江戸川乱歩 赤い部屋⑦
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 123 | 6266 | S | 6.3 | 98.1% | 320.1 | 2045 | 39 | 33 | 2024/10/25 |
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問題文
(これはそのあとわたしがじっさいやってみてせいこうしたことなのですが、)
これはその後私が実際やって見て成功したことなのですが、
(いなかのおばあさんがでんしゃせんろをよこぎろうと、まさにせんろにかたあしをかけたときに、)
田舎のお婆さんが電車線路を横切ろうと、まさに線路に片足をかけた時に、
(むろんそこにはでんしゃばかりでなくじどうしゃやじてんしゃやばしゃやじんりきしゃなどが)
無論そこには電車ばかりでなく自動車や自転車や馬車や人力車などが
(おるようにゆきちがっているのですから、そのおばあさんのあたまはじゅうぶん)
織る様に行き違っているのですから、そのお婆さんの頭は十分
(こんらんしているにそういありません。そのかたあしをかけたせつなに、)
混乱しているに相違ありません。その片足をかけた刹那に、
(きゅうこうでんしゃかなにかがしっぷうのようにやってきておばあさんからにさんげんのところまで)
急行電車か何かが疾風の様にやって来てお婆さんから二三間の所まで
(せまったとかていします。そのさい、おばあさんがそれにきづかないで)
迫ったと仮定します。その際、お婆さんがそれに気附かないで
(そのまませんろをよこぎってしまえばなんのことはないのですが、)
そのまま線路を横切ってしまえば何のことはないのですが、
(だれかがおおきなこえで「おばあさんあぶないっ」とどなりでもしようものなら、)
誰かが大きな声で「お婆さん危ないッ」と怒鳴りでもしようものなら、
(たちまちあわててしまって、そのままつききろうか、いちどあとへひきかえそうかと、)
忽ち慌ててしまって、そのままつき切ろうか、一度後へ引き返そうかと、
(しばらくまごつくにそういありません。そして、もしそのでんしゃが、)
暫くまごつくに相違ありません。そして、もしその電車が、
(あまりまぢかいためにきゅうていしゃもできなかったとしますと、)
余り間近い為に急停車も出来なかったとしますと、
(「おばあさんあぶないっ」というたったひとことが、そのおばあさんにおおけがをさせ、)
「お婆さん危ないッ」というたった一言が、そのお婆さんに大怪我をさせ、
(わるくすればいのちまでもとってしまわないとはかぎりません。)
悪くすれば命までも取ってしまわないとは限りません。
(さきももうしあげましたとおり、わたしはあるときこのほうほうでひとりのいなかものを)
先も申上げました通り、私はある時この方法で一人の田舎者を
(まんまところしてしまったことがありますよ。)
まんまと殺してしまったことがありますよ。
((tしはここでちょっとことばをきって、きみわるくわらった))
(T氏はここでちょっと言葉を切って、気味悪く笑った)
(このばあい「あぶないっ」とこえをかけたわたしはあきらかにさつじんしゃです。)
この場合「危ないッ」と声をかけた私は明らかに殺人者です。
(しかしだれがわたしのさついをうたがいましょう。なんのうらみもないみずしらずのにんげんを、)
しかし誰が私の殺意を疑いましょう。何の恨みもない見ず知らずの人間を、
(たださつじんのきょうみのためばかりに、ころそうとしているおとこがあろうなどと)
ただ殺人の興味の為ばかりに、殺そうとしている男があろうなどと
(そうぞうするひとがありましょうか。それに「あぶないっ」というちゅういのことばは、)
想像する人がありましょうか。それに「危ないッ」という注意の言葉は、
(どんなふうにかいしゃくしてみたって、こういからでたものとしかかんがえられないのです。)
どんな風に解釈して見たって、好意から出たものとしか考えられないのです。
(ひょうめんじょうでは、ししゃからかんしゃされこそすれけっしてうらまれるりゆうがないのです。)
表面上では、死者から感謝されこそすれ決して恨まれる理由がないのです。
(みなさん、なんとあんぜんしごくなさつじんほうではありませんか。)
皆さん、何と安全至極な殺人法ではありませんか。
(よのなかのひとは、あくじはかならずほうりつにふれそうとうのしょばつをうけるものだとしんじて、)
世の中の人は、悪事は必ず法律に触れ相当の処罰を受けるものだと信じて、
(おろかにもあんしんしきっています。だれにしたってほうりつがひとごろしをみのがそうなどとは)
愚かにも安心し切っています。誰にしたって法律が人殺しを見逃そうなどとは
(そうぞうもしないのです。ところがどうでしょう。)
想像もしないのです。ところがどうでしょう。
(いまもうしあげましたふたつのじつれいからるいすいできるような)
今申上げました二つの実例から類推出来る様な
(すこしもほうりつにふれるきづかいのないさつじんほうがかんがえてみれば)
少しも法律に触れる気遣いのない殺人法が考えて見れば
(いくらもあるではありませんか。わたしはこのことにきづいたとき、)
いくらもあるではありませんか。私はこのことに気附いた時、
(よのなかというもののおそろしさにせんりつするよりも、)
世の中というものの恐ろしさに戦慄するよりも、
(そういうざいあくのよちをのこしておいてくれたぞうぶつしゅのよゆうを)
そういう罪悪の余地を残して置いてくれた造物主の余裕を
(このうえもなくゆかいにおもいました。)
此の上もなく愉快に思いました。