江戸川乱歩 D坂④

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1 甘木風寧(週末演 4984 B 5.2 94.4% 593.0 3141 185 52 2024/03/11
2 ねね 4445 C+ 4.5 97.6% 669.5 3048 72 52 2024/04/12

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問題文

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(ふだんから、はんざいだたんていだと、ぎろんだけはなかなかいちにんまえにやってのけるわたしだが、)

普段から、犯罪だ探偵だと、議論だけはなかなか一人前にやってのける私だが、

(さてじっさいにぶっつかったのははじめてだ。てのつけようがない。)

さて実際に打っつかったのは初めてだ。手のつけ様がない。

(わたしは、ただ、まじまじとへやのようすをながめているほかはなかった。)

私は、ただ、まじまじと部屋の様子を眺めているほかはなかった。

(へやはひとまきりのろくじょうで、おくのほうは、みぎいっけんは)

部屋は一間(ひとま)切りの六畳で、奥の方は、右一間(いっけん)は

(はばのせまいえんがわをへだてて、ふたつぼばかりのにわとべんじょがあり、にわのむこうは)

幅の狭い縁側をへだてて、二坪ばかりの庭と便所があり、庭の向こうは

(いたべいになっている。--なつのことで、あけぱなしだから、すっかり、)

板塀になっている。--夏のことで、開けぱなしだから、すっかり、

(みとおしなのだ、--ひだりはんげんはひらきどで、そのおくににじょうじきほどの)

見通しなのだ、--左半間(はんげん)は開き戸で、その奥に二畳敷き程の

(いたのまがありうらぐちにせっしてせまいながしばがみえ、そこのこしだかしょうじは)

板の間があり裏口に接して狭い流し場が見え、そこの腰高障子は

(しまっている。むかってみぎがわは、よんまいのふすまがしまっていて、なかは)

閉まっている。向かって右側は、四枚の襖が閉まっていて、中は

(にかいへのかいだんとものいればになっているらしい。ごくありふれたやすながやのまどりだ。)

二階への階段と物入場になっているらしい。ごくありふれた安長屋の間取りだ。

(しがいは、ひだりがわのかべよりに、みせのまのほうをあたまにしてたおれている。)

死骸は、左側の壁寄りに、店の間の方を頭にして倒れている。

(わたしは、なるべくきょうこうとうじのもようをみだすまいとして、ひとつはきみもわるかったので、)

私は、なるべく凶行当時の模様を乱すまいとして、一つは気味も悪かったので、

(しがいのそばへよらないようにしていた。でも、せまいへやのことであり、)

死骸の側へ寄らない様にしていた。でも、狭い部屋のことであり、

(みまいとしても、しぜんそのほうにめがいくのだ。おんなはあらいちゅうがたもようのゆかたをきて、)

見まいとしても、自然その方に目が行くのだ。女は荒い中形模様の浴衣を着て、

(ほとんどあおむきにたおれている。しかし、きものがひざのうえのほうまでまくれて、)

殆ど仰向きに倒れている。しかし、着物が膝の上の方までまくれて、

(ももがむきだしになっているくらいで、べつにていこうしたようすはない。)

股(もも)がむき出しになっている位で、別に抵抗した様子はない。

(くびのところは、よくはわからぬが、どうやら、しめられたきずが)

首の所は、よくは分らぬが、どうやら、絞められた痕(きず)が

(むらさきいろになっているらしい。)

紫色になっているらしい。

(おもてのおおどおりにはおうらいがたえない。こわだかにはなしあって、)

表の大通りには往来が絶えない。声高に話し合って、

(からからとひよりげたをひきずっていくのや、さけによってはやりうたを)

カラカラと日和下駄を引きずって行くのや、酒に酔って流行唄を

など

(どなっていくのや、しごくてんかたいへいなことだ。そして、しょうじひとえのいえのなかには、)

どなって行くのや、至極天下泰平なことだ。そして、障子一重の家の中には、

(ひとりのおんながざんさつされてよこたわっている。なんというひにくだ。)

一人の女が惨殺されて横たわっている。何という皮肉だ。

(わたしはみょうにせんてぃめんたるになって、ぼうぜんとたたずんでいた。)

私は妙にセンティメンタルになって、呆然と佇んでいた。

(「すぐくるそうですよ」)

「すぐ来るそうですよ」

(あけちがいきをきってかえってきた。)

明智が息を切って帰って来た。

(「あ、そう」)

「あ、そう」

(わたしはなんだかくちをきくのもたいぎになっていた。)

私は何だか口を利くのも大儀になっていた。

(ふたりはながいあいだ、ひとこともいわないでかおをみあわせていた。)

二人は長い間、一言も云わないで顔を見合わせていた。

(まもなく、ひとりのせいふくのけいかんがせびろのおとことつれだってやってきた。)

間もなく、一人の正服の警官が背広の男と連れ立ってやって来た。

(せいふくのほうは、あとでしったのだが、kけいさつしょのしほうしゅにんで、もうひとりは、)

正服の方は、後で知ったのだが、K警察署の司法主任で、もう一人は、

(そのかおつきやもちものでもわかるように、おなじしょにぞくするけいさついだった。)

その顔つきや持ち物でも分る様に、同じ署に属する警察医だった。

(わたしたちはしほうしゅにんに、さいしょからのじじょうをほぼせつめいした。そして、わたしは)

私達は司法主任に、最初からの事情を大略説明した。そして、私は

(こうつけくわえた。)

こう附け加えた。

(「このあけちくんがかふぇへはいってきたとき、ぐうぜんとけいをみたのですが、)

「この明智君がカフェへ入って来た時、偶然時計を見たのですが、

(ちょうどはちじはんごろでしたから、このしょうじのこうしがしまったのは、おそらく)

丁度八時半頃でしたから、この障子の格子が閉まったのは、恐らく

(はちじごろだったとおもいます。そのときはたしかなかにはでんとうがついていました。)

八時頃だったと思います。その時は確か中には電燈がついていました。

(ですから、すくなくともはちじごろには、だれかいきたにんげんが)

ですから、少なくとも八時頃には、誰か生きた人間が

(このへやにいたことはあきらかです」)

この部屋にいたことは明らかです」

(しほうしゅにんがわたしたちのちんじゅつをききとって、てちょうにかきとめているあいだに、)

司法主任が私達の陳述を聞き取って、手帳に書き留めている間に、

(けいさついはいちおうしたいのけんしんをすませていた。かれはわたしたちのことばの)

警察医は一応死体の検診を済ませていた。彼は私達の言葉の

(とぎれるのをまっていった。)

とぎれるのを待って云った。

(「こうさつですね。てでやられたのです。これごらんなさい。)

「絞殺ですね。手でやられたのです。これ御覧なさい。

(このむらさきいろになっているのがゆびのあとです。それから、このしゅっけつしているのは)

この紫色になっているのが指の痕です。それから、この出血しているのは

(つめがあたったかしょですよ。おやゆびのあとがくびのみぎがわについているのをみると、)

爪が当った箇所ですよ。親指の痕が首の右側についているのを見ると、

(みぎてでやったものですね。そうですね。おそらくしごいちじかんいじょうは)

右手でやったものですね。そうですね。恐らく死後一時間以上は

(たっていないでしょう。しかし、むろんもうそせいのみこみはありません」)

たっていないでしょう。しかし、無論もう蘇生の見込みはありません」

(「うえからおさえつけたのですね」しほうしゅにんがかんがえかんがえいった。「しかし、)

「上から押さえつけたのですね」司法主任が考え考え云った。「しかし、

(それにしては、ていこうしたようすがないが・・・おそらくひじょうに)

それにしては、抵抗した様子がないが・・・恐らく非常に

(きゅうげきにやったのでしょうね。ひどいちからで」)

急激にやったのでしょうね。ひどい力で」

(それから、かれはわたしたちのほうをむいて、このいえのしゅじんはどうしたのだとたずねた。)

それから、彼は私達の方を向いて、この家の主人はどうしたのだと尋ねた。

(だが、むろんわたしたちがしっているはずはない。そこで、あけちはきをきかして、)

だが、無論私達が知っている筈はない。そこで、明智は気を利かして、

(りんかのとけいやのしゅじんをよんできた。)

隣家の時計屋の主人を呼んで来た。

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