうしんにたいしてとくべつじじょうに)

妹はグレゴールに関する件の話合いでは両親に対して特別事情に

(あかるいにんげんとしてのたいどをとることになれていたし、それもまんざらふとうとは)

明るい人間としての態度を取ることに慣れていたし、それもまんざら不当とは

(いえなかった。そこでいまのばあいにも、ははおやのちゅうこくはいもうとにとって、かのじょが)

いえなかった。そこで今の場合にも、母親の忠告は妹にとって、彼女が

(ひとりではじめうごかそうとかんがえていたたんすとつくえとをかたづけるだけではなく、)

ひとりではじめ動かそうと考えていたたんすと机とを片づけるだけではなく、

(どうしてもなくてはならないそふぁはれいがいとして、かぐぜんたいをかたづけようと)

どうしてもなくてはならないソファは例外として、家具全体を片づけようと

(こしつするじゅうぶんなりゆうであった。いもうとがこうしたようきゅうをもちだすようになったのは、)

固執する十分な理由であった。妹がこうした要求をもち出すようになったのは、

(むろんただこどもらしいはんこうしんと、さいきんおもいがけなくも、そしてくろうしてやっと)

むろんただ子供らしい反抗心と、最近思いがけなくも、そして苦労してやっと

(てにいれたじしんとのためばかりではなかった。じっさい、いもうとはぐれごーるが)

手に入れた自信とのためばかりではなかった。実際、妹はグレゴールが

(はいまわるのにはひろいばしょがひつようで、それにはんしてかぐはだれもみてとることが)

はい廻るのには広い場所が必要で、それに反して家具はだれも見て取ることが

(できるようにほんのすこしでもやくにたつわけではない、ということを)

できるようにほんの少しでも役に立つわけではない、ということを

(みてとっていたのだった。だが、おそらくはかのじょのとしごろのしょうじょらしいねっちゅうも)

見て取っていたのだった。だが、おそらくは彼女の年ごろの少女らしい熱中も

(それにくわわったのだろう。そういうねっちゅうしやすいこころは、どんなきかいにも)

それに加わったのだろう。そういう熱中しやすい心は、どんな機会にも

(まんぞくをみいだそうとつとめているのであって、いまはこのぐれーてというしょうじょを)

満足を見出そうと努めているのであって、今はこのグレーテという少女を

(つうじて、ぐれごーるのじょうたいをもっとおそろしいものにして、つぎにいままでいじょうに)

通じて、グレゴールの状態をもっと恐ろしいものにして、つぎに今まで以上に

(ぐれごーるのためにはたらきたいというゆうわくにかられているのだ。というのは、)

グレゴールのために働きたいという誘惑にかられているのだ。というのは、

(がらんとしたしほうのかべをぐれごーるがまったくひとりでしはいしているような)

がらんとした四方の壁をグレゴールがまったくひとりで支配しているような

(へやには、ぐれーていがいのどんなにんげんでもけっしてあえてはいってこようとは)

部屋には、グレーテ以外のどんな人間でもけっしてあえて入ってこようとは

(しないだろう。)

しないだろう。

(そこでいもうとはははおやのちゅうこくによってじぶんのけっしんをひるがえさせられたりしては)

そこで妹は母親の忠告によって自分の決心をひるがえさせられたりしては

(いなかった。ははおやはこのへやでももっぱらふあんのためにおろおろしているように)

いなかった。母親はこの部屋でももっぱら不安のためにおろおろしているように

など

(みえたが、まもなくだまってしまい、たんすをはこびだすことでちからのかぎり)

見えたが、まもなく黙ってしまい、たんすを運び出すことで力の限り

(いもうとをてつだっていた。ところで、たんすはやむをえないとあれば)

妹を手伝っていた。ところで、たんすはやむをえないとあれば

(ぐれごーるとしてもなしですませることができたが、つくえのほうはどうしても)

グレゴールとしてもなしですませることができたが、机のほうはどうしても

(のこさなければならない。ふたりのおんながはあはあいいながらたんすをおして)

残さなければならない。二人の女がはあはあ言いながらたんすを押して

(へやをでていくやいなや、ぐれごーるはそふぁのしたからあたまをつきだし、)

部屋を出ていくやいなや、グレゴールはソファの下から頭を突き出し、

(どうやったらようじんぶかく、できるだけおだやかにこのとりかたづけに)

どうやったら用心深く、できるだけおだやかにこの取り片づけに

(かんしょうできるかをみようとした。だが、あいにく、はじめにもどってきたのは)

干渉できるかを見ようとした。だが、あいにく、はじめにもどってきたのは

(ははおやだった。ぐれーてのほうはりんしつでたんすにしがみつき、それをひとりで)

母親だった。グレーテのほうは隣室でたんすにしがみつき、それをひとりで

(あちこちとゆすっていたが、むろんたんすのいちをうごかすことはできなかった。)

あちこちとゆすっていたが、むろんたんすの位置を動かすことはできなかった。

(だが、ははおやはぐれごーるのすがたをみることになれていない。すがたをみせたら、)

だが、母親はグレゴールの姿を見ることに慣れていない。姿を見せたら、

(ははおやをびょうきにしてしまうかもしれない。そこでぐれごーるはおどろいて)

母親を病気にしてしまうかもしれない。そこでグレゴールは驚いて

(あとしざりしてそふぁのべつなはしまでいそいでいった。だが、あさぬののまえが)

あとしざりしてソファの別なはしまで急いでいった。だが、麻布の前が

(すこしばかりうごくことをさまたげることはもうできなかった。それだけで)

少しばかり動くことを妨げることはもうできなかった。それだけで

(ははおやのちゅういをひくのにはじゅうぶんだった。ははおやはぴたりとあしをとめ、いっしゅんじっと)

母親の注意をひくのには十分だった。母親はぴたりと足をとめ、一瞬じっと

(たっていたが、つぎにぐれーてのところへもどっていった。)

立っていたが、つぎにグレーテのところへもどっていった。

(じつのところなにもいじょうなことがおこっているわけではない、ただひとつふたつのかぐが)

実のところ何も異常なことが起っているわけではない、ただ一つ二つの家具が

(おきかえられるだけだ、とぐれごーるはなんどかじぶんにいいきかせたにも)

置き変えられるだけだ、とグレゴールは何度か自分に言い聞かせたにも

(かかわらず、かれはまもなくみとめないわけにはいかなくなったのだが、)

かかわらず、彼はまもなくみとめないわけにはいかなくなったのだが、

(このおんなたちのでたりはいったり、かのじょらのちいさなかけごえ、ゆかのうえでかぐの)

この女たちの出たり入ったり、彼女らの小さなかけ声、床の上で家具の

(きしむおと、それらはまるでしほうからかずをましていくだいぐんしゅうのように)

きしむ音、それらはまるで四方から数を増していく大群集のように

(かれにはたらきかけ、あたまとあしとをしっかとちぢめてからだをゆかにぴったりとつけて)

彼に働きかけ、頭と脚とをしっかとちぢめて身体を床にぴったりとつけて

(いたけれども、おれはもうこうしたことのすべてをがまんできなくなるだろう、)

いたけれども、おれはもうこうしたことのすべてを我慢できなくなるだろう、

(とどうしてもじぶんにいいきかせないではいられなくなった。おんなたちは)

とどうしても自分に言い聞かせないではいられなくなった。女たちは

(かれのへやをかたづけているのだ。かれにとってしたしかったいっさいのものを)

彼の部屋を片づけているのだ。彼にとって親しかったいっさいのものを

(とりあげるのだ。いとのこやそのほかのどうぐるいがはいっているたんすは、)

取り上げるのだ。糸のこやそのほかの道具類が入っているたんすは、

(ふたりのてでもうはこびだされてしまった。こんどは、ゆかにしっかとめりこんでいる)

二人の手でもう運び出されてしまった。今度は、床にしっかとめりこんでいる

(つくえをぐらぐらうごかしている。かれはしょうかだいがくのがくせいとして、ちゅうがっこうのせいととして、)

机をぐらぐら動かしている。彼は商科大学の学生として、中学校の生徒として、

(いやそればかりでなくしょうがっこうのせいととして、あのつくえのうえでしゅくだいを)

いやそればかりでなく小学校の生徒として、あの机の上で宿題を

(やったものだった。ーーもうじっさい、ふたりのおんなたちのぜんいのいとを)

やったものだった。ーーもう実際、二人の女たちの善意の意図を

(ためしているひまなんかないのだ。それにかれはふたりがいることなどは)

ためしているひまなんかないのだ。それに彼は二人がいることなどは

(ほとんどわすれていた。というのは、ふたりはつかれてしまったためにもうむごんで)

ほとんど忘れていた。というのは、二人は疲れてしまったためにもう無言で

(たちはたらいていて、かのじょたちのどたばたいうおもいあしおとだけしかきこえなかった。)

立ち働いていて、彼女たちのどたばたいう重い足音だけしか聞こえなかった。

(そこでかれははいでていきーーおんなたちはちょうどりんしつですこしばかりいきを)

そこで彼ははい出ていきーー女たちはちょうど隣室で少しばかり息を

(いれようとしてつくえによりかかっているところだったーーすすむほうこうをよんど)

入れようとして机によりかかっているところだったーー進む方向を四度

(かえたが、まずなにをすくうべきか、ほんとうにわからなかった。そのとき、)

変えたが、まず何を救うべきか、ほんとうにわからなかった。そのとき、

(ほかはすっかりがらんとしてしまったかべに、すぐめだつようにれいのけがわずくめの)

ほかはすっかりがらんとしてしまった壁に、すぐ目立つように例の毛皮ずくめの

(きふじんのしゃしんがかかっているのをみた。そこで、いそいではいあがっていき、)

貴婦人の写真がかかっているのを見た。そこで、急いではい上がっていき、

(がくのがらすにぴたりとからだをおしつけた。がらすはしっかりとかれのからだを)

額のガラスにぴたりと身体を押しつけた。ガラスはしっかりと彼の身体を

(ささえ、かれのあついはらにかいかんをあたえた。すくなくとも、ぐれごーるがいまこうやって)

ささえ、彼の熱い腹に快感を与えた。少なくとも、グレゴールが今こうやって

(すっかりおおいかくしているこのしゃしんだけはきっとだれももちさりはすまい。)

すっかり被い隠しているこの写真だけはきっとだれも持ち去りはすまい。

(かれはおんなたちがもどってくるのをみようとして、いまのどあのほうへあたまをむけた。)

彼は女たちがもどってくるのを見ようとして、居間のドアのほうへ頭を向けた。

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