江戸川乱歩 屋根裏の散歩者②

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(ふたりがしりあいになったきっかけは、あるかふぇでかれらがぐうぜん)

二人が知り合いになったきっかけは、あるカフェで彼らが偶然

(いっしょになり、そのときどうはんしていたさぶろうのともだちが、あけちをしっていて)

一緒になり、その時同伴していた三郎の友達が、明智を知っていて

(しょうかいしたことからでしたが、さぶろうはそのとき、あけちのそうめいらしいようぼうや、)

紹介したことからでしたが、三郎はその時、明智の聰明らしい容貌や、

(はなしっぷりや、みのこなしなどに、すっかりひきつけられてしまって、)

話しっぷりや、身のこなしなどに、すっかり引きつけられてしまって、

(それからしばしばかれをたずねるようになり、またときにはかれのほうからも)

それからしばしば彼を訪ねる様になり、又時には彼の方からも

(さぶろうのげしゅくへあそびにやってくるようななかになったのです。あけちのほうでは、)

三郎の下宿へ遊びにやって来る様な仲になったのです。明智の方では、

(ひょっとしたら、さぶろうのびょうてきなせいかくに--いっしゅのけんきゅうざいりょうとして--)

ひょっとしたら、三郎の病的な性格に--一種の研究材料として--

(きょうみをみいだしていたのかもしれませんが、さぶろうはあけちからさまざまのみりょくにとんだ)

興味を見出していたのかも知れませんが、三郎は明智から様々の魅力に富んだ

(はんざいだんをきくことを、たいなくよろこんでいるのでした。)

犯罪談を聞くことを、他意なく喜んでいるのでした。

(どうりょうをさつがいして、そのしたいをじっけんしつのかまどではいにしてしまおうとした、)

同僚を殺害して、その死体を実験室の竈で灰にしてしまおうとした、

(うぇぶすたーはかせのはなし、)

ウェブスター博士の話、

(すうかこくのことばにつうぎょうし、げんごがくじょうのだいはっけんまでした)

数ヶ国の言葉に通暁し、言語学上の大発見までした

(ゆーじん・えあらむのさつじんざい、)

ユージン・エアラムの殺人罪、

(いわゆるほけんまで、どうじにすぐれたぶんげいひひょうかであった)

いわゆる保健魔で、同時に優れた文芸批評家であった

(うえーんらいとのはなし、)

ウエーンライトの話、

(しょうにのでんにくをせんじてぎふのらいびょうをなおそうとした)

小児の臀肉を煎じて義父のライ病を治そうとした

(のぐちおさぶろうのはなし、)

野口男三郎の話、

(さては、あまたのおんなをにょうぼうにしてはころしていったいわゆる)

さては、数多の女を女房にしては殺して行ったいわゆる

(ぶるーべやどのらんどるーだとか、あーむすとろんぐなどのざんぎゃくなはんざいだん、)

ブルーベヤドのランドルーだとか、アームストロングなどの残虐な犯罪談、

(それらがたいくつしきっていたごうださぶろうをどんなによろこばせたことでしょう。)

それらが退屈し切っていた郷田三郎をどんなに喜ばせたことでしょう。

など

(あけちのゆうべんなはなしぶりをきいていますと、それらのはんざいものがたりは、まるで、)

明智の雄弁な話しぶりを聞いていますと、それらの犯罪物語は、まるで、

(けばけばしいごくさいしきのえまきもののように、そこしれぬみりょくをもって、)

けばけばしい極彩色の絵巻物の様に、底知れぬ魅力をもって、

(さぶろうのがんぜんにまざまざとうかんでくるのでした。)

三郎の眼前にまざまざと浮んで来るのでした。

(あけちをしってからにさんかげつというものは、さぶろうはほとんどこのよのあじけなさを)

明智を知ってから二三ヶ月というものは、三郎は殆どこの世の味気なさを

(わすれたかとみえました。かれはさまざまのはんざいにかんするしょもつをかいこんで、)

忘れたかと見えました。彼は様々の犯罪に関する書物を買込んで、

(まいにちまいにちそれによみふけるのでした。それらのしょもつのなかには、)

毎日毎日それに読み耽るのでした。それらの書物の中には、

(ぽおだとかほふまんだとか、あるいはがぼりおだとかぼあごべだとか、そのほか)

ポオだとかホフマンだとか、或いはガボリオだとかボアゴベだとか、その外

(いろいろなたんていしょうせつなどもまざっていました。)

色々な探偵小説なども混ざっていました。

(「ああよのなかには、まだこんなおもしろいことがあったのか」)

「アア世の中には、まだこんな面白いことがあったのか」

(かれはしょもつのさいしゅうのぺーじをとじるたびごとに、ほっとためいきをつきながら、)

彼は書物の最終の頁をとじる度毎に、ホッとため息をつきながら、

(そうおもうのでした。そして、できることなら、じぶんも、)

そう思うのでした。そして、出来ることなら、自分も、

(それらのはんざいものがたりのしゅじんこうのような、めざましい、けばけばしいゆうぎ(?)を)

それらの犯罪物語の主人公の様な、目ざましい、けばけばしい遊戯(?)を

(やってみたいものだと、だいそれたことまでかんがえるようになりました。)

やって見たいものだと、大それたことまで考える様になりました。

(しかし、いかなさぶろうも、さすがにほうりつじょうのざいにんになることだけは、)

しかし、いかな三郎も、流石に法律上の罪人になることだけは、

(どうかんがえてもいやでした。かれはまだ、りょうしんや、きょうだいや、しんせきちきなどの)

どう考えてもいやでした。彼はまだ、両親や、兄弟や、親戚知己などの

(ひたんやぶじょくをむししてまで、たのしみにふけるゆうきはないのです。)

悲歎や侮辱を無視してまで、楽しみに耽る勇気はないのです。

(それらのしょもつによりますと、どのようなこうみょうなはんざいでも、)

それらの書物によりますと、どの様な巧妙な犯罪でも、

(かならずどっかにはたんがあって、それがはんざいはっかくのいとぐちになり、)

必ずどっかに破綻があって、それが犯罪発覚のいと口になり、

(いっしょうがいけいさつのめをのがれているということは、ごくわずかのれいがいをのぞいては、)

一生涯警察の眼を逃れているということは、極く僅かの例外を除いては、

(まったくふかのうのようにみえます。かれにはただそれがおそろしいのでした。)

まったく不可能の様に見えます。彼にはただそれが恐ろしいのでした。

(かれのふこうは、よのなかのすべてのことがらにきょうみをかんじないで、こともあろうに)

彼の不幸は、世の中の凡ての事柄に興味を感じないで、事もあろうに

(「はんざい」にだけ、いいしれぬみりょくをおぼえることでした。)

「犯罪」にだけ、いい知れぬ魅力を覚えることでした。

(そして、いっそうのふこうは、はっかくをおそれるためにその「はんざい」を)

そして、一層の不幸は、発覚を恐れる為にその「犯罪」を

(おこないえないということでした。)

行い得ないということでした。

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