江戸川乱歩 赤い部屋①

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1 123 6272 S 6.4 96.7% 296.2 1922 64 33 2024/10/25

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問題文

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(いじょうなこうふんをもとめてあつまった、しちにんのしかつめらしいおとこが(わたしも)

異常な興奮を求めて集まった、七人のしかつめらしい男が(私も

(そのなかのひとりだった)わざわざそのためにしつらえた「あかいへや」の、)

その中の一人だった)わざわざその為にしつらえた「赤い部屋」の、

(ひいろのびろーどではったふかいひじかけいすにもたれこんで、)

緋色の天鵞絨(ビロード)で張った深い肘掛椅子に凭れ込んで、

(こんばんのはなしてがなにごとかかいいなものがたりをはなしだすのを、)

今晩の話し手が何事か怪異な物語を話し出すのを、

(いまかいまかとまちかまえていた。)

今か今かと待ち構えていた。

(しちにんのまんなかには、これもひいろのびろーどでおおわれた)

七人の真ん中には、これも緋色の天鵞絨で覆われた

(ひとつのおおきなまるてーぶるのうえに、こふうなちょうこくのあるしょくだいにさされた、)

一つの大きな円(まる)テーブルのうえに、古風な彫刻のある燭台にさされた、

(さんちょうのふといろうそくがゆらゆらとかすかにゆれながらもえていた。)

三挺の太い蝋燭がユラユラと幽かに揺れながら燃えていた。

(へやのししゅうには、まどやいりぐちのどあさえのこさないで、てんじょうからゆかまで、)

部屋の四周には、窓や入り口のドアさえ残さないで、天井から床まで、

(まっかなおもおもしいたれぎぬがゆたかなひだをつくってかけられていた。)

真っ紅な重々しい垂絹が豊かな襞を作って懸けられていた。

(ろまんちっくなろうそくのひかりが、そのじょうみゃくからながれだしたばかりのちのようにも、)

ロマンチックな蝋燭の光が、その静脈から流れ出したばかりの血の様にも、

(どすぐろいいろをしたたれぎぬのおもてに、われわれしちにんのいようにおおきなかげぼうしをなげていた。)

ドス黒い色をした垂絹の表に、我々七人の異様に大きな影法師を投げていた。

(そして、そのかげぼうしは、ろうそくのほのおにつれて、)

そして、その影法師は、蝋燭の焔につれて、

(いくつかのきょだいなこんちゅうでもあるかのように、たれぎぬのひだのきょくせんのうえを、)

幾つかの巨大な昆虫でもあるかの様に、垂絹の襞の曲線の上を、

(のびたりちぢんだりしながらはいあるいていた。)

伸びたり縮んだりしながら這い歩いていた。

(いつもながらそのへやは、わたしを、ちょうどとほうもなくおおきなせいぶつの)

いつもながらその部屋は、私を、丁度とほうもなく大きな生物の

(しんぞうのなかにすわってでもいるようなきもちにした。わたしにはそのしんぞうが、)

心臓の中に坐ってでもいる様な気持にした。私にはその心臓が、

(おおきさにそうおうしたのろさをもって、どきんどきんとみゃくうつおとさえ)

大きさに相応したのろさを以って、ドキンドキンと脈うつ音さえ

(かんじられるようにおもえた。)

感じられる様に思えた。

(だれもものをいわなかった。わたしはろうそくをすかして、むこうがわにこしかけたひとたちの)

誰も物を云わなかった。私は蝋燭をすかして、向こう側に腰掛けた人達の

など

(あかぐろくみえるかげのおおいかおを、なんということなしにみつめていた。)

赤黒く見える影の多い顔を、何ということなしに見つめていた。

(それらのかおは、ふしぎにも、おのうのめんのように)

それらの顔は、不思議にも、お能の面の様に

(むひょうじょうにびどうさえしないかとおもわれた。)

無表情に微動さえしないかと思われた。

(やがて、こんばんのはなしてとさだめられたしんにゅうかいいんのtしは、)

やがて、今晩の話し手と定められた新入会員のT氏は、

(こしかけたままで、じっとろうそくのひをみつめながら、つぎのようにはなしはじめた。)

腰掛けたままで、じっと蝋燭の火を見つめながら、次の様に話し始めた。

(わたしは、いんえいのかげんでがいこつのようにみえるかれのあごが、)

私は、陰影の加減で骸骨の様に見える彼の顎が、

(ものをいうたびにがくがくとものさびしくあわさるようすを、)

物を云う度にガクガクと物淋しく合わさる様子を、

(きかいなからくりじかけのいきにんぎょうでもみるようなきもちでながめていた。)

奇怪なからくり仕掛けの生き人形でも見る様な気持で眺めていた。

(ーーわたしは、じぶんではたしかにしょうきのつもりでいますし、ひともまた)

ーー私は、自分では確かに正気のつもりでいますし、人もまた

(そのようにとりあつかってくれていますけれど、まったくしょうきなのかどうか)

その様に取り扱ってくれていますけれど、 真実(まったく)正気なのかどうか

(わかりません。とにかく、わたしというにんげんは、ふしぎなほどこのよのなかが)

分りません。兎に角、私という人間は、不思議な程この世の中が

(つまらないのです。いきているということが、もうもうたいくつで)

つまらないのです。生きているということが、もうもう退屈で

(しようがないのです。)

仕様がないのです。

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