フランツ・カフカ 変身㉑
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問題文
(あるとき、ははおやがぐれごーるのへやのおおそうじをくわだてた。ははおやはただに、さんばいの)
あるとき、母親がグレゴールの部屋の大掃除を企てた。母親はただ二、三杯の
(ばけつのみずをつかうことだけでそのそうじをやりおえることができた。)
バケツの水を使うことだけでその掃除をやり終えることができた。
(ーーとはいっても、へやがびしょぬれになってぐれごーるはきげんを)
ーーとはいっても、部屋がびしょぬれになってグレゴールは機嫌を
(そこねてしまい、そふぁのうえにどっかと、はらだたしげにみうごきもしないで)
そこねてしまい、ソファの上にどっかと、腹立たしげに身動きもしないで
(かまえていたーーところが、ははおやにそのばつがおとずれないではいなかった。)
構えていたーーところが、母親にその罰が訪れないではいなかった。
(というのは、ゆうがた、いもうとがぐれごーるのへやのへんかにきづくやいなや、かのじょは)
というのは、夕方、妹がグレゴールの部屋の変化に気づくやいなや、彼女は
(ひどくぶじょくされたとかんじていまにかけこみ、ははおやがりょうてをたかくあげて)
ひどく侮辱されたと感じて居間にかけこみ、母親が両手を高く上げて
(たんがんするにもかかわらず、みをふるわせてなきはじめた。りょうしんはーーちちおやはむろん)
嘆願するにもかかわらず、身をふるわせて泣き始めた。両親はーー父親はむろん
(あんらくいすからびっくりしてはねおきたのだったーーはじめはそれに)
安楽椅子からびっくりして跳ね起きたのだったーーはじめはそれに
(びっくりして、とほうにくれてながめていたが、ついにふたりもうごきだした。)
びっくりして、途方にくれてながめていたが、ついに二人も動き出した。
(みぎがわではちちおやが、ぐれごーるのへやのそうじはいもうとにまかせておかなかったと)
右側では父親が、グレゴールの部屋の掃除は妹にまかせておかなかったと
(いうのでははおやをせめるし、ひだりがわではいもうとのほうが、もうにどとぐれごーるのへやの)
いうので母親を責めるし、左側では妹のほうが、もう二度とグレゴールの部屋の
(そうじはしてやらないとわめく。ははおやは、こうふんしてわれをわすれているちちおやを)
掃除はしてやらないとわめく。母親は、興奮してわれを忘れている父親を
(しんしつへひきずっていこうとする。いもうとはなきじゃくってからだをふるわせながら、)
寝室へひきずっていこうとする。妹は泣きじゃくって身体をふるわせながら、
(ちいさなこぶしでてーぶるをどんどんたたく。そしてぐれごーるは、どあをしめて、)
小さな拳でテーブルをどんどんたたく。そしてグレゴールは、ドアを閉めて、
(じぶんにこんなこうけいとさわぎとをみせないようにしようとだれも)
自分にこんな光景とさわぎとを見せないようにしようとだれも
(おもいつかないことにはらをたてて、おおきなおとをだしてしっしっというのだった。)
思いつかないことに腹を立てて、大きな音を出してしっしっというのだった。
(しかし、たといいもうとがつとめでつかれきってしまい、いぜんのようにぐれごーるのせわを)
しかし、たとい妹が勤めで疲れきってしまい、以前のようにグレゴールの世話を
(することにあきあきしてしまっても、ははおやはけっしていもうとのかわりをするひつようは)
することにあきあきしてしまっても、母親はけっして妹のかわりをする必要は
(ないし、ぐれごーるもほったらかしにされるしんぱいはなかったろう。というのは、)
ないし、グレゴールもほったらかしにされる心配はなかったろう。というのは、
(いまではれいのてつだいばあさんがいたのだ。ながいいっしょうをそのたくましいほねぶとのからだの)
今では例の手伝い婆さんがいたのだ。長い一生をそのたくましい骨太の身体の
(たすけできりぬけてきたようにみえるこのごけばあさんは、ぐれごーるをそれほど)
助けで切り抜けてきたように見えるこの後家婆さんは、グレゴールをそれほど
(きらわなかった。あるとき、べつにこうきしんにかられたというのでもなく、ぐうぜん、)
嫌わなかった。あるとき、別に好奇心に駆られたというのでもなく、偶然、
(ぐれごーるのへやのどあをあけ、だれもおいたてるわけでもないのに)
グレゴールの部屋のドアを開け、だれも追い立てるわけでもないのに
(ひどくおどろいてしまったぐれごーるがあちこちとはいまわりはじめたのをながめると、)
ひどく驚いてしまったグレゴールがあちこちとはい廻り始めたのをながめると、
(りょうてをはらのうえにあわせてぽかんとたちどまっているのだった。それいらい、)
両手を腹の上に合わせてぽかんと立ちどまっているのだった。それ以来、
(つねにあさばんちょっとのあいだどあをすこしばかりあけて、ぐれごーるのほうを)
つねに朝晩ちょっとのあいだドアを少しばかり開けて、グレゴールのほうを
(のぞきこむことをわすれなかった。はじめのうちは、ぐれごーるをじぶんのほうに)
のぞきこむことを忘れなかった。はじめのうちは、グレゴールを自分のほうに
(よぼうとするのだった。それには、「こっちへおいで、かぶとむしのじいさん!」)
呼ぼうとするのだった。それには、「こっちへおいで、かぶと虫のじいさん!」
(とか、「ちょっとあのかぶとむしのじいさんをごらんよ」とか、おそらくばあさんが)
とか、「ちょっとあのかぶと虫のじいさんをごらんよ」とか、おそらく婆さんが
(したしげなものとかんがえているらしいことばをかけてくるのだった。)
親しげなものと考えているらしい言葉をかけてくるのだった。
(こうしたよびかけにたいしてぐれごーるはぜんぜんへんじをせずに、どあがまったく)
こうした呼びかけに対してグレゴールは全然返事をせずに、ドアがまったく
(あけられなかったかのように、じぶんのいばしょからうごかなかった。)
開けられなかったかのように、自分の居場所から動かなかった。
(このてつだいばあさんにきまぐれでやくにもたたぬじゃまなんかさせていないで、)
この手伝い婆さんに気まぐれで役にも立たぬじゃまなんかさせていないで、
(むしろかれのへやをまいにちそうじするようにめいじたほうがよかったろうにーー)
むしろ彼の部屋を毎日掃除するように命じたほうがよかったろうにーー
(あるそうちょうのことーーはげしいあめががらすまどをうっていた。おそらくすでに)
ある早朝のことーーはげしい雨がガラス窓を打っていた。おそらくすでに
(はるがちかいしるしだろうーーてつだいばあさんがまたれいのよびかけをはじめたとき、)
春が近いしるしだろうーー手伝い婆さんがまた例の呼びかけを始めたとき、
(ぐれごーるはすっかりはらをたてたので、たしかにのろのろとおぼつかなげにでは)
グレゴールはすっかり腹を立てたので、たしかにのろのろとおぼつかなげにでは
(あったが、ばあさんにむかってこうげきのみがまえをみせた。ところが、てつだいばあさんは)
あったが、婆さんに向って攻撃の身構えを見せた。ところが、手伝い婆さんは
(おそれもせずに、ただどあのすぐちかくにあったいすをたかくふりあげた。)
恐れもせずに、ただドアのすぐ近くにあった椅子を高く振り上げた。
(おおきくくちをあけてたちはだかっているようすをみると、てにしたいすが)
大きく口を開けて立ちはだかっている様子を見ると、手にした椅子が
(ぐれごーるのせなかにふりおろされたらはじめてくちをふさぐつもりなのだ、)
グレゴールの背中に振り下ろされたらはじめて口をふさぐつもりなのだ、
(ということをあきらかにしめしていた。「それじゃあ、それっきりなのかい」と、)
ということを明らかに示していた。「それじゃあ、それっきりなのかい」と、
(ぐれごーるがまたむきなおるのをみていい、いすをおとなしくへやのかたすみに)
グレゴールがまた向きなおるのを見て言い、椅子をおとなしく部屋の片隅に
(もどした。)
もどした。
(ぐれごーるはいまではもうほとんどなにもたべなくなっていた。ただ、よういされた)
グレゴールは今ではもうほとんど何も食べなくなっていた。ただ、用意された
(たべもののそばをぐうぜんとおりすぎるときにだけ、あそびはんぶんにひとかけくちのなかに)
食べもののそばを偶然通り過ぎるときにだけ、遊び半分に一かけ口のなかに
(いれるが、なんじかんでもくちのなかにいれておいて、それからたいていは)
入れるが、何時間でも口のなかに入れておいて、それからたいていは
(はきだすのだ。はじめは、かれにしょくじをさせなくしているのは、このへやの)
吐き出すのだ。はじめは、彼に食事をさせなくしているのは、この部屋の
(じょうたいをかなしむきもちからだ、とかんがえていたが、へやがいろいろかわることには)
状態を悲しむ気持からだ、と考えていたが、部屋がいろいろ変わることには
(すぐになれてしまった。ほかのところにはおくことができないしなものは)
すぐに慣れてしまった。ほかのところには置くことができない品物は
(このへやにおくというしゅうかんになってしまっていたが、そうしたしなものは)
この部屋に置くという習慣になってしまっていたが、そうした品物は
(たくさんあった。じゅうきょのいっしつをさんにんのおとこのげしゅくにんにかしたからだった。)
たくさんあった。住居の一室を三人の男の下宿人に貸したからだった。
(このきまじめなひとたちはーーぐれごーるがあるときどあのすきまから)
このきまじめな人たちはーーグレゴールがあるときドアのすきまから
(かくにんしたところによると、さんにんともかおじゅうひげをはやしていたーーひどく)
確認したところによると、三人とも顔じゅう髭を生やしていたーーひどく
(せいとんがすきで、ただじぶんたちのへやばかりではなく、ひとたびこのいえに)
整頓が好きで、ただ自分たちの部屋ばかりではなく、ひとたびこの家に
(まがりするようになったからには、いえぜんたいについて、ことにだいどころでの)
間借りするようになったからには、家全体について、ことに台所での
(せいとんのことにきをくばった。ふひつようなものやきたないがらくたには)
整頓のことに気をくばった。不必要なものや汚いがらくたには
(がまんできなかった。そのうえ、かれらはちょうどひんのだいぶぶんはじぶんたちのものを)
我慢できなかった。その上、彼らは調度品の大部分は自分たちのものを
(もってきていた。そのためにおおくのしなものはふようとなったが、それらは)
もってきていた。そのために多くの品物は不要となったが、それらは
(うるわけにもいかないし、さりとてすててしまいたくもないのだった。)
売るわけにもいかないし、さりとて捨ててしまいたくもないのだった。
(そうしたしなものがみなぐれごーるのへやにうつされてきた。そんなふうにして、)
そうした品物がみなグレゴールの部屋に移されてきた。そんなふうにして、
(はいすてばことくずばことがだいどころからやってきた。およそいまのところふようなものは、)
灰捨て箱とくず箱とが台所からやってきた。およそ今のところ不要なものは、
(いつでもひどくせっかちなてつだいばあさんがかんたんにぐれごーるのへやへ)
いつでもひどくせっかちな手伝い婆さんが簡単にグレゴールの部屋へ
(なげいれてしまう。ありがたいことに、ぐれごーるにはたいていは)
投げ入れてしまう。ありがたいことに、グレゴールにはたいていは
(はこばれてくるしなものとそれをもっているてとしかみえなかった。てつだいばあさんは)
運ばれてくる品物とそれをもっている手としか見えなかった。手伝い婆さんは
(おそらく、いつかきかいをみてそれらのしなものをまたとりにくるか、あるいは)
おそらく、いつか機会を見てそれらの品物をまた取りにくるか、あるいは
(ぜんぶをひとまとめにしてなげすてるかするつもりだったのだろうが、じっさいには)
全部を一まとめにして投げ捨てるかするつもりだったのだろうが、実際には
(それらをさいしょなげいれたばしょにほうりぱなしにしておいた。しかし、)
それらを最初投げ入れた場所にほうりぱなしにしておいた。しかし、
(ぐれごーるはがらくたがじゃまになって、まがりくねってあるかなければ)
グレゴールはがらくたがじゃまになって、まがりくねって歩かなければ
(ならなかったので、それをうごかすことがあった。はじめはそうしないと)
ならなかったので、それを動かすことがあった。はじめはそうしないと
(はいまわるばしょがなくなるのでしかたなしにやったのだが、のちにはだんだん)
はい廻る場所がなくなるのでしかたなしにやったのだが、のちにはだんだん
(それがおもしろくなったのだった。そうはいうものの、そんなふうに)
それが面白くなったのだった。そうはいうものの、そんなふうに
(はいまわったあとではしぬほどつかれてしまってかなしくなり、またもやなんじかんも)
はい廻ったあとでは死ぬほど疲れてしまって悲しくなり、またもや何時間も
(うごかないでいるのだった。)
動かないでいるのだった。